[特別レポート]

効率的な再エネ発電をどう実現するか!

― 気象協会が気象予測データを提供しインバランス料金も削減 ―
2021/10/04
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

電力需要予測サービスの仕組み

〔1〕AIを活用した電力需要予測サービス

 現在、気象協会が行っている電力需要予測サービスの仕組みを図6に示す。

図6 気象協会におけるJWA-AIエンジンを使用した電力需要予測サービスの仕組み

図6 気象協会におけるJWA-AIエンジンを使用した電力需要予測サービスの仕組み

出所 一般財団法人 日本気象協会「気象×エネルギーTotal Support」、インテル・エネルギー・フォーラム2021(第1回 追加セッション、2021年9月2日)より

 気象協会は、5年以上も前から電力需要予測サービスを提供しているが、当初は、送配電事業者が自身で行っていた電力の需要予測に、気象協会の気象予測データを入力データの一部として利用するというものであった。

 その後、ビッグデータの解析技術やAIの活用が急速に進む中で、気象協会でも送配電事業者などが本来必要とする精度の高い電力需要予測を目指して、2018年4月から、AIを使用した電力需要予測技術「JWA-AIエンジン」(図6)を開発し、その提供を開始した注6

 JWA-AIエンジンの特徴を次に示す。

  1. 独自の気象・再エネ予測技術×データ分析技術によって、高精度な需要予測を実現できる。
  2. 気象情報提供から需要予測システムの構築・運用までをワンストップで実施できる。
  3. クラウド版(気象協会のクラウドから顧客へ自動配信)とオンプレミス版(社内システムで運用)が選択可能なため、多様なデータ受配信に対応できる。

 これによって、かなり高い予測精度で電力需要を1日48コマ(=24時間÷0.5時間)、すなわち30分ごとの需要予測技術が実現できた。さらに需要予測データの顧客への配信から、運用時の精度評価やモデルチューニング(精度の高い予測モデルの構築)など、運用面からも充実したサポート体制も可能となった。

〔2〕電力需要予測サービスの導入企業例

 JWA-AIエンジンは、電力需要予測サービス分野では、中部電力パワーグリッド、北海道電力ネットワークなどの送配電事業者や丸紅新電力、シン・エナジー、サイサンなどの小売電気事業者に導入されている。

 最近では、前述したVPPやDR(デマンドレスポンス)、自己託送、エネルギー・マネージメント(エネマネ)などの先進的な制御システムや実証事業においても、この電力需要予測サービスが利用されている。

「電力市場取引価格」関連サービス

 一方、2016年4月の「電力の小売および発電の全面自由化」以降、電力市場には多岐にわたる事業者が参入しているところから、「市場取引価格予測」「需要逼迫関連予測」「取引支援情報」などの関連サービスへの関心も高まってきている。

 これらは、VPP事業者から発電事業者、小売電気事業者、国内外トレーディング企業、需給管理システム業者、需給管理代行業者などに至るまで、多様なユーザー企業が注目し利用している。

気象会社としての「再エネの主力電源化」に向けた課題

〔1〕重要となる電力需給バランス確保のための事前の発電量予測

 現在、2050年カーボンニュートラルの実現を目指して、再エネの主力電源化へ移行する過程にあるが、実現するためにはどのような課題があるのだろうか。

 太陽光発電や風力発電などの再エネ電源は、気象によって出力が大きく変化する変動電源であり、特に再エネ電源の出力予測は、従来の一般的な電力需要予測に比べて1桁くらい大きい誤差があるといわれている。気象協会ではこの課題解決のため、3つの側面から取り組んでいる。

〔2〕気象・再エネ予測手法の更なる高度化

 第1は、気象や再エネ予測手法の更なる高度化の推進である。気象協会では、日射量を予測するに当たって、前述した気象モデル(前出図4の「SYNFOS-solar」)を用いる手法の他に、衛星画像を使った予測手法も組み合わせた取り組みなども行っている。

 さらに、図7に示すように、①気象協会の独自の気象モデル(SYNFOS-solar)、②気象庁の気象モデル、③海外機関が開発した精度の高い気象モデルなど、複数の気象モデルの予測結果を統合して提供するサービスも提供している。

図7 日射量・太陽光発電出力の統合予測

図7 日射量・太陽光発電出力の統合予測

出所 一般財団法人 日本気象協会「気象×エネルギーTotal Support」、インテル・エネルギー・フォーラム2021(第1回 追加セッション、2021年9月2日)より

 複数の気象モデルを使用すると、各気象モデルがもつ予測誤差をうまく打ち消しあい、精度の高い統合予測サービスを提供できる。

〔3〕予測誤差の「ならし効果」を最大化する予測手法の検討

 第2は、地理的に分散設置されている予測対象の個々の分散電源を束ねる(アグリゲートする)ことで、個々のサイトで発生する発電量の予測誤差を打ち消し合う(ならし効果)注7という取り組みである。いわゆる「再エネのアグリゲーション」を念頭に置いた予測手法が検討されている。

 気象協会では、2021年度から開始された、経済産業省の「再エネアグリ実証」注8に参画しており、今後、同実証を通じて予測精度の向上を可能にする、最適な再エネ電源の束ね方(アグリゲーション方法)も検討していく。

〔4〕リスクマネジメントに役立つ確率論的予測情報の充実化

 前述の2つの取り組みを行っても、気象予測の誤差は必ずしもゼロになっていくものではない。このため第3として、アンサンブル予報注9を活用し、信頼度の高い情報(リスクマネジメントの高度化)の提供を行う。

 また今後は、導入・設置が加速していくと予想されている洋上風力発電の予測が重要になってくる。洋上風力発電は局地性が強く反映するため、太陽光発電の予測よりもさらに難しい。そのため、より一層の高度化に向けた社内開発が進められている。


▼ 注6
「日本気象協会が開発した「電力需要予測システム」が大手電力で運用開始」、JWAニュース、2018年9月5日

▼ 注7
ならし効果:Smoothing Effect。太陽光発電や風力発電は、多数の小規模システムが広域に分散設置されるため、地理的な広がりよって、それぞれの気象条件が異なる。そのため個別の発電量の変動が相殺され、合計の発電量の変動が緩和される。

▼ 注8
再エネアグリ実証:令和3年度 再エネアグリゲーション実証事業の採択結果〔令和3(2021)年6月8日〕
・実証事業完了期限:2022年2月10日
・実証事業目的:再エネ発電設備と蓄電池等のDER(分散型エネルギー源)を組み合わせ、需給バランス確保のための発電量予測や、リソース制御に必要な技術等の実証を行い、DERを活用した安定かつ効率的な電力システムの構築と再エネの普及拡大を図る。
https://sii.or.jp/saieneaggregation03/

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