[【8周年記念】特集]

大規模蓄電池化の技術課題と今後の展望

SmartGridフォーラム2020レポート【吉野 彰 氏(旭化成 ノーベル化学賞受賞者) × 江崎 浩 氏(東京大学 SmartGridニューズレター編集委員長)】
2020/12/10
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ボランティアではなくビジネスなのです

〔1〕一括管理する専門の会社が登場する

吉野 電力利用を目的にクルマ(蓄電池)を使おうとしますと、個人のクルマではできません。だれかが一括管理していて、電力が不足してきたら一斉に指令を出し、クルマが一斉に放電に向かうように制御しなくてはなりません。

 これはまさに、CASEに相当するようなクルマができて、初めて実現できるのです。個人のクルマですと、(インセンティブを用意していても)「ご協力いただける方はお願いします」という、ボランティアのようになってしまうからです。

 そこで、あえて言えば、一括管理・制御することを専門に行う新しい会社ができるかもしれません。EVを充電したり放電したりする時には、必ず両者に「差」が発生します。そこにビジネスがあるのです。

 例えば、深夜に余っている安い電気を買って充電する、これは電力会社が喜びます。昼間に電気が足りなくなったら放電して電気を売る、これも電力会社は喜びます。これはまさに、ボランティアではなくビジネスなのです。

江崎 今のお話はとても面白いと思います。例えば、ある自動車会社が年間100万台のEVを造っているとします。その会社に積立金(キャッシュフロー)があるとすると、1年くらいかけて、自分たちでシェアリングエコノミー用のクルマのインフラを作ってしまえば、新しいビジネスができますよね。

〔2〕CASEからMaaSへの移行

吉野 ええ、それは、まさにCASEからMaaSへの領域になってきます。ですから自動車産業はそれ(MaaS)を行わないと、これからのビジネスが立ち行かないと思います。

 これは、図3に示すように、まさに、自動車産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX、自動車会社が製造業からサービス業へ移行すること)とも言われているところです。

図3 自動車産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)

図3 自動車産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)

DX:Digital Transformation、デジタル技術による企業や産業の変革
CASE:Connected:IoT接続、Autonomous:自動運転、Shared & Services:共有、Electric:電動化、の頭文字をとった造語。従来の自動車メーカーが、カー・カンパニーからモビリティ・カンパニー(すなわち製造業からサービス業)へシフトするという戦略。2016年にメルセデス・ベンツが発表したコンセプト。
MaaS:Mobility as a Service、「移動(モビリティ)」することをサービスとして提供すること。自動車だけでなく、自転車や公共交通(電車、バス等)などによる移動も含む。
出所 各種資料をもとに編集部で作成

〔3〕蓄電池の寿命は5年

江崎 そうすると、どの自動車会社も新しいビジネスモデルができますね。その時の投資がどれくらいのスパンで回るかが重要となりますが、先生がおっしゃった、シェアリングエコノミーでビジネスしていく場合、例えばEVの蓄電池の寿命、すなわち減価償却期間は、どの程度に見ておけばよろしいのでしょうか?

吉野 シェアリングエコノミーの場合は、自家用車と違ってEV(蓄電池)は、厳しいフル稼働状態となりますので、償却(蓄電池の交換)は5年くらいと見ています。5年ですとEVは約60万km程度走行していますね。

江崎 5年くらいで償却することをベースに、ビジネスモデルができるということですね。

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