[米国バイデン大統領主催の「気候サミット」をひも解く]

【前編】 気候サミットで発表された各国の削減目標値と日本の野心的取り組み

2021/05/02
(日)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

日本における「地域脱炭素ロードマップ」と「ゼロカーボンシティ」

〔1〕「地域脱炭素ロードマップ」の取り組み

 菅首相が、気候サミットで語った国内で進める取り組みのうち、食料・農林水産業におけるイノベーションの実現や、サーキュラーエコノミーへの移行については、比較的よく知られているが、前述した「全国各地の100以上の地域での脱炭素の実現」とは一体何だろうか。

 これは、内閣官房で開催されている「国・地方脱炭素実現会議」の中で検討されている「地域脱炭素ロードマップ」に関連する内容だと考えられる。

 2021年4月20日に公開された同会議で取りまとめた「地域脱炭素ロードマップ」によると、地域脱炭素は地域課題の解決につながる、地方創生に関する取り組みだと位置づけ、この施策の全体像として次の2点を定めている。

  1. 先行して脱炭素を実現する地域をつくる
  2. 全国で脱炭素の基盤となる重点対策を実施(各地の創意工夫を横展開)

 このうち(1)の中では、「少なくとも100カ所の脱炭素先行地域で、2025年度までに脱炭素実現の道筋をつけ、2030年度までに脱炭素を達成する」という目標が示されている。

 このロードマップが公開される1カ月ほど前の2021年3月24日に、内閣府で開催された「令和3(2021)年第2回経済財政諮問会議」で、環境省の資料として公開された「2050年カーボンニュートラルに向けた取組」注8の中でも、この「地域脱炭素ロードマップ」が取り上げられている。

 そこでは、2030年までの10年間が重要だという認識を示したうえで、地域での再エネ導入倍増などの取り組みを進め、地域で次々と脱炭素を実現していくことを「脱炭素ドミノ」と表現し、具体的なロードマップのイメージとして図2が示されている。

図2 地域脱炭素ロードマップのイメージ

図2 地域脱炭素ロードマップのイメージ

出所 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0224/shiryo_06.pdf

〔2〕「2050年ゼロカーボンシティ」への取り組み

 このような検討と並行して、環境省では「地方公共団体における脱炭素化」を推進するための取り組みを行っている。その中で進められているのが「2050年ゼロカーボンシティ」に関する取り組みである。

 ゼロカーボンシティは、「2050 年に温室効果ガスの排出量又は二酸化炭素を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自らが又は地方自治体として公表された地方自治体」と定義されており、表明する地方公共団体を募っている。

 環境省によると、2021年4月26日時点で、ゼロカーボンシティ、つまり2050年までにCO2排出実質ゼロを表明している自治体は、全国で381に上っている注9。表明している自治体の総人口は約1億1,011万人とされている(図3)。

図3 2050年までにCO2排出実質ゼロを表明している自治体

図3 2050年までにCO<sub>2</sub>排出実質ゼロを表明している自治体

出所 https://www.env.go.jp/policy/zero_carbon_city/01_ponti_210426.pdf

 今後、日本が温室効果ガス46%削減という野心的な目標達成に取り組んでいくためには、政府によるトップダウンの取り組みだけではなく、それぞれの自治体の特色を活かし、住民も巻き込みながら進めるボトムアップの取り組みも欠かせない。

(次回に続く)

筆者Profile

新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、現在はシナリオプランニングの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。東京外国語大学大学院修了、Said Business School Oxford Scenarios Programme修了。
インプレスSmartGrid ニューズレター コントリビューティングエディター。


▼ 注8
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0224/shiryo_06.pdf

▼ 注9
https://www.env.go.jp/policy/zero_carbon_city/01_ponti_210426.pdf

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