[【8周年記念】特集]

リチウムイオン電池が拓く未来社会

SmartGridフォーラム2020レポート【ノーベル化学賞受賞者 吉野 彰 氏 基調講演】
2020/12/10
(木)
篠田 哲 株式会社クリエイターズギルド

進展している地球温暖化を食い止めるべく温室効果ガス排出の削減、ひいては脱炭素、サステナブル社会への変革が急がれている。その動きを推進するキーテクノロジーの1つとして期待されているのがリチウムイオン電池(Lithium Ion Battery:LIB、以下「LIB」)だ。2019年には、発明者のひとりである吉野 彰 氏(旭化成株式会社 名誉フェロー)がノーベル化学賞を受賞し、一躍注目を集めた。
LIBはどのようなポテンシャルをもち、サステナブル社会の実現にどのように貢献していくのか。吉野氏のオープニング基調講演をレポートする。

LIBに期待される役割:2025年、EV向けLIB市場はモバイルIT市場の10倍に

写真 旭化成株式会社 名誉フェロー、吉野 彰(よしの あきら)氏、2019年ノーベル化学賞受賞

写真 旭化成株式会社 名誉フェロー、吉野 彰(よしの あきら)氏、2019年ノーベル化学賞受賞

出所 編集部撮影

 基調講演の冒頭、「2019年に、私を含めた3人でノーベル化学賞を受賞注1しましたが、その理由は大きく2つあります」と吉野氏は語り始めた(写真)。

 受賞理由の1つ目は、LIBの発明が現在のモバイルIT社会の実現に大きな役割を果たしたこと。実際に、ノートパソコンやスマートフォンなどの電源として、LIBは今や欠かせない存在となり、世界中に普及し利用されている。

 そして2つ目が、今後のサステナブル社会実現に向けての期待だ。LIBは、モバイルITという新たな社会構築の推進役となり、同時に、カーボンフリーをはじめとする社会変革推進の原動力の1つとしても期待されている。これを吉野氏は「LIBが起こすエネルギー革命」として、ET革命(Energy & Environment Technology)と呼んでいる。

 ちなみに、LIBは今やEV(Electric Vehicle、電気自動車。以下「EV」)向けの出荷がメインとなっている。EV向け市場規模は、販売容量ベースで2019年にモバイルIT向けを逆転し、5年後の2025年には、モバイルIT向けの約10倍に成長すると予測されている(図1)。そこまで市場拡大しても、EVの普及は全新車販売台数の15%程度で、まだET革命の準備段階に過ぎない。

図1 LIB市場の成長予想(〜2025年)

図1 LIB市場の成長予想(〜2025年)

出所 吉野 彰、「リチウムイオン電池が拓く未来社会」、インプレス SmartGridフォーラム2020、2020年11月5日

「走る蓄電池」としての役割

 来たるべきET革命で、LIBはどのような役割を果たすのか。吉野氏は「走る蓄電池」の機能を挙げる。

 2025年以降、EVが積載しているLIBの総容量(総充電容量)は、全世界で2,500GWh注2に達すると見込まれ、そのうちの10%が日本国内にあると想定すると250GWhとなる。現在、発電所の発電量の目安として「1GWh」という単位が使用されるが、この250GWhという数字は、日本全国に1基1GWの発電能力をもつ発電所が250基あり、その250基の発電所を1時間(1hour)稼働させた電力量(250基×1GW×1hour)に匹敵する大きさである。

 さらに今後、再生可能エネルギーの発電量が増加すると、太陽光発電が機能しない夜間に発電量が足りなくなるという、現在とは昼夜逆転の発電状況が予測される。その際の電力供給源として、250GWhという容量は25基の発電所で約10時間分(25基×1GW×10時間=250GWh)の発電量に相当するため、LIBを搭載したEVは、夜間に不足しがちな電力供給を補う役割として期待できる。

 しかも、これらのLIBはEV向けとして普及するため、蓄電システムとしてのコスト負担はゼロで、このメリットも大きい。


▼ 注1
吉野氏のほか、ジョン・グッドイ
ナフ氏(John Goodenough、米国テキサス大学オースティン校教授)、スタンリー・ウィッティンガム氏(Stanley Whittingham、米国ニューヨーク州立大学ビンガムトン校教授)が受賞。

▼ 注2
GWh:ギガワットアワー、1時間あたりの電力量で、100万kWhに相当。すなわち、出力1GW(=100万kW)の発電能力をもつ発電所を1時間(1hour)稼働させたときの電力量(1GW×1hour=100万kWh)のこと。

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