求められる科学的根拠に基づいた早急な政策
このような気温の変化の可能性に対して、各国および関係者が取り組まなけれならない具体的な対策については、表2で示した『第Ⅱ作業部会報告書』および『第Ⅲ作業部会報告書』を待たなければならないが、『第Ⅰ作業部会報告書』では、「自然科学的見地から、人為的な地球温暖化を特定の水準に制限するには、CO2の累積排出量を制限し、少なくともCO2正味ゼロ排出を達成し、他の温室効果ガスも大幅に削減する必要がある」という点が示されている。
先に紹介した国立環境研究所の江守氏は、動画の中で『第Ⅰ作業部会報告書』に対するまとめとして「(気候変動対策として)やるべきことは変わらない」と、これまで議論されている取り組みを継続する必要性を述べている。
また、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)氏は、この『第Ⅰ作業部会報告書』が公表された当日(2021年8月9日)、Twitterに図6のような投稿をしている。
図6 グレタ・トゥンベリ氏による『第6次評価報告書 第 Ⅰ 作業部会報告書』への反応
出所 https://twitter.com/GretaThunberg/status/1424647410526130181 それぞれの日本語訳は筆者
冒頭でも紹介したグテーレス国連事務総長は、この報告書に関する声明の中で、今年(2021年)11月に、英国スコットランド南西部に位置するグラスゴーで開催されるCOP26(The twenty-sixth session of the Conference of the Parties、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)で、1.5℃を維持するための議論を行うことの重要性を改めて指摘している。同氏の声明は次のように締めくくられている。
「本日(2021年8月9日)発表されたIPCC報告書で明らかになった通り、(気候変動による惨禍を回避するために私たちが力を合わせることを)先送りする余裕も、弁解する余地もありません。私は、政府指導者たちとあらゆるステークホルダー注11が、COP26を確実に成功させることを期待しています。」
今後、パリ協定の実現に向けた世界各国の取り組みにおいて、今回のIPCCの報告書で明らかにされた科学的根拠に基づく事実を踏まえて、政策的な動きが加速することを期待したい。
筆者Profile
新井 宏征(あらい ひろゆき)
株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、現在はシナリオプランニングの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。東京外国語大学大学院修了、Said Business School Oxford Scenarios Programme修了。
インプレスSmartGrid ニューズレター コントリビューティングエディター。
▼ 注11
ステークホルダー:利害関係者。企業および従業員、地域住民、官公庁、研究機関、金融機関など。