[特集]

【第9回 IEA Windセミナーレポート】風力発電の大量導入時のエネルギーシステム

― 重要な「柔軟性」(フレキシビリティ)という指標 ―
2021/03/07
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

2020年10月に公開されたTask 25の成果物

 IEA Windセミナーでは、2020年10月に公開されたTask 25の成果物〔日本語訳ファクトシート(No.1〜No.9)〕注10が披露された。図7に、ファクトシートの例と外観を示す。

図7 ファクトシートNo.1のタイトル(左)と9つのファクトシートNo.1〜No.9の外観

図7 ファクトシートNo.1のタイトル(左)と9つのファクトシートNo.1〜No.9の外観

※日本語翻訳版は2020年9月に発行、10月に公開。
出所 https://www.nedo.go.jp/content/100923371.pdf および、安田 陽「Task 25:風力発電大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用」、第9回IEA Wind セミナー、2021年2月16日

「これらのファクトシートに載っている内容こそが、Task 25で10年以上にわたった調査研究の成果なのです。特に日本において、前述したように、再エネは役に立たないとか、たくさん導入されると停電になってしまうといった、必ずしも科学技術に基づかない誤解に対して、実際には各国の研究・実証ではこうなっています、ということをわかりやすくお伝えするために作成された内容になっています」と安田氏は説明する。

 以降では、ファクトシートNo.1から、いくつかのトピックを紹介する。

電力系統と柔軟性の関係

〔1〕焦点となってきた柔軟性の選択と確保

 ファクトシートNo.1は、風力・太陽光発電の系統連携に関する総論となっているが、その中から一部重要な図を図8に示す。

図8 ファクトシート No.1「風力・太陽光発電の系統連系」

図8 ファクトシート No.1「風力・太陽光発電の系統連系」

[出典]IEA Wind Task 25: ファクトシート No.1「風力・太陽光発電の系統連系」(2020)
出所 安田 陽、「Task 25:風力発電大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用」、第99回IEA Windセミナー、2021年2月16日

 図8は、風力発電や太陽光発電などの再エネの導入率と、電力系統との連系における柔軟性の関係を示したものである。横軸に風力・太陽光発電の導入率の高低を、縦軸に導入コストの高低を示す。

 欧州の風力発電の導入率は、高い国で20%〜30%であり、特にデンマークでは50%近くに達している。しかし、今後も風力・太陽光発電がどんどん導入されていくときに、系統連携に対してどのような対策を打っていけばよいのか。特に、後述する、柔軟性(フレキシビリティ)をどう確保したらよいかなどが、導入に関する議論の焦点となってきている。

〔2〕具体的に見る風力・太陽光発電の系統連系

 図8の上部の緑色部分は「供給側の柔軟性とその優先順位」、下部の橙色部分は「他の柔軟性の選択肢その優先順位」を示している。

「日本では、太陽光や風力発電などの変動する再エネに対応する際には、蓄電池の必要性が真っ先に議論されがちです。しかし、世界的に各国・地域で稼働している多様な電力系統について、さまざまな気象条件や法令を調べた結果から見ると、蓄電池は最初の手段ではないのです。図8に「蓄電池の選択は最後の手段」と書いていますが、そういったことが明らかになりました(図8のさらに先に水素などもありますが)」と安田氏は説明する。

 図8に示すように、まずは現在所有している、従来の貯水式のダムのある水力発電を使う。その次に揚水発電を使う。さらに続いて、熱貯蔵やコジェネを使う、という順に対応していく(残念ながら日本では少ないが、デンマークやドイツでは盛んであるという)。

「日本では、「風力・太陽光の出力抑制」(図8)は悪者かのように言われがちですが(もちろん出力抑制が多い場合はファイナンスとしてリスクになりますが)、前出の図6に示したように、出力抑制が5%程度というある一定の枠組みに収まる場合は、むしろ出力抑制は積極的に使う手段の1つでもあるということが、私たちの調査から明らかになっています」、さらに、「再エネ側の努力だけではなくて、図8の下側の橙色部分に示すように、当日市場や出力予測の精度を向上させる。送電線を新設して広域需給調整をする。このような施策は日本でも少しずつ進んでいますが、そういった系統の受入側の仕組みや制度を変える方法も、コストを低くできることが明らかになっています。さらには、デマンドレスポンス(DR)注11も活用し、最終的にこれからは、電気自動車なども選択肢に入ってくるのです」(安田氏)。

電力系統の「柔軟性」とは何か

 再エネの大量導入のための重要な指標である「柔軟性」(フレキシビリティ)とは何か。ここではこの「柔軟性」についてみてみよう。

 安田氏は、「現在、世界では、柔軟性という言葉が活発に議論されています。日本でも経済産業省や広域機関注12などで少しずつ柔軟性という言葉が使用されるようになってきました」と語る。

 柔軟性とは、「電力系統の変動に対応して、需給バランスを維持するための能力」のことである。具体的には、①調整力のある電源、②エネルギー貯蔵装置、③連系線、④デマンドレスポンスなどの柔軟性リソースがある。

 次に、それぞれについて簡単に紹介する。

〔1〕調整力のある電源

 従来、風力や太陽光発電を調整するのは火力発電注13だといわれていたが、柔軟性という新しい概念(調整力の上位概念に相当)が打ち出され、調整するためにいろいろな手段(調整力)が登場している。

 例えば、調整力のある電源として、水力発電(貯水式水力発電)注14やコジェネ、コンバイインドサイクル(CCGT。ガス発電)などがある。

〔2〕エネルギー貯蔵装置

 エネルギー貯蔵装置としては、まず揚水発電があり、次に蓄電池がある。

〔3〕連系線やデマンドレスポンス(DR)

 連系線は発電システムではないが、隣のエリア(例えば関西電力エリアと中部電力エリアなど)と協調することによって、より電力系統の柔軟性を出すことも可能である。

 さらに、デマンドレスポンスとして電気自動車などの車載蓄電池なども期待ができる。

〔4〕蓄電池と電気自動車

 ここで安田氏は、柔軟性を実現するうえで、蓄電池と電気自動車の違いを次のように解説した。

「蓄電池と電気自動車でどこが違うかというと、電気自動車の本来の仕事は人や物を輸送することです。ですから、輸送が最初の仕事であって、止まっている間に電力系統を助けるのはどちらかといえばアルバイトになります。電力系統側からすれば、電気自動車は設備投資がほぼゼロ(電気自動車のオーナーが自前で購入しているため)で使える、非常に有効なデバイスです。蓄電池そのものを単独で購入すると高いかもしれませんが、電気自動車に搭載された蓄電池を電力系統を助けることに使うことができれば、非常に大きなアドバンテージになります。」


▼ 注10
IEA Wind TCP Task 25 Factsheet:国際エネルギー機関風力技術協力プログラム第25部会 ファクトシート。日本語翻訳版9つ(ファクトシートNo.1〜No.9)を、2020年10に公開された一般向けのリーフレットのようなもの(各A4サイズ。2〜4ページ程度。5〜10分程度で読むことができる)。

▼ 注11
デマンドレスポンス(DR):Demand Response、電力の需要家側応答。
需要家側のエネルギー資源の保有者もしくは第三者(例:アグリゲーター)が、需要家側のエネルギー資源を制御することによって、電力需要パターンを変化させること。例えば、需要家側が契約しているアグリゲーターの要請に応じて、夏の冷房温度を上げたり下げたりして、電力の需要を調整する(変化させる)ことなど。

▼ 注12
広域機関:電力広域的運営推進機関の略称。Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN(OCCTO)。2015年4月に発足。

▼ 注13
火力発電は、燃料の投入量を変化させること等によって、出力を容易に制御できる電源である。天候などの要因によって太陽光や風力などの再エネ由来の電力が計画通りに発電ができず、供給力が不足して需給バランスが崩れるといった場合には、火力発電による出力を増加させること(調整力)によって、需給バランスを調整している。

▼ 注14
貯水式水力発電:河川をダムでせき止め、ダムに溜まった水を発電用に用いる水力発電方式。

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