[特別レポート]

効率的な再エネ発電をどう実現するか!

― 気象協会が気象予測データを提供しインバランス料金も削減 ―
2021/10/04
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

インバランス料金の低減と時間前市場の活用

〔1〕負担が大きくなるインバランス料金

 小売電気事業者や発電事業者などが電力の需給バランスをとる場合、その需給予測が重要となってくるが、一般的に「発電量予測」(発電事業者)と「需要量予測」(小売電気事業者)を比べると、発電量予測のほうが誤差が大きくなる傾向にある。

 電力の需要量と供給量の差(ズレ)は「インバランス」(電力供給量の過不足、図8参照)と呼ばれる。仮に不足インバランスが発生すると、発電事業者などは一般送配電事業者が確保している「調整力」(後出の表2の用語解説参照)で、その不足分の電力量を補ってもらうことになる。この場合には、不足分のインバランス料金を支払うことになり、発電事業者などのコスト負担は大きくなる。

図8 インバランス調整とインバランス料金精算の仕組み

図8 インバランス調整とインバランス料金精算の仕組み

出所 経済産業省、「インバランス料金の当面の見直しについて」、2017年6月6日

表2 本記事で登場する主な用語解説

表2 本記事で登場する主な用語解説

出所 各種資料をもとに編集部で作成

 これを解決するため、気象協会はさらに発電事業者などと連携して、効率的で操作性の良い需要予測サービスを開発している。

〔2〕インバランス料金の上限価格を200円/kWhへ

 2021年1月上旬、電力需要がひっ迫する緊急事態が発生した。

 断続的な寒波の到来によって電力需要が大幅に増加したとともに、LNGの在庫が減少したことで発電所の稼働が抑制され、出力低下によって供給力が低下した。このため、電力需給がひっ迫する事態が発生した。これに伴い、日本卸電力取引所(JEPX)における卸電力市場(スポット市場)への売り入札が減少し、売り切れ状態が継続した。

 この結果、スポット市場価格が高騰し、業界に大きなインパクトを与えた。2021年1月15日、一時的にスポット市場価格は、日最高価格が250円/kWhを、日平均価格は150円/kWhを超える水準まで高騰した(図9)注10。インバランス料金は、JEPXの取引相場(電気の時価)をベースに算出されるため、高騰した。

 このような事態を受けて経済産業省は、2021年6月16日、インバランスの上限価格を200円/kWhとする内容を含む、インバランス料金の省令等の改正を行った注11。ちなみに、2020年度のスポット市場価格の年間平均価格は11.8円/kWhであり、いかに高騰したかがわかる。

〔3〕ポイントとなる「時間前市場」の活用

  1. 当日1時間前の見直しが可能に

 インバランスを回避・軽減するために、最近では、「時間前市場」を活用する小売電気事業者などが増えている。ここでは、「時間前市場」の活用について簡単に紹介する。

 図10(および表2の用語解説参照)に、小売電気事業者などによる、電力の実需給(図10の右端)までのタイムラインを示す。例えば、これまでは図10左側の、前日10時までにスポット市場向けの需要計画をつくって、広域機関注12を通じて一般送配電事業者に提出していた(広域機関がその計画を取りまとめる)。

図10 気象協会のサービスを活かした時間前市場の活用:実需給(実際に電力の需要・供給が行われる時点)までのタイムライン

図10 気象協会のサービスを活かした時間前市場の活用:実需給(実際に電力の需要・供給が行われる時点)までのタイムライン

[原典]https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_system/pdf/051_06_00.pdf
※天候に左右される再エネは、実需給に近づけば近づくほど予測のずれが少なくなる傾向があるため、スポット市場取引以降のGC(Gate Close、ゲートクローズ。表2参照)をより実需給に近づけ、インバランスの発生を抑えることが必要となる。したがって、再エネの主力電源化のためには、GC直前までの取引が可能となるようなシステム整備が重要となる。
TSO:Transmission System Operator 、送電系統運用者。日本の一般送配電事業者のこと
出所 一般財団法人 日本気象協会「気象×エネルギーTotal Support」、インテル・エネルギー・フォーラム2021(第1回 追加セッション、2021年9月2日)より

 1日に1回しか需要計画を作成しない事業者もあるが、気象協会のサービスは、1日最大24回の最新の気象データに基づいた需要予測データをユーザー(小売電気事業者など)に送付できるので、より誤差の小さい需要予測データが30分ごと、1時間ごとに利用できる。

 このため、図10に示す当日の「時間前市場」で、前日までの計画を当日になって(当日1時間前に)見直すことができる。この場合、気象協会が提供する気象データをベースにして見直すため、見直しの作業自体は効率化できる。


▼ 注9
アンサンブル予報:Ensemble Forecast。予測に伴う不確定さを考慮することで、将来の予測を可能にする手法(統計的な処理の方法)の1つ。詳細は下記サイトを参照。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kisetsu_riyou/method/ensemble.html

▼ 注10
経済産業省、「今冬の電力スポット市場価格高騰に係る検証について」、第30回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会「資料8」7ページ、2021年2月17日

▼ 注11
経済産業省、「インバランス料金に2段階の上限価格を導入するための省令等の改正を行いました」、2021年6月16日

▼ 注12
広域機関:正式名称は、電力広域的運営推進機関(略称OCCTO)。全国規模で電力の安定供給や需給調整機能等を行う機関で、2015年4月1日に設立。すべての電気事業者(小売電気事業者、一般送配電事業、送電事業者、特定送配電事業者、発電事業者など)は加盟する義務がある。各電力供給エリアの一般送配電事業者と連携し、需給状況等の情報をリアルタイムに把握している。

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