世界で広がる気候変動の悪影響
近年、日本においても台風やそれに伴う洪水、地すべりなどの被害が発生し、その都度、災害が起きた周辺に住む人への影響が起っている。この傾向は日本だけではなく、世界中で見られている。IDMC(Internal Displacement Monitoring Centre、国内避難民監視センター)注13が公表しているデータによると、2020年の世界における国内避難民注14は約4,050万人となっている(図2)が、そのうち約75%の約3,070万人が災害によるもので、さらにそのうちの約3,000万人が気象関連の出来事によって避難を余儀なくされていることがわかる。
図2 2020年における世界の国内避難民の内訳
近年では「気候変動」ではなく「気候危機」と呼ぶことが増えているが、私たちの身の回りに起きているこのような状況に対処するための国際的な動きが、今回のCOP26で合意された前出の表2のような取り組みなのである。
以降は、表2で紹介した4項目に関して、COP26での合意事項から特徴的なものを中心に解説する。
COP26での合意事項:「緩和」に関する内容
「緩和」に関してはパリ協定で定められた1.5℃目標を実現するために、NDC(各国のCO2削減目標)の提出や関連する取り組みについての話し合いが行われた。今回のCOP26にあわせて新たなNDCを提出した国も含めて、COP26の予定会期終了日の11月12日時点では、世界124カ国がNDCを提出している注15。
NDCの提出として「緩和」のためにさまざまな動きがあったのが、メタンや自動車などの分野別の取り組みである。その中でも特に今回注目を集めたのが石炭に関する議論であり、この議論が二転三転したことが、会期の延期につながったといわれている。
当初は「石炭および、化石燃料補助金の段階的廃止の加速」とされていた文書が、
- 単なる石炭ではなく「対策が講じられていない石炭火力」と変わり、
- 「化石燃料」についても「非効率な化石燃料」と変わり、
- 最終的には「段階的削減」という文言も「段階的削減」と弱められ、
最終的には、「対策が講じられていない石炭火力の段階的削減および、非効率的な化石燃料補助金の段階的廃止に向けた努力を加速」という文言となってしまった注16。
このように、新たなNDC、そして分野別の取り組みによって、1.5℃目標を達成するための排出ギャップ(1.5℃目標達成のために必要なCO2排出量と各国のCO2排出量の差)が大きく狭められた。図3に示すように、2020年9月時点での排出ギャップは「230〜270億CO2換算トン」であったのに対して、今回提出されたNDCの取り組みが実現された場合の排出ギャップは、「170〜200億CO2換算トン」にまで狭められた。
図3 COP26での合意内容を反映した2030年1.5℃目標に向けた排出ギャップ
▼ 注13
https://www.internal-displacement.org/
▼ 注14
政治的な迫害や武力紛争、内乱などによる強制立ち退きや、自然災害などによって自宅や周辺地域には住めず、避難生活を余儀なくされている人々のうち、国境を越えないで自国内で生活している人々のこと(以下を参照)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%86%85%E9%81%BF%E9%9B%A3%E6%B0%91
▼ 注15
https://climateactiontracker.org/climate-target-update-tracker/ を参照。
▼ 注16
一連の文言の変更については「COP26の成果」をもとにした。