新フェーズを迎えた日本:菅首相の「温室効果ガスゼロ宣言」
〔1〕脱炭素社会の実現を目指す
「気候変動アクション日本サミット2020」後、2020年10月26日に召集された、第203臨時国会の所信表明演説注14において、菅義偉首相は、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と、具体的な期日を示して宣言した。これにより、日本のエネルギー政策は、新しいフェーズを迎えたことになった。
この宣言に関して、末吉氏は、これまでの経緯を背景に、次のようなコメントを公表した注15。
〔2〕まず2030年までの国別目標(NDC)の引上げを
「日本政府が、パリ協定実現に必要な2050年までの脱炭素社会の実現を明確な目標として掲げたことを歓迎します。既に気候変動イニシアティブ(JCI)に参加する多くの企業、自治体がこうした目標を決定し行動を開始しており、広範な非政府アクター注16の先駆的な取り組みに、政府も応えたものと考えます。
重要な一歩ですが、問題はこれからです。30年後(編注:2050年)の目標を掲げるだけではなく、2030年までの大幅削減を目指し、具体的なロードマップを定めて、今すぐに行動を強化しなければなりません。
政府には、あらためて、2030年までの国別目標(編注:NDC)を強化し、温室効果ガス排出削減目標を引き上げることを強く求めます。」
末吉氏のコメントに続いて、JCI運営委員会のメンバー団体/協力団体のコメントが発表されている。表5に、その概要を示す。
表5 JCI運営委員会のメンバー団体/協力団体のコメント
出所 https://japanclimate.org/news-topics/japan-carbon-neutral-by-2050/をもとに編集部で作成
〔3〕IGES:日本版グリーンディールが急務
2020年10月28日、IGES(公益財団法人地球環境戦略研究機関)も、次のような趣旨のコメント注17を発表した。
「脱炭素化の方向性と時間軸を明確に示すことは、企業や投資家の長期的視点に立った経営・投資判断を支えることにつながります。また、2050年脱炭素化は、パリ協定が目指す1.5℃目標にも整合する非常に野心的な目標で、総理大臣自らが2050年脱炭素化社会の実現を宣言したことをIGESは大いに歓迎します。
一方で、新型コロナウイルスによって減速した日本経済の立て直しに向けた経済復興策は、欧州における「欧州グリーンディール」のような、経済刺激策を気候変動やその他の環境課題への対策と結び付ける対策が乏しく、令和3年度予算編成におけるグリーンディールの作り込みが急務です(以下略)」。
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「気候変動アクション日本サミット2020」では、COP26の気候行動ハイレベルチャンピオンとして、“Race to Zero”の取り組みを牽引するナイジェル・トッピング氏(英国)、国立環境研究所の江守正多氏をはじめ、日本企業や自治体のトップリーダーらのパネルディスカッションなども行われた。その中でも、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさん(17才)と同世代の岩野さおりさんは、Youth For One Earthのメンバーとして、日本で気候危機に対する若者発のアクションを呼びかける活動を行うなど、日本の次世代層が脱炭素社会への問題意識をもって取り組んでいる点に、日本の未来への希望を感じた。
▼ 注14
首相官邸「第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説」(全文)、令和2(2020)年10月26日
▼ 注15
https://japanclimate.org/news-topics/japan-carbon-neutral-by-2050/
▼ 注16
非政府アクター:Non-State Actors、政府以外の多様な組織のこと。例えば、企業や投資家、自治体、大学、宗教団体、NGOなどの組織のこと。