[特集]

【第9回 IEA Windセミナーレポート】風力発電の大量導入時のエネルギーシステム

― 重要な「柔軟性」(フレキシビリティ)という指標 ―
2021/03/07
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

日本政府は、2020年7月、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」を設立した。同協議会の第2回会議では、洋上風力産業ビジョン(第1次案)を策定し、洋上風力に関して、2030年までに1,000万kW(10GW)、2040年までに最大4,500万kW(45GW)の導入目標を発表した(注1)。このため、日本の「2050年カーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)」の実現に向けて、洋上風力発電ビジネスへの期待が高まっている。そのような中、2021年2月16日、国際エネルギー機関(IEA)の下にある「IEA Wind国内委員会」と「NEDO」(注2)の共催で、「第9回 IEA Windセミナー」が開催された(表1)。
ここでは、同セミナーの講演から、主に、IEA(国際エネルギー機関)およびIEA Wind国内委員会の活動内容と、風力発電を大量導入した場合のエネルギーシステム(電力系統)への影響についてレポートする。

IEAとIEA Wind、IEA Wind国内委員会

〔1〕IEAのプロフィール

 最初に登壇した、NEDO 新エネルギー部 風力・海洋グループ 渡部 良朋(わたなべよしとも)氏は、「IAE Windの取組概要」と題して講演を行った。その講演内容をもとに、IEAおよびIEA Wind日本国内委員会について簡単に紹介する

表1 「第9回 IEA Windセミナー」プログラムの概要(2021年2月16日、オンライン開催)

表1 「第9回 IEA Windセミナー」プログラムの概要(2021年2月16日、オンライン開催)

出所 IEA Wind国内委員会「第9回 IEA Windセミナー開催のご案内」をもとに編集部で作成

 IEAは、1974年にOECD(経済協力開発機構)の枠内における自律的な機関として、第1次石油危機後の1974年に設立された。その主な目的は、

  1. エネルギー安全保障の確保(Energy Security)
  2. 経済成長(Economic Development)
  3. 環境保護(Environmental Awareness)
  4. 世界的なエンゲージメント(Engagement Worldwide)

という「4つのE」で、現在世界の30カ国注3が参加し、エネルギー政策全般をカバーする組織となっている(表2)。

表2 IEA(国際エネルギー機関)のプロフィール

表2 IEA(国際エネルギー機関)のプロフィール

出所 NEDO「IEA Windの取組概要」、第9回 IEA Windセミナー(2021年2月16日)をもとに編集部で作成

 IEAの主な活動分野は、石油・ガス供給途絶などの緊急時への準備・対応や市場分析をはじめ、エネルギーの中長期の需給見通しや、電力セキュリティ、エネルギー技術・開発の協力、非メンバー国との協力などに注力している。

〔2〕IEAの組織構成

 IEAは、図1に示すような組織構成で、毎年、国際的に定評のある年次報告書『World Energy Outlook 2020』(世界エネルギー展望 2020)などを発行している。

図1 IEAの組織構成の概要

図1 IEAの組織構成の概要

出所 各種資料をもとに編集部で作成

 「IEA Wind」とは、図1に示すように、IEAの下に設置(1977年)されている、38個のTCP(IEA Collaboration Programmes、IEA技術協力プログラム)のうちの1つで、風力(Wind)に関する技術協力プログラム(IEA Wind TCP)のことである注4

 渡部氏は、「IEA Wind TCPの成果(技術推奨基準)は、IEC(国際電気標準会議)国際規格に発展するケースが多く、日本の実情にあった有利な国際標準を策定できるメリットがあります。このため、日本はNEDOのマネージメントのもとにIEA Windに参加しています」と述べた。

 IECとIEA Windは、それぞれ独立した体制・組織として活動しているが、技術的には相互補完的関係となっている。

〔3〕IEA Wind日本国内委員会

 IEA Windの参加国(あるいは機関)は、各Taskで具体的な活動を行い、協力R&D(研究開発)に取り組んでいる。

 IEA Wind日本国内委員会は、図2に示すように、IEA Wind TCPの下に位置している。

図2 IEA Windの日本国内委員会の構成(日本は17Taskのうち8Taskに参加)

図2 IEA Windの日本国内委員会の構成(日本は17Taskのうち8Taskに参加)

ExCox:Executive Committee、執行委員会(年2回)
Task:参加国(機関)が協力する研究開発に関する部会(上記Taskは2020年12月時点)
出所 NEDO、「IEA Windの取組概要」、第9回 IEA Wind セミナー、2021年2月16日

「2020年12月時点で、IEA Wind TCPでは、17のTaskが実施中ですが、日本は図2の下段に示す8つのTaskに参加しています。このうちTask40注5は、日本から提案して設立された日本主導のTaskとなっています」(渡部氏)。

図3 IEA Wind TCPの『年次報告書 2019』の表紙(2020年11月発行、全54頁)

図3 IEA Wind TCPの『年次報告書 2019』の表紙(2020年11月発行、全54頁)

出所 https://www.epaper.dk/steppaper/iea2/iea-wind-a-rsrapport-2019/

〔4〕IEA Wind TCPの成果

 IEA Wind TCPでは、年次報告書を毎年発行している。図3は、最新の2019年版年次報告書『IEA Wind TCP Annual Report 2019』(2020年11月発行)の表紙である。

 同報告書には、図4に示す「IEA Wind加盟国(24カ国)の風力発電の設置状況」(2019年末時点)なども紹介されており、世界の風力発電の取り組み状況が俯瞰できる。

 図4に示すように、2019年末までに導入されたIEA Wind TCP加盟国(24カ国)の風力発電容量は「549.1GW」であり、世界規模の「650.1GW」の84.5%(=549.1GW÷650.1GW)と、高い比率を占めている。

図4 IEA Wind加盟国(24カ国)の風力発電の設置状況(2019年末時点)

図4 IEA Wind加盟国(24カ国)の風力発電の設置状況(2019年末時点)

[出典]IEA Wind TCP「Annual Report 2019」、2020年11月発行)
https://community.ieawind.org/home 出所 NEDO、「IEA Windの取組概要」、第9回 IEA Windセミナー、2021年2月16日


▼ 注1
洋上風力産業ビジョン(第1次)(案)、令和2(2020)年12月15日

▼ 注2
NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(IEA Windの締約機関)

▼ 注3
IEA加盟国一覧

▼ 注4
他に、太陽光に関する「PVPS TCP」や水力に関する「Hydropower TCP」など38個のTCPがある。

▼ 注5
Task40:ダウンウィンド風車(Down Wind Turbine Technology)。ローター〔風を受け止める大きな羽(ブレード)を組み合わせたもの〕が風下に位置するダウンウィンド風車の、IEC規格への適用に向けたモデルの検討、コストの分析等を行っている。

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