[特別レポート]

次世代へ進む太陽光発電と蓄電システム

― 脱炭素に向けて加速する家庭用蓄電池市場 ―
2021/06/04
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

政府が宣言した「2050年カーボンニュートラル(CN、排出実質ゼロ)に伴うグリーン成長戦略」が動き出した。
グリーン成長戦略では、社会の基本単位である住宅(家庭)への太陽光発電(PV)と蓄電池システムの導入も、重点14産業(注1)の重要な柱の1つとしても位置づけられ、次世代システムへ大きく進化しようとしている。
日本では、2030年までに新築住宅でZEH(ゼッチ。ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を普及させる動きなどが活発化しており、家庭用蓄電池システムの導入コストの低減施策も検討されている。
ここでは、2022年度から施行される新しい特定計量制度などを見ながら、住宅(家庭)用の「太陽光発電システム/定置用蓄電システム」の市場動向を紹介する。

住宅用太陽光発電システムの市場動向

〔1〕注目される「第6次エネルギー基本計画」

 日本政府は、2021年4月に開催された気候サミット(主催:米国バイデン大統領、40カ国が参加)で、パリ協定の実現に向けて、2030年の日本のCO2排出目標を、従来の26%から46%(さらに50%削減に挑戦)に引き上げるという、野心的な目標を発表した。

 このため、2021年夏に発表が予定されている「第6次エネルギー基本計画」において、エネルギーミックス(さまざまな発電方法を組み合わせて電気をつくること)をどのように実現するのか、注目されている。同基本計画では、太陽光発電システムも重要な位置づけとなっているため、まず住宅用太陽光発電システムの市場動向を見ていく。

〔2〕次世代へと進展する太陽光発電システム

 図1に、現在から次世代(2022年4月以降)へと進展する、住宅用太陽光発電システムのイメージを示す。

図1 現在と次世代の太陽光発電システムのイメージ

図1 現在と次世代の太陽光発電システムのイメージ

太陽電池アレイ:太陽電池モジュールを複数枚並べ、直列/並列接続し、屋根に設置したもの(住宅に太陽光発電システムを設置する場合、太陽電池はモジュール単位で販売され設置される)。
接続箱:太陽電池アレイからの直流配線を1本にまとめて、パワーコンディショナーに接続するための装置。
分電盤:電力会社などの商用電力系統からの電気を、建物の1階や2階に分配できるような機能を備えた機器(ボックス)のこと。パワーコンディショナーと商用電力系統との連系点。単に電気を分配するだけでなく、過度に流れた電流を遮断するブレーカーや、漏電遮断器等を内蔵し、火災などを防ぐ機能も備えている。
出所 http://www.jpea.gr.jp/pvj2018/webdownload/SS_2_5.pdf
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/denjihokaisei_04.html
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/keiryo_seido/pdf/001_02_00.pdf

 図1に示すように、次世代の住宅用太陽光発電システムでは、

  1. 電力会社と住宅(家庭)の境界には、従来のように計量法で検定を受けた電力量計(スマートメーター)を使用するが、
  2. エアコンや冷蔵庫、テレビなどの家電機器、さらに蓄電池や電気自動車(EV)充電器などには、新しい「特定計量制度」(2022年4月1日施行)のもとに、計量法の検定を受けなくても一定基準を満たした電力計(例:コンセント型や機器内蔵型などの小型計量器)を設置できるようにして合理化し、VPP(Virtual Power Plant)ビジネスなどを促進できる環境を整備する。

 これにより、後述する図4に示すようなTPO・PPAモデルによって、電力の自家消費量の取引をより容易にできるようにする。さらに、今後予想されるEVを蓄電池としてその充放電量の取引や調整力の取引、P2P取引(電力の発電者と消費者が直接行う新しい電力取引)などのニーズに対応できるようにしていく注2

〔3〕太陽光発電設備の住宅用と産業用の区分

 次に、太陽光発電設備の住宅用と産業用の区分を整理してみる。

 太陽光発電設備は、表1に示すように、電気事業法の電圧区分や定格出力によって、住宅用(10kW未満)と産業用(10kW以上)に大きく区分されている。

 また、太陽光発電は、2012年7月1日にスタートした、固定価格買取制度(FIT)開始後、導入量が急速に伸び、太陽光発電協会の資料(PV Outlook 2050)によれば、図2に示すように、2012年度の6.7GW(ギガワット)から2019年度の53.5GWへと急成長してきた(注。太陽光発電や風力発電については設備利用率注3に留意しておくことが重要である)。

図2 日本の太陽光発電の導入状況:累積導入量[2012年度の固定価格買取制度(FIT)開始後、導入量は急速に伸びた]

図2 日本の太陽光発電の導入状況:累積導入量[2012年度の固定価格買取制度(FIT)開始後、導入量は急速に伸びた]

出所 一般社団法人太陽光発電協会、JPEAビジョン・PV OUTLOOK 2050:感染症の危機を乗越え、あたらしい社会へ「太陽光発電の主力電源化への道筋」、2020年5月18日

 さらに太陽光発電協会は、2030年に100GW(AC)、2050年に300GW(AC)へと成長していき、同時に、温室効果ガスの大幅な削減も可能と予測している(図3)。


▼ 注1
重点14産業:①洋上風力産業、②燃料アンモニア産業、③水素産業、④原子力産業、⑤自動車・蓄電池産業、⑥半導体・情報通信産業、⑦船舶産業、⑧物流・人流・土木インフラ産業、⑨食料・農林水産業、⑩航空機産業、⑪カーボンリサイクル産業、⑫住宅・建築物産業/次世代型太陽光産業、⑬資源循環関連産業、⑭ライフスタイル関連産業

▼ 注2
「第1回 特定計量制度及び差分計量に係る検討委員会」、2020年9月4日、「特定計量制度及び差分計量に係る事業者ニーズについて」、資料3
資源エネルギー庁「特定計量制度及び差分計量に係る検討について」、2020年9月4日、資料2

▼ 注3
設備利用率とは、定格出力でフル発電した場合の発電量を100%とし、実際に発電した量の割合を示す。太陽光発電の場合、朝夕や曇り・雨など天候に左右されるので、設備利用率は2017〜2020年度の平均で13.6%と低い。つまり、設備がフル稼働した場合の発電量の13.6%の電力しか発電していないことになる(風力発電の設備利用率は28%)。

ページ

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...