最初に、自動車産業の新しい動向を見ながら、JCLP事務局の柴岡 隆行氏によるJCLPおよびEV100の活動内容について紹介する。JCLPは、国際企業イニシアティブ「RE100」「EP100」「EV100」(図1参照)の日本地域パートナーであり、これらのイニシアティブに関心のある日本企業が加盟する際の窓口として支援を行っている。
図1 国際イニシアティブ「RE100」「EV100」「EP100」による自動車産業の変革
注:「RE100」「EV100」「EP100」への加盟数(参加企業数)は2021年12月現在。
SteelZero:2020年12月1日に発足した新しい国際イニシアティブ。2050年までに、使用するすべての鉄鋼をCO2排出量ゼロで製造することを目的としている。英国のNGO「The Climate Group」(TCG)と、鉄鋼の持続可能性を目指してその調達基準の策定等を行う「Responsible Steel」が中心となり発足した
MaaS:Mobility as a Service、多種類の交通サービス(電車、バス、タクシー等)をクラウド化して統合し、需要に応じてスマートフォンなどで容易に利用できる移動サービス
出所 JCLP事務局、「加速するEV転換への世界的潮流 〜今、需要家企業に求められること」、JCLP/IGES共催 EV公開ウェビナー(2021年12月2日)に編集部で加筆して作成
100年に一度の自動車革命とEV100イニシアティブ
〔1〕CASE時代と3つの国際イニシアティブ
現在、「CASE」注2といわれる、100年に一度の自動車革命が、自動車業界の構造改革を促進し、業界の再編を加速している。世界各国では、パリ協定(COP21で採択。2015年)以降、地球温暖化対策と密接に関係しながら、AIやIoT、5G、クラウドなどのICT技術を活用し、自動運転車もターゲットに入れた、よりインテリジェントなEVへとシフトしている。
このようなCASEへと進化する車は、自動車革命における、
- エネルギー転換 ⇒エネルギーをガソリンから電気へ転換し、再エネ100%を利用する(RE100)
- 自動運転・MaaS注3 ⇒エネルギー効率や生産性を向上させる(EP100)
- 技術転換 ⇒エンジン車からZEVへ技術転換する(EV100)
の変化とともに、同時並行的に密接に関連していくと見られている。このため、「RE100」「EP100」「EV100」の3つの国際イニシアティブへの関心が高まっている。
〔2〕EV100とその新コミットメント「EV100+」
- 企業における商用車のEV化を目指す
EV100とは、どのような活動を展開しているのだろうか。
EV100は、RE100(2014年設立)、EP100(2016年設立)に続いて、2017年に設立された国際企業イニシアティブで、その加盟数は2021年12月現在、RE100に次いで120社(うち日本7社)と多い(図1の右表参照)。
現在、運輸部門からのCO2排出量は、全世界のCO2排出量の23%を占めているが、そのうち自動車〔個人の自家用車や企業の商用車(トラック等の貨物車など)〕からのCO2排出量は7割以上(約74%)も占めている(後出の図4参照)。そのため、自動車の電化(EV化)はこの課題解決への大きなソリューションの1つとなっている。 - 新コミットメント「EV100+」
このような背景のもと、EV100イニシアティブは、表1に示すように、企業の商用車のEV(ZEV)化注4や充電器の設置などを含む4つの活動を推進している。
現在、2030年までに企業が直接管理する車両(所有およびリース)のEV化については、既存コミットメントとして、次のことを目指している。
- 3.5トン(t)以下の車両の100%をEV化すること
- 3.5〜7.5トンの車両の50%をEV化すること
表1 EV100イニシアティブのプロフィールと主な活動
注:EV100では、BEV(バッテリーEV)、PHV・エクステンデッドレンジ車(最低50kmの電動走行距離)、FCVがEVの対象。
出所 JCLP事務局、「加速するEV転換への世界的潮流 〜今、需要家企業に求められること」、JCLP/IGES共催 EV公開ウェビナー(2021年12月2日)に編集部で加筆して作成
しかし、今後、EV化に向けての技術開発が進展し、市場のニーズが乗用車からトラックなどの重量車両(商用車)にも拡大することが予測されることから、比較的軽量の車両(3.5〜7.5トン)については、図2上部2段目に示すように、2035年までに100%EV化する新コミットメントが追加された。
図2 EV100の既存コミットメントとEV100+に向けた新コミットメント
ZEV:Zero Emission Vehicle、排出ガスを一切出さない電気自動車(BEV)や燃料電池車(FCEV)を指す。国や調査機関等によってプラグインハイブリッド車(PHV)やハイブリッド車(HV)を含める場合もあるので留意することが必要。
出所 JCLP事務局、「加速するEV転換への世界的潮流 〜今、需要家企業に求められること」、JCLP/IGES共催 EV公開ウェビナー(2021年12月2日)に編集部で加筆して作成
さらに、図2の上から3段目、4段目に示す「新コミットメント」には、
- 7.5〜20トンの車両のうち、まず軽い方の車両をEVに転換し、続いて重い方の車両をEVに転換していく。そして、2035年までに100%EV(ZEV)にすること
- 20トン以上の車両については、2040
年までに100%EV(ZEV)にすること
などを打ち出した。このような大型車両を対象とした新コミットメントを実現するため、TCG(クライメートグループ)では、「EV100+」という新しいイニシアティブの立ち上げを準備しており、現在、初期メンバーを募集している。