[特集]

【第9回 IEA Windセミナーレポート】風力発電の大量導入時のエネルギーシステム

― 重要な「柔軟性」(フレキシビリティ)という指標 ―
2021/03/07
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

電力系統の柔軟性リソースの最適利用

 電力系統の柔軟性を実現するうえで、どのように既存の柔軟性リソースを賢く最適に利用すればいいのだろうか。利用方法についてのステップを図9で説明する。

図9 電力系統の柔軟性リソースの最適利用

図9 電力系統の柔軟性リソースの最適利用

ディスパッチ可能な電源:制御可能な電源(水力やコージェネレーション等の電源)のこと
VRE:Variable Renewable Energy、変動する再生可能エネルギー(変動電源ともいわれる)
出所 安田 陽「Task 25:風力発電大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用」、第9回IEA Windセミナー、2021年2月16日

  1. ステップ1:図9上部の4項目から、柔軟性リソースを特定する。
  2. ステップ2:現在、既存のシステムの中で、利用できる柔軟性リソースがどれくらいあるかを調べる。また、将来、風力や太陽光発電をどれくらい導入するかを検討する。
  3. ステップ3:どのくらいの柔軟性が必要かを検討する。
  4. ステップ4:柔軟性リソースの必要量との利用可能量を比較する。

 以上のステップを踏んで、既存の柔軟性リソースを最適に利用し、不足していればいつまでに何を追加するかを決めて導入する。

「現在ある私たちがもっているシステムの中で、どれくらい柔軟性を発揮できるリソースがあるのか、まずかき集める。何とか現在あるものでやりくりをして、足りなければいつまでに何を追加すべきか、ということなのです」と安田氏は語る。

 柔軟性のコンセプトができたのは2011年で、東日本大震災で福島第一原発事故が発生した年だという。

「今からちょうど10年前に、IEAではこのようなコンセプトが提唱されていたのです。残念ながら、このIEAの報告書は翻訳されていないので、私自身は、まだこのコンセプト(既存のアセットから賢く利用するという発想)が日本の中で抜け落ちているという危惧を覚えております。それゆえに、風力や太陽光は不安定でバックアップ電源が必要だとか、蓄電池が必要だ、という短絡的な発想に立ってしまう。ぜひ最先端の国際議論をウォッチしながら、日本の電力系統において、どのような柔軟性リソースがあるかを考えて調査し、運用していくことを議論していただければと思います」と、安田氏は柔軟性リソースの最適利用についての重要性を説いた。

風力発電がCO2排出量に与える影響

 世界中がカーボンニュートラル(脱炭素)を目指している中で、風力発電がCO2排出量に与える影響について、安田氏は図10を参照して、次のように述べた。

図10 ファクトシートNo.5「風力発電がCO2排出量に与える影響」

図10 ファクトシートNo.5「風力発電がCO2排出量に与える影響」

[出典]IEA Wind Task 25: ファクトシート No.5「風力発電がCO2排出量に与える影響」(2020)
出所 安田 陽、「Task 25:風力発電大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用」、第9回IEA Windセミナー、2021年2月16日

「ファクトシートNo.5(風力発電がCO2排出量に与える影響)注15についてですが、再エネがたくさん入るとその調整のために火力発電所をたくさん建てなくていけなくて、かえってCO2が増えるという話も聞かれたりします。先に説明した‘柔軟性’という概念が欠如してしまうと、どうしてもこのようなことに陥りがちです。しかし、実際にさまざまな論文を調査したところ、図10の右欄に示すように、電力の需給調整の増減によるCO2排出量はほとんど無視できる範囲です。また、図10の左欄に示すように、再エネが入ると非常に大きなCO2排出量の低減効果(29〜34%削減。NOxもSO2も削減)があります。」

 また、安田氏は需給調整の増加による影響について、「図10の右欄に示すようにSO2は少し増えてしまうかもしれませんが、全体の削減量に比べると非常に少ないというエビデンスベースの調査(科学的根拠に基づいた調査)ができています」と語った。

日本からの情報を世界へ発信

 講演では、「ファクトシートNo.6:系統安定度への影響(風力や太陽光の電力系統の安定化技術)」や「ファクトシートNo.8:風力発電と系統増強(送電線の増強は電力系統全体に便益をもたらすこと等)」などについても解説があったが、誌面の都合で割愛した。

 安田氏は、最後に、「再エネの系統連系に関する情報やその概念については、依然として日本と世界では乖離していると思われます。そういう点で、Task25から得られる情報は非常に貴重ですので、さらに一般の方々や、政策決定者やジャーナリストの方々にも知っていただくために、翻訳作業なども進めていきたいと思います。同時に、日本から海外に発信できる情報も少しずつ積み上がっていますので、そのようなものも私たち専門委員を通じて、世界に発信していきたいと考えています」と講演を締めくくった。


▼ 注15
https://www.nedo.go.jp/library/ZZFF_100033.htmlこのうちの、Task25FactSheet05EmissionsJPを参照のこと。

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