『第 Ⅰ 作業部会報告書』で示された「人間の影響」
〔1〕人間活動が気候温暖化の原因
報告書のSPM注9と本編の各節冒頭部分をまとめたヘッドライン・ステートメント注10は、すでに文部科学省および気象庁によって翻訳され、暫定訳版として公表されている。
ヘッドライン・ステートメントでは、『第Ⅰ作業部会報告書』の主要な内容として次の4つを紹介している。
A. 気候の現状
B. 将来ありうる気候
C. リスク評価と地域適応のための気候情報
D. 将来の気候変動の抑制
このうち、「A. 気候の現状」では、その冒頭で「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」という点が、はっきりと書かれている。
国立環境研究所の地球システム領域 副領域長で、『第Ⅰ作業部会報告書』の第1章の主執筆者でもある江守 正多(えもり せいた)氏は、今回の報告書について解説した動画(図3)を公開しているが、その中で、これまでのIPCCの報告書では、人間の活動が温暖化の原因となっている「可能性がある」と表現するにとどまっていたものの、今回は「疑う余地がない」と言い切っている点に着目して、解説している。
図3 IPCCレポートにおける温暖化への人間活動のかかわりに関する表現の推移
〔2〕人為的な世界平均気温の上昇に関する科学的分析
『第Ⅰ作業部会報告書』では、他にも「温室効果ガス(GHG)の濃度の増加は、人間活動によって引き起こされたことに疑う余地がない」という表現があり、気候変動による熱波や大雨、干ばつ、熱帯低気圧のような極端現象と人間活動とのつながりに触れている。
温暖化という観点では、そのことを示す科学的な分析が行われ、SPMの中の項目A.1.3(暫定訳版5ページ)において、具体的な数値が示されている。それは「1850〜1900年」から「2010〜2019年」までの人為的な世界平均気温の上昇は、0.8℃〜1.3℃の可能性が高く、最良推定値は1.07℃だという点である。
このような温暖化の傾向が続いていくと、例えば「1850〜1900年」の間に50年に1回程度しか起きなかったような極端な気温の上昇が、今後、頻度も4.8倍から、8.6倍、13.9倍、39.2倍へ、強度も+1.2℃から、+2.0℃、+2.7℃、+5.3℃へと増えていく可能性があることも指摘されている(図4)。
図4 陸域における極端な高温の発生頻度と強度
例えば、「1850〜1900年(50年間)」に対して、気温が4℃上昇(図4右端)すると、「1850〜1900年」の50年間に1回しか起きていないような極端な気温の上昇回数が、将来には50年間に40回弱(39.2回)も起きる可能性があり、さらに「1850〜1900年」と比べて気温は5.3℃も高くなると想定されている。これは、極めて深刻な事態を迎えることになる。
つまり、従来の「50年に一度」の規模の事態が、毎年のように起こる可能性があるということになる。
▼ 注9
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/IPCC_AR6_WG1_SPM_JP_20210820.pdf
▼ 注10
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/IPCC_AR6_WG1_HS_JP_20210820.pdf