[特集:特別対談]

加速する洋上風力発電の導入と次世代送配電ネットワーク≪前編≫

― 2050年カーボンニュートラルと再エネ主力電源化時代へのロードマップ ―
2021/12/05
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

再エネの主力電源化への発展のシナリオ

〔1〕期待される送電ネットワークのマスタープラン

 洋上風力で発電を始めるには、それを受け入れる電力ネットワーク側とも整合的に開発していく必要が生まれます。そのためにOCCTOでカーボンニュートラルに向けた再エネ大量導入と、エネルギー供給の強靱化(レジリエンス)を目的として、「送配電ネットワーク(広域連系系統)のマスタープラン」作成が、2022年度中を目標に進められています。

 広域系統整備に関する長期展望の分析が行われ、特に風力発電のように立地制約のある再エネに関して、その導入量や電源立地に関する複数のシナリオを設定して、ケーススタディが検討されています。その過程で、必要な投資額や費用便益比(B/C:Benefit/Cost)、年間コストなどを検討した中間整理注8が発表されています。

 このように、プッシュ型でネットワークを作るスタイルは、非常に良いことだと思っています。

加藤 そうですね、今までは洋上風力発電も取り込んだうえでの系統整備計画の検討が進むということ自体がなかったため、マスタープランの作成は非常に大きな変化であり、ありがたいと感じています。中間整理でも、費用便益比は利益が出る「1」以上あると評価されています。

 さらに突っ込んだ検討がなされ、将来どのようなシナリオになろうが、基本的に安定的でコスト競争力のある送電ネットワークが構築できそうだというところまで整理していただいています。これは洋上風力のみならず、今後、再エネを大量導入していくためには大きな進歩ですし、このような議論が進んでいるのは大歓迎です。

〔2〕系統の増強は45GW、偏在シナリオがよい!

 系統に関するマスタープランの詳細を確認したいと思いますが、議論では洋上風力発電の電源立地を日本各所の適地に偏在させる場合について、「30GW増強するシナリオ」と、「45GWまで増強するシナリオ」(図5および図5の下表)という2つのシナリオが検討されていますが、これに関してどのようにお考えでしょうか。

図5 電源偏在シナリオ 中間整理

図5 電源偏在シナリオ 中間整理

※1 偏在する電源等を大消費地に送電するための連系線等の背骨系統の増強コストのみを記載しており、再エネ増加に伴う、調整力確保、慣性力・同期化力低下等の対策コストは含んでいない。また、HVDC送電コストは、2050年頃におけるスケールメリットや技術革新のコスト低減を先取りした単価を採用、海底ケーブル工事は漁業補償費を含まず、水深等を考慮したルート変更によるコスト増の可能性あり。
※2 系統増強を行うことで毎年発生する費用(減価償却費、運転維持費など)。
※3 燃料費は、シミュレーションで計算された発電量のみを計上。
出所 広域連系系統のマスタープラン及び系統利用ルールの在り方等に関する検討委員会事務局、マスタープラン検討に係る中間整理(2021年5月20日)をもとに編集部で作成

加藤 結論から申し上げると、我々は45GWだと考えています。日本の年間発電電力量のうち、洋上/陸上風力発電でどのくらいの電力を供給できるか、またその場合の送電ネットワークの増強はどれくらい必要となりそうかのシミュレーションをしてみました。

 年間発電電力量は、8,000億kWhから1兆5,000億kWhまで、そのうちの風力発電全体で30〜40%前後を供給するという前提でいくつかのパターンを計算してみました。どの場合も必要となるのは、マスタープランの例でいえば、45GW偏在シナリオで提示された系統の増強程度で、それ以上増強してもあまりコストメリットがないという結果が出ました。

〔3〕電源の立地は偏在が基本

 電源の立地に関してはいかがでしょうか。風況の良い適地に風力発電を設置する偏在のシナリオに対して、洋上風力発電の1/2を需要地の近傍に立地させるシナリオなども検討されていますが。

加藤 コスト競争力を考えると、洋上風力発電は風が強いところ、つまり風況の良い場所に作るのがベストです。したがって、電源立地は偏在が基本と考えています(図6)。そこへの送電ネットワーク接続は、また別な話として考えたいと思っています。

 洋上風力発電のプロジェクトは、「送電線も自前で」とした段階で、採算が合わなくなり事業として成り立たなくなるので、そこの部分は送電会社にお願いをしたい。発電と送電、それぞれ得意な事業者が担当することで、必要な電力系統を妥当なコストで確保できるはずです。

 電源の立地については、OCCTOのマスタープランの検討委員会でもさまざまな議論がありました。電源側の視点からは、発電の適地に電源を設置するのが効率的ではありますが、この場合は大需要地に送電するための送配電ネットワークの増強費用が増加します。そのため、発電と送電の双方のコストを含めて考えると、需要地の近くに電源を設置する方がコストダウンにつながる可能性も指摘されています。

 そのような全体的な視点に立って考えると、電源の立地も含めて最適化するべきではないかという議論もありますが、この点はどうお考えですか。

加藤 ご指摘はもっともなのですが、風力発電の場合は理論上、風速7m/秒以上の環境下で風速が1割増えれば、発電量はその3乗になります。ですから1年間で風速が1割違うところに発電所を造れば、3割から4割の発電量が違ってきます。そしてそれが30年続くわけです。発電コストを考えれば、適地に設置するのがベストです。

 需要地の近傍に、発電所を設置する理論も理解できますが、首都圏のような大都市近傍では風況の関係で競争力のある発電コストが実現できるかは不明です。また、現在の技術でいえば太平洋側の洋上はうねりがあり、建設コストが上がるという意見もあります。

 実際、現在の大型水力発電も原子力発電も、電源から離れた需要地に送電していますし、洋上風力発電も同じです。

 風速の3乗で発電量が増えるというのは大きいですよね。それを考えると、需要側の方が逆に風力発電の適地に移るという選択肢もあるかもしれませんね。水素などの需要も含めて、今後柔軟に考える必要がありそうです。

〔4〕HVDCによる高圧直流送電が必須!

 電源の偏在を想定して、遠隔地の発電所から需要地まで長距離送電する設備形成の在り方について論議が進んでいます。国際的には、HVDC(高圧直流送電:【コラム2】参照)注9による長距離送電が各国で進展しています。

 一方、日本では長距離でのHVDC導入の経験がなく、ルートの選定や建設コストなど不透明な点も問題として挙げられています。

加藤 HVDCのコストは、OCCTOで算出されているので、我々の方では関知していません。ただ、洋上風力発電では送電ケーブルを海底に敷設するため、陸上に長距離の架空ケーブルを引くよりも建設ははるかに短期間で済みます。敷設工事の期間は、現地の漁業や海運関係者の補償問題がありますが、ケーブル敷設後は、干渉はほとんどないでしょう。

 ただし、日本ではまだHVDCの実績が少なく、コストがどれくらいかかるかよくわかっていない部分があります。欧州では、すでにHVDCに関する多くのプロジェクトが進んでおり、低コストで短期間に敷設を進めていますから、日本でも可能であると考えています。

 HVDCは、有効利用すると一層価値をもたせることもできると思っています。洋上風力発電の電力を送るだけでなく、系統全体の安定化などさまざまな付加価値がつけられそうです。それらの価値もトータルに勘案して、便益が出るようなシステムになるといいと、私は思っています。

加藤 そうですね。直流は交流と違って周波数は関係ありませんから、東日本から西日本に送電することも容易です。したがって、風の吹いている場所で発電してその電力を風の吹いていない地域に送る、また太陽光発電の場合でも同様に晴れている場所からそうでない地域への送電が容易となり、気候変化による発電量の変動幅を抑えることができます。

 その再エネの弱点である発電量の変動は、送電する範囲が広く、その扱い量も多くなるほど穏やかになっていきます。こうしたことを考えますと、洋上風力発電のような広域事業には、HVDCが理想的で、我々としてもその敷設をお願いしてきました。そして、実際にその通りの方向になってきており、ますます期待しています。(後編に続く)

【コラム2】HVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流送電)とは

 洋上風力発電や太陽光発電など、発電所が各地に偏在するようになると、そこから需要地まで発電電力をどのように送るかが課題となる。従来のケーブルによる交流送電では50km程度が限界で、かつ送電ロスも課題となっていた。また日本では、一般に静岡県の富士川を境に、東日本は50Hz、西日本は60Hzの交流電源が使われているため、東西日本で交流電源を融通し合うことも現実的ではなかった。

 そこで開発されたのが、送電を高電圧の直流で行うHVDC(3万V以上の直流電圧)だ。この方式であれば数百kmのケーブル送電にも対応できる。しかも大容量送電も可能で、その際のロスも交流送電より抑えることができ、各地に偏在している洋上風力発電施設から遠く離れた需要地まで、無駄のない送電が実現できる。さらに発電した電気は直流のため、これまでの交流送電のように直流⇔交流変換することなく、そのまま送電ネットワークに送ることができ、その面でのコストメリットも見逃せない。

 また、対談本文中にもあるように、偏在している洋上風力発電や太陽光発電などの再エネ電源と接続し、かつその範囲を広げることで電力融通を容易に行うことができ、再エネで問題となりがちな電力需要のバランシングへの貢献も期待されている。

◎プロフィール(敬称略)

加藤 仁(かとう じん)

日本風力発電協会 代表理事

1977年三菱重工業(株)入社、2006年原動機事業本部原動機業務部長、2008年エネルギー・環境事業統括戦略室長、2011年原動機事業本部副本部長などを歴任。2013年執行役員原動機事業本部副本部長兼風車事業部長となる。2014年MHIヴェスタス(MHI Vestas Offshore Wind A/S)共同CEO 、2017年MHI 保険サービス(株)、日本風力開発(株)副会長を経て現職。

辻 隆男(つじ たかお)

横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 准教授

2006年、横浜国立大学にて博士(工学)の学位取得。同年4月から九州大学システム情報科学研究院寄附講座教員、2007年4月から横浜国立大学大学院工学研究院助教を経て、2011年4月から現職。主として電力システムの運用・制御・解析技術の研究に従事。


▼ 注8
OCCTO「マスタープラン検討に係る中間整理」、2021年5月20日

▼ 注9
HVDC:High Voltage Direct Current、IEC(国際電気標準会議)の定義では、30kV(=3万V)程度以上の直流電圧をHVDCという。

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