[特集]

【第9回 IEA Windセミナーレポート】風力発電の大量導入時のエネルギーシステム

― 重要な「柔軟性」(フレキシビリティ)という指標 ―
2021/03/07
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

風力発電を大量導入した場合の電力系統への影響

 京都大学大学院 経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授の安田 陽(やすだ よう)氏は、「Task 25(第25部会):風力発電大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用」注6と題して講演を行った。

 Task 25注7は、特に欧州や北米では、風力発電が再生可能エネルギー(以下、再エネ)の中で最も導入が拡大しているため、風力発電の大量導入があった場合に電力系統にどう影響を与えるか、風力発電の導入を促進するためにはどうすべきか、などについて、10数年来活動をしている。その成果は、前出の図2に示す国内委員会に報告、発表されている。

 Task 25を構成するメンバー注8は、風力発電の専門家というよりも欧州や北米の送電事業者(TSO:Transmission System Operator)などの電力関係の実務者が多い。

 講演では、安田氏はTask 25の歴史的な活動の経緯(第1期〜第6期:2006年〜2020年)を紹介していたが、ここでは誌面の都合で割愛する。以降は、風力発電の予測技術や出力抑制、電力系統における柔軟性(フレキシビリティ)などの話題を中心に紹介する。

急速に進む風力発電の予測技術の向上

〔1〕短時間市場では電力量の予測は十分に可能

 風力発電や太陽光発電などの再エネ電力は、「天候に左右されるため当てにならない」「再エネ電力が系統に入ってくると停電になる」などの言説がいまだに日本でもある。しかし、欧州や北米の実績では、予測技術がどんどん向上してきている。

 図5は、風力発電量の予測技術の向上の例を示したものである。

図5 風力発電予測技術の向上(2008~2017年)

図5 風力発電予測技術の向上(2008~2017年)

SIPREOLICO:風力発電所の発電量予測システム(スペインのRED ELECTRICA社が開発)
(source) IEA Wind Task25: Design and operation of power systems with large amounts of wind power, Final summary report, IEA Wind Task25, Phase 2015-2017 (2019)
出所 安田 陽、「Task 25:風力発電大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用」、第9回IEA Wind セミナー(2021年2月16日)をもとに編集部で一部加筆・修正

 図5の縦軸は予測誤差を示す。最上部の緑線は2008年、下向き矢印下部の紫線は2017年のものである。それぞれのグラフ曲線から、再エネ電力量の予測技術は年々精度が上がっていることがわかる。

 重要なのは横軸の「電力の実供給までの予測時間」である。48時間前(2日前)あるいは24時間前(1日前)では、それなりに予測誤差はある。しかし、電力の実供給までの予測時間が4時間前や1時間前の短時間市場になると、予測誤差は非常に小さくなる(図5左に示す赤い矢印)。このことから、短時間の場合には発電量の予測はしやすくなるといえる。

「日本では、気象予測の精度を上げるためにアルゴリズム(解決手法)などの技術を開発しようということになり、それは重要なことですが、海外の事例を見ると、短い予測時間で誤差が下がるのであれば、取引市場の締切り時間を短くするなどの仕組みづくりや制度を変更するほうが有効ではないかなど、いろいろな研究や実証結果が報告されています」(安田氏)。

〔2〕風力発電に関する出力抑制の国際動向

 安田氏は、自身も調査に参加して行った、図6の海外の風力発電に関する出力抑制の国際比較について、次のように述べた。

図6 風力発電における出力抑制の国際比較

図6 風力発電における出力抑制の国際比較

IT:イタリア、UK:英国、DE:ドイツ、ES:スペイン、IE:アイルランド、PT:ポルトガル
Inner Mongoria(内モンゴル)、Gansu(中国・甘粛省)、All China(全中国)
出所 安田 陽「Task 25:風力発電大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用」、第9回IEA Wind セミナー(2021年2月16日)をもとに編集部で一部加筆・修正

「欧州では、法令でも定められていることもあり、出力抑制が5%以内に収まるようにという努力が進んでいます。このため、図6の横軸に示す風力の導入率(MWhの%あるいはGWhの%)を見ると、20〜25%という高い風力発電の導入率を誇る図6上図中央のアイルランド(IE2016)やポルトガル(PT2014)のケースでも、出力抑制率は、大体5%以内に収まっていることが見てと取れます。」

 さらに、「面白いことに、昔のイタリアの図6上図左側のIT2009→IT2015、米国テキサス州にある電力網を運営する図6下左側のERCOT注9の2009→2014、中国・内モンゴルの図6下右図の2010→2014、などのケースに見られるように、過去に非常に高い出力抑制をしていたことがわかります。いずれもさまざまな対策を打つことで急速に出力の抑制率を減らしています」と続けた。

 このような国際的な動向を見ると、気象環境も電力系統もそれぞれ異なるが、いろいろな対策を打つことによって、出力抑制はある程度軽減できることが、国際分析によりわかってきている。

 ここまでは、Task 25のこれまでの活動内容のトピック例を紹介した。次に、Task 25の成果物や2020年度の主な活動内容を紹介する。


▼ 注6
https://www.nedo.go.jp/content/100923371.pdf

▼ 注7
以前のTask25は、「風力発電大量導入時の電力系統の設計と運用」であったが、2021年から新しいフェーズになり、「風力発電大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用」に変更になった。

▼ 注8
カナダ(2Hydro-Quebec)、デンマーク(Energinet.dk)、ドイツ(TenneT)、フランス(RTE)、イタリア(Terna)などから24カ国が参加。日本からは、近藤 潤次氏(東京理科大)が2009年から、安田 陽氏(京都大学)が2010年から、田辺 隆也氏(東京電力/電力中央研究所)が2014年から、荻本 和彦氏(東京大学)と辻 隆男氏(横浜国立大学)が2020年から専門委員として、電力系統の専門家である各氏が参加し、日本と海外の橋渡しをしている。

▼ 注9
ERCOT:Electric Reliability Council of Texas、電気信頼性評議会

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