[【8周年記念】特集]

【気候変動アクション日本サミット2020レポート】脱炭素化への日本の課題

― 「ゼロエミッション」は国家戦略、事業転換しビジネスが変わる ―
2020/11/07
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

「株主第一」から「社会第一」へ

〔1〕社会で働く人や地域、環境が第一

 このような動きをマクロ的に考えると、社会における経済の在り方、あるいは資本主義の在り方の見直しが始まったともいえる。

「1年前の2019年8月に、米国のビジネス・ラウンドテーブル(主要企業の経営者団体)が、企業の責任はʻ株主第一ʼではなくなり、ʻ社会第一ʼと宣言しました。つまり、社会で働く人や地域、環境などが第一なのだ、といったのです。また、サスティナビリティ(Sustainability)分野の著名な専門家である、オックスフォード大学のロバート・エクルズ教授(Professor Robert Eccles)は、株主資本主義の見直しが始まったと発表しました。私がいう“地殻変動”というのは、このようなことを指しているのです」(末吉氏)。

 一方、フランスでは、使命を果たす会社を法律で支えていくという動きが始まっているという。

 この「使命を果たす会社」とは、自社の利益を追求するだけではなくて、社会的責任や環境へも配慮し、かつそれを定款に明記する会社のことである。フランスのDANONE(ダノン。食品関連の多国籍企業)が、その第1号となっている注10

〔2〕私企業が公共的事業も展開へ

 世界のこのような企業の動きは、利益を最優先すべきである私企業が公共的な事業を兼ねて展開し始めた。すなわち「私企業が公共性を帯びていく」という新しい流れが始まったともいえるのだ。

「例えば、グーグルが今年(2020年8月)に出した『サスティナビリティ債券』では、その使い道が、例えば‘Affordable Housing(手ごろな価格で買える住宅)’です。ごく一般の人が手に入れることができる値段の住宅を作る。なぜグーグルがそのようなことをするのでしょうか?そして、アマゾンも同じようなことをいっています」

 末吉氏は、このように、企業が自社のビジネスだけでなく、社会全体を考えてビジネス展開する動きも含め、急速に「地殻変動」が始まっていることをアピールした。

「ゼロエミッション」は国家戦略

〔1〕気になる欧州の「国境炭素調整措置」

 現在迎えている、CO2排出ゼロ、すなわち「ゼロエミッション」を実現するのは、企業(ビジネス)という狭い世界だけで済む話ではなく、国全体に関わる問題となってきている。すなわち、「ゼロエミッション」が国家戦略の一部になってきたのだ。

 欧州は、欧州を世界初の炭素中立の大陸にすることを目指して、世界に先駆けて、欧州グリーンディール(EGD:European Green Deal)注11を、2019年12月19日に発表している。そして、現在、このEGDを構成する欧州気候法注12の審議が進められている(図4)。

図4 欧州を世界初の炭素中立の大陸へ

図4 欧州を世界初の炭素中立の大陸へ

出所 末吉竹次郎、「脱炭素化への日本の課題」、気候変動アクション日本サミット2020、2020年10月13日

 欧州のこのような動きに対して、「私が気にしているのは、例えば国境炭素調整措置(Border Carbon Adjustments)です。きちんとした炭素コストを払っていない国からの輸入には、競争が対等になるように、欧州では輸入製品にこのような調整税をかけるという議論が始まっているのです」(末吉氏)。

〔2〕欧州議会:CO2削減目標を60%に引き上げ

 欧州議会(EU Parliament)は、2020年10月8日、これまで承認されていた「2030年までのCO2排出量の削減目標の40%を、さらに60%削減に引き上げる」ことを承認した。 また、CO2排出量第2位の米国は、(現地時間)2020年11月3日投票の大統領選挙の選挙結果によっては、米国の脱炭素政策が大きく変わることが予測されている。

〔3〕中国は2060年までにCO2排出量ゼロに

 一方、中国の習近平国家主席は、2020年9月22日、国連総会で発表したビデオメッセージで、

  1. 2030年までにCO2排出量を減少に転換させ(ピークアウトさせ)、
  2. 2060年までにCO2排出量をゼロにするカーボンニュートラルを目指す

と表明した(図5)。

図5 中国は2060年までにCO2排出ゼロを表明

図5 中国は2060年までにCO2排出ゼロを表明

出所 末吉竹次郎、「脱炭素化への日本の課題」、気候変動アクション日本サミット2020、2020年10月13日

 現在、中国は世界最大(第1位)のCO2排出国であり、世界全体のCO2排出量(335億トン:2018年)の28.4%(約100億トン)を占めている。

 図6に示すように、2018年時点で、日本は世界第6位(3.2%)のCO2排出国である。また、世界全体のCO2排出量は1990年(205億トン)から2018年(335億トン)にかけて1.6倍以上に増加し、今後、さらに増加すると予測されている。


▼ 注10
「ダノン、上場企業初となる「Entreprise a Mission(使命を果たす会社)」に、2020年6月29日

▼ 注11
欧州グリーンディール:2019年12月19日発表

▼ 注12
欧州気候法(European Climate Law):欧州グリーンディール(EGD:European Green Deal)の一部。2050年までに気候ニュートラルの実現を目指すため、欧州委員会は欧州気候法を提案した、2020年3月4日

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