今後想定される気候変動シナリオ
それでは、今後の世界の気候はどうなっていくのだろうか。『第Ⅰ作業部会報告書』では、表3に示す5つのシナリオをもとに、変化の可能性を示している。
例えば、世界の平均気温の変化については、図5のように予測されている。
表3 『第 Ⅰ 作業部会報告書』で使われている主な5つのシナリオとその概要

SSP:Shared Socio-Economic Pathway、共通社会経済経路。統合評価モデルコンソーシアムが中心となって開発した社会経済シナリオ。一連の研究の基盤となる社会経済シナリオで、気候変化要因の定量化や気候影響の評価で共通に利用されることが想定されている。SSP1からSSP5という5つの異なる2100年までの代表的な社会経済シナリオで構成されている。
工業化前:IPCCの報告書における「工業化前」とは、1850〜1900年の時期を指す※
※『IPCC 1.5℃特別報告書ハンドブック』51ページ等を参照
NDC:Nationally Determined Contribution、国が決定する貢献(約束草案)。パリ協定に基づいて、各国が自主的に決定する温室効果ガス(CO2)の削減目標。その目標を各国が国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出する。
エアロゾル(aerosol):大気エアロゾル粒子。空気中に浮遊するチリなどの固体や液体の粒子のこと。エアロゾルは、太陽放射を散乱・吸収して地上に到達する日射量を減少させ、気温を低下させる「日傘効果」をもつ一方で、地球からの赤外放射を吸収・再放射するという「温室効果」ももっている。
出所 気象庁 報道資料の「別紙3 参考資料」より
・報道資料
・別紙3 参考資料
図5 1850〜1900年(工業化前)を基準とした世界平均気温の変化の予測

SSP:Shared Socio-Economic Pathway、共通社会経済経路。統合評価モデルコンソーシアムが中心となって開発した社会経済シナリオ。
出所:SPM(Summary for Policymakers、政策決定者向け要約)暫定訳をもとに一部加筆修正して作成
『第Ⅰ作業部会報告書』内でグラフとともに示されているデータによると、次の内容が見てとれる。
【1】2040年頃までの期間において、持続可能な発展を目指すシナリオ(図5のSSP1-1.9)、言い換えると21世紀末までの温度上昇を概ね1.5℃以下に抑える気候政策を導入したシナリオにおいても、1.5℃程度の上昇が想定されている。
報告書で示されているデータによると、2021〜2040年の短期においては、化石燃料への依存を続け、気候変動対策を行わないSSP5-8.5シナリオでは、最良推定値は1.6℃、可能性が非常に高い範囲は1.3〜1.9℃と示されている。それ以外の4つのシナリオでは1.5℃という最良推定値になっている。ここからわかる通り、この報告書の結果をもとにすると、今から積極的な取り組みを行ったとしても、2021年〜2040年の期間では、1.5℃程度の上昇の可能性は避けられないことがわかる。
【2】さらに、2100年頃までの長期視点で考えると、先ほどと同じ持続可能な発展を目指すシナリオ(SSP1-1.9)では、1.4℃上昇にとどまる可能性があるのに対し、5つのシナリオのうち中庸なシナリオ(SSP2-4.5)であっても1.5℃を大幅に超え、2.7℃程度も上昇する可能性が想定されている。













