[クローズアップ]

速報:COP26の合意事項と今後の課題を整理!

― COP史上最高の4万人が参加、パリ協定「1.5℃実現」へ一歩前進 ―
2021/12/05
(日)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

COP26での合意事項:「適応・損失と損害」「ファイナンス」に関する内容

 石炭火力の議論がなかなか定まらず、最終的に「段階的削減」といったような消極的になった背景には、表2の4つの項目のうち「適応・損失と損害」と「ファイナンス」が関連していた。

 2009年にデンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15では、先進国から途上国に対して、気候変動に対応する資金援助を2020年までに毎年1,000億ドル(約11兆円)にまで増やすという目標が掲げられていたが、実際には2020年までにその目標は達成されなかった。これに対する途上国からの批判が噴出したことが、さまざまな論点の合意を難しくさせた一因となり、冒頭でも紹介したシャーマ議長の謝罪につながったようだ。

 そのような批判を受けて、適応のための資金を2025年までに2019年レベルから最低でも倍にすることが提起され、決定文書に記載された。また、2025年以降の途上国支援に関する数値目標の議論をするための枠組みを立ち上げ、2022年から2024年にかけて議論することも決定した注17

COP26での合意事項:「協調」に関する内容

 表2に示す最後の「協調」という点では、市場メカニズムとも呼ばれるパリ協定第6条の実施指針が3年越しで決まり、採択された。

 具体的には国際的に移転したクレジットの排出削減量の二重計上防止のルールの決定や、京都議定書下のCDM(Clean Development Mechanism、クリーン開発メカニズム)のクレジットの一部をパリ協定に繰り越すことができるようになったことが決定するなど、大きな進展があった。

COP26「世界リーダーズ・サミット」における岸田総理のスピーチ

 このような議論が行われる中、会期中の11月1、2日に開催された首脳級会合「世界リーダーズ・サミット」では、日本の岸田総理がスピーチを行った。

 スピーチの中では防災などの適応のために約148億ドル(約1兆6,000億円)の支援を行うことやグリーンイノベーションの推進、2030年までにメタン排出を30%削減するという「グローバル・メタン・プレッジ」注18への参加などが盛り込まれた注19

今後の課題:グテーレス事務総長のスピーチ「COP27は今始まった!」

写真4 COP26の結論に関する声明を発表するアントニオ・グテーレス(Antonio Guterres)国連事務総長(2021年11月13日)

写真4 COP26の結論に関する声明を発表するアントニオ・グテーレス(Antonio Guterres)国連事務総長(2021年11月13日)

出所 https://unfccc.int/news/secretary-general-s-statement-on-the-conclusion-of-the-un-climate-change-conference-cop26

 日本も含め、さまざまな積極的な取り組みに向けた動きが見られたCOP26だが、図3に示した排出ギャップを見てもわかるとおり、1.5℃目標を実現するために十分な状態とはいえない。そのため、今後、2022年末までに必要に応じて2030年削減目標の見直しや強化を求めるなど、引き続き積極的な見直しを進めていかなければいけない。

 今回のCOP26の結果を受けて、アントニオ・グテーレス国連事務総長(写真4)は、重要な進歩があったことは認めながらも、1.5℃目標実現に向けて十分な合意ができなかった点についても指摘したうえで、今回提出されたNDCが完全に実施されたとしても、今世紀末には産業革命以前(1850〜1900年を基準)と比較して2℃以上の気温上昇となる点を憂慮している注20。この状況を改善するため、各国の進捗状況の測定や計画の更新を進めるために、2023年には「グローバル・ストックテイキング・サミット」(世界全体の実施状況見直し会議)と呼ばれる各国首脳レベルの会議を開催することなどを表明している。グテーレス国連事務総長は最後に、「COP27は今始まったのです」と伝えてスピーチを締めくくった。

 COP27は、2022年にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催することが決まっている注21。今後の議論の進展はもちろん、実行に向けた具体的な動きを進めるためにも、それぞれの国や企業における具体的な取り組みを期待してやまない。

筆者Profile

新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、現在はシナリオ・プランニングの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。最新刊は『実践 シナリオ・プランニング』(日本能率協会マネジメントセンター、2021年5月30日発行)

東京外国語大学大学院修了、Said Business School Oxford Scenarios Programme修了。インプレスSmartGrid ニューズレター コントリビューティングエディター。


▼ 注17
「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)、京都議定書第16回締約国会合(CMP16)、パリ協定第3回締約国会合(CMA3)等|外務省」を参照、

▼ 注18
グローバル・メタン・プレッジ:Global Methane Pledge(GMP。メタン(CH4)は地球温暖化係数の高い温室効果ガスであり、パリ協定の目指す世界の脱炭素化に向けて世界におけるメタン排出の削減は国際的に重要な課題となっている。こうした背景から、米国政府とEU欧州委員会が主導する「グローバル・メタン・プレッジ」(GMP)が、2021年11月2日、COP26の場で正式に発足した。日本を含む105カ国が発足時に加盟し、2030年に2020年比で30%のメタンを削減することを目標とした。

▼ 注19
令和3年11月2日、COP26世界リーダーズ・サミット 岸田総理スピーチ

▼ 注20
COP26閉幕にあたってのアントニオ・グテーレス国連事務総長声明

▼ 注21
2022年のCOP27、エジプト開催が決定、途上国への気候変動対策援助を要請(エジプト)

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