グーグルの自動運転向けAndroid OS
〔1〕グーグルに追いつくのは大変か
江崎 ところで、CASEやMaaSを実現するうえでAIEVの活躍についても、基調講演の中で紹介されていました。今、注目され関心をもたれている技術、あるいはシナリオの展開に関して、何かありますか。
吉野 自動運転に関するグーグルの動きに注目しています。スマートフォンがここまで普及しグローバルスタンダードになったのは、Android OSを無償で提供したからです。同社は、クルマでも、これと同じ自動運転車向けAndroid OSに挑戦しています。
すでに、グーグルの自動運転技術については、15年も前の2004〜2005年頃から開発が進められていて、かなり賢くなっていますので、グーグルに追いつくのは大変です。なおかつ、それを無償で提供すると宣言しています。ということは、MaaSに関するビジネスが、いかにおいしいビジネスか、ということでもあるのです。
〔2〕日本でもティアフォー(Tier Ⅳ)を設立
江崎 はい。一番おいしいところを海外にもっていかれては困りますが、日本でも、東京大学の加藤真平准教授などがティアフォー(Tier Ⅳ)を設立注8して、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」を開発して公開し、世界に提供しています。
吉野先生のご指摘のように、コネクテッド(Connected)および自動運転(Autonomous)というソフトウェアは、今後、非常に重要な心臓部分となると感じています。
〔3〕川下ビジネスと川上ビジネス
吉野 CASE/MaaS時代のビジネスを成功させるには、ソフトウェアとともに次の2つのことが重要です。
1つは、新しい川下ビジネス注9に、1社でもいいのでGAFA(J-GAFAのような)のような典型的な日本企業を作り、市場に参入していくことです。
もう1つは、川上ビジネスです。これは、クルマそのものを造るモノづくりの基盤をしっかりと作るということです。
基幹部品や基幹材料、基幹OSなども川上ビジネスに含まれます。「基幹」とついた川上製品は日本が最も得意とする分野です。それは、何があっても死守しなければなりません。
今後の展開:脱炭素化は絶好のビジネスチャンス
江崎 自動車産業の基盤インフラを、しっかりと作りなさいということですね。
最後に、吉野先生が、エネルギー業界にどういうことを望まれているか、また期待されているかを、お伺いしたいのですが。
吉野 特に、地球温暖化対策への取り組みが重要です。これまで地球環境問題について、日本の姿勢は、防御的、防衛的な観点から、過去には、世界からまずはそしりを受けないようにする、というスタンスがあったと思います。
今は、パリ協定注10を契機に、国際的な潮流が変わり、また社会構造も大きく変わって脱炭素社会に向かっています。ですから、現在は絶好のビジネスチャンスがたくさん待っています。ただ、いけないことは、このような時に、“何もせずに、ぼやーっと”していたら、完全にビジネスチャンスはなくなってしまうということです。
江崎 脱炭素化をベースに、キチンとしたシナリオと、きちんとした蓄電池やEVなどのデバイスを作っていけば、今後も成長産業になる、そしてその先さらにサステナブルに成長するためには“頭を使いなさい”ということですね。
本日はありがとうございました。
◎プロフィール(敬称略)
吉野 彰(よしの あきら)
工学博士
旭化成株式会社 名誉フェロー
国立研究開発法人産業技術総合研究所 フェロー
兼 エネルギー・環境領域 ゼロエミッション国際共同研究センター センター長
技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター理事長
九州大学 栄誉教授 グリーンテクノロジー研究教育センター訪問教授
名城大学 特別栄誉教授 大学院 理工学研究科 教授
江崎 浩(えさき ひろし)
東京大学大学院理工学系研究科 教授
工学博士(東京大学)
東大グリーンICTプロジェクト代表、日本データセンター協会 理事/運営委員会委員長
WIDEプロジェクト代表、MPLS-JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)副理事長
ISOC理事(Board of Trustee, Internet Society)、IPv6 Forum Fellow
▼ 注8
ティアフォー(Tier Ⅳ):2015年12月設立。従業員は2020年10月現在で200名以上。世界初の自動運転のオープンソースソフトウェア「Autoware」を開発し、2018年12月に「The Autoware Foundation」を設立している。資金調達は2020年8月現在で累計175億円。
▼ 注9
川下ビジネス:従来の自動車販売というハードを売るビジネスのこと。CASE/MaaS時代の川下ビジネスは、自動運転やシェアリングなどソフト面が強い川下ビジネスが求められる。
▼ 注10
パリ協定:フランス・パリで開催されたCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議、2015年11月30日〜12月13日)で採択された、地球温暖化対策(温室効果ガス排出削減等)の新しい新たな国際枠組み。2016年11月に発効し、2020年1月から始動した。世界の平均気温の上昇を産業革命(1750年前後)以前に比べて2℃以下に抑え(できれば1.5℃に抑える)、21世紀の後半には温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標としている。