LIBに期待される役割:2025年、EV向けLIB市場はモバイルIT市場の10倍に
写真 旭化成株式会社 名誉フェロー、吉野 彰(よしの あきら)氏、2019年ノーベル化学賞受賞
出所 編集部撮影
基調講演の冒頭、「2019年に、私を含めた3人でノーベル化学賞を受賞注1しましたが、その理由は大きく2つあります」と吉野氏は語り始めた(写真)。
受賞理由の1つ目は、LIBの発明が現在のモバイルIT社会の実現に大きな役割を果たしたこと。実際に、ノートパソコンやスマートフォンなどの電源として、LIBは今や欠かせない存在となり、世界中に普及し利用されている。
そして2つ目が、今後のサステナブル社会実現に向けての期待だ。LIBは、モバイルITという新たな社会構築の推進役となり、同時に、カーボンフリーをはじめとする社会変革推進の原動力の1つとしても期待されている。これを吉野氏は「LIBが起こすエネルギー革命」として、ET革命(Energy & Environment Technology)と呼んでいる。
ちなみに、LIBは今やEV(Electric Vehicle、電気自動車。以下「EV」)向けの出荷がメインとなっている。EV向け市場規模は、販売容量ベースで2019年にモバイルIT向けを逆転し、5年後の2025年には、モバイルIT向けの約10倍に成長すると予測されている(図1)。そこまで市場拡大しても、EVの普及は全新車販売台数の15%程度で、まだET革命の準備段階に過ぎない。
図1 LIB市場の成長予想(〜2025年)
出所 吉野 彰、「リチウムイオン電池が拓く未来社会」、インプレス SmartGridフォーラム2020、2020年11月5日
「走る蓄電池」としての役割
来たるべきET革命で、LIBはどのような役割を果たすのか。吉野氏は「走る蓄電池」の機能を挙げる。
2025年以降、EVが積載しているLIBの総容量(総充電容量)は、全世界で2,500GWh注2に達すると見込まれ、そのうちの10%が日本国内にあると想定すると250GWhとなる。現在、発電所の発電量の目安として「1GWh」という単位が使用されるが、この250GWhという数字は、日本全国に1基1GWの発電能力をもつ発電所が250基あり、その250基の発電所を1時間(1hour)稼働させた電力量(250基×1GW×1hour)に匹敵する大きさである。
さらに今後、再生可能エネルギーの発電量が増加すると、太陽光発電が機能しない夜間に発電量が足りなくなるという、現在とは昼夜逆転の発電状況が予測される。その際の電力供給源として、250GWhという容量は25基の発電所で約10時間分(25基×1GW×10時間=250GWh)の発電量に相当するため、LIBを搭載したEVは、夜間に不足しがちな電力供給を補う役割として期待できる。
しかも、これらのLIBはEV向けとして普及するため、蓄電システムとしてのコスト負担はゼロで、このメリットも大きい。
▼ 注1
吉野氏のほか、ジョン・グッドイ
ナフ氏(John Goodenough、米国テキサス大学オースティン校教授)、スタンリー・ウィッティンガム氏(Stanley Whittingham、米国ニューヨーク州立大学ビンガムトン校教授)が受賞。
▼ 注2
GWh:ギガワットアワー、1時間あたりの電力量で、100万kWhに相当。すなわち、出力1GW(=100万kW)の発電能力をもつ発電所を1時間(1hour)稼働させたときの電力量(1GW×1hour=100万kWh)のこと。