電気のトラッキングに関する制度
電気のトラッキングは、世界各地域で制度化されている。
ここでは、欧州、北米、その他の地域(International REC、国際再生可能エネルギー証書)、日本の制度の概要を紹介する。これらの制度は電力証書とセットになっているが、制度に従わず、証書化を行わない電気のトラッキングが可能となる場合もある。
〔1〕欧州のトラッキングに関する制度注3
欧州では、2001年に発効された「2001/77/EC:European Union Directive for promoting renewable energy use in electricity generation注4」から、「Guarantee of Origin」(GoO、原産地証明)の制度化が開始され、GoOの運用・管理機関を各国に1機関設置することが定められた。さらに、2009年の「Directive 2009/28/EC」には、GoOの詳細な運用方法や証明に含まれる情報が明記された。
上記の指令のもと、各国の運用・管理機関の協会であるAIB(Association of Issuing Bodies)という団体が、EECS(European Energy Certificate System)と呼ばれるGoOの発行・管理(移転・償却などを含む)に関わる仕組みの運用ルールを維持管理している。
各国の運用・管理機関は、登録された発電所情報や証書に関する情報などを含む登録簿を管理している。2021年8月現在、欧州連合の27カ国に加えてスイス、ノルウェー、アイスランドがAIBのメンバーとなっている注5。
〔2〕北米のトラッキングに関する制度注6
北米(米国、カナダ、プエルトリコ)では、発電事業者向けに「Renewable Energy Certificate」(REC、再生可能エネルギー証書)を発行する10のトラッキングシステムが、各地域ごとに運営されている。地域の区分は、米国東部のPJMなど送電機関(Independent System Operator, Regional Transmission Operator)の管轄地域と同一となっているところもあるが、米国・カナダ西部の州など送電機関の管轄を越えてトラッキングシステムの範囲を設定している地域もある。
これらのトラッキングシステムの中には、再エネ以外の電源のトラッキングを行うものもある。また、トラッキングシステムを導入していない州もある。
トラッキングシステムは電子データベースであり、発電された電気の1MWhごとに、発電事業者に対してRECを発行する。発行されたRECには、発電地点、電源種、発電設備の所有者、定格発電容量などの情報が含まれる。また、RECの権利移転もトラッキングシステム上で行うことができる。このRECの取引は卸売電力レベルであり、最終需要家への販売はブローカーを通じて行われる。
〔3〕その他の地域におけるトラッキング注7
欧州・北米以外の地域では、2021年8月現在、中国やインド、ロシアを含め、中南米、アフリカ、中東、アジアの41カ国が、オランダに本部をもつ非営利組織「International REC Standard Foundation」(国際REC標準財団)によって運営の仕組みや規則が決められている「属性トラッキング」(基本的には欧州・米国と同じように、発電方式や場所などの属性情報を管理)を採用している。
International REC(以降、I-REC)では、各国に1組織の証書発行機関が定めらている。I-REC Standard Foundationでは発電所の情報などを含む管理簿を維持し、証書運用・管理機関として機能する。参加国の中には日本も含まれているが、日本には他のトラッキングシステムも併存しているので特殊事例といえる。その詳細は後述する。
〔4〕日本のトラッキングに関する制度
日本においては、2021年8月現在、複数のトラッキングシステムが併存している。それぞれについて以下で概説する。
(1)グリーン電力証書注8
グリーン電力証書は、2001年に運営を開始した民間の電力証書制度である。
証書発行事業者が発電事業者と提携、または自社の電源を使用し、認証機関(一般財団法人日本品質保証機構)に設備認定を申請する。証書発行事業者は、設備認定を受けた後、発電量のデータとともに発電量の認証を認証機関に申請して認証を取得した後、電力証書を発行できる。
対象となる電気は、固定価格買取制度(FIT)を使っていない発電所で発電された電気に限定される。認証機関は登録簿を管理し、証書運用・管理機関の機能も果たす。
(2)トラッキング付非化石価値証書注9
非化石価値証書とは、小売電気事業者による「エネルギー供給構造高度化法」注10の目標達成を支持するツールとして、非化石電源(再エネおよび原子力)に由来する電気を証書化したものである。
この証書の取引市場である「非化石価値取引市場」は、2018年に運用が開始された。非化石価値証書そのものは、発電所の属性情報を含まないものであるが、2019年度から、発電所の属性情報を証書に付与するトラッキング実証実験が、FIT電源で発電された電気の証書を対象に開始された(図1)。
図1 発電所の属性情報を非化石価値証書に付与するトラッキング実証実験のイメージ
出所 https://www.unisys.co.jp/solution/lob/energy/fit_tracking/pdf/20211026_non_fit_tracking.pdf
2021年に入り、経済産業省・総合資源エネルギー調査会の制度検討作業部会注11において、非化石価値取引市場の見直しが行われている。この見直しは、需要家が再エネ調達を容易にできるようにする目的で、FIT非化石証書を取引する「再エネ価値取引市場」と、非FIT非化石証書を取引する「高度化法義務達成市場」に市場を分けることが提案されている(図2)。この中で、FIT非化石証書については全量をトラッキングするとしているが、非FIT非化石証書については、「着実な増加」を目標としている。
図2 「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」の2つの非化石価値取引市場
※RE100への活用には、発電所の位置情報等のトラッキングが行われている必要がある。
出所 以下のサイトをもとに編集部で作成
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/036_s01_00.pdf
2021年2月、一般社団法人ローカルグッド創成支援機構が、日本におけるI-RECの発行主体となった注12。同機構は、非化石証書の制度枠組みの中で、非FIT電源のトラッキングのみを提供し、非化石価値の発行や取引に関しては既存システムに介入しないという方式をとる。
(3)J-クレジット注13
J-クレジット制度とは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度であり、電気のトラッキングシステムではないが、再エネ発電由来のクレジットがグリーン電力証書などと並列に扱われることもあるため、参考までにここで触れておく。
J-クレジットは、プロジェクトごとに認証およびクレジットの取得が行われ、プロジェクトの属性(例:省エネ、燃料転換、森林経営、再エネ発電)を特定した購入が可能である。このうち、再エネ発電に由来するクレジット創出のプロジェクトの代表例として、一般社団法人低炭素投資促進機構注14が運営管理するプロジェクト「住宅における太陽光発電設備の導入」注15があり、住宅用太陽光の自家消費分をクレジット化している。t-CO2注16ベースでは、プログラム型(複数のクレジット創出源を束ねたプロジェクト)の約75%が太陽光発電のプロジェクトである。当プロジェクトでは、他のトラッキング制度とは異なり、発電量の定量は標本調査と統計的手法によって行われている。
▼ 注3
国立研究開発法人科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター、「グローバル企業による信頼性の高い再エネ調達のために」、2018.3、pp.14-16
▼ 注4
発電における再生可能エネルギーの使用を促進するための欧州連合指令:2001/77/EC。
▼ 注5
Association of Issuing Bodies; AIB member countries/regions(アクセス日:2021.08.28)
▼ 注6
https://19january2021snapshot.epa.gov/greenpower/renewable-energy-tracking-systems_.html
▼ 注7
The International REC Standard(アクセス日:2021.08.28)
▼ 注8
一般財団法人日本品質保証機構、グリーンエネルギー認証(アクセス日:2021.08.28)
▼ 注9
経済産業省、制度検討作業部会(アクセス日:2021.09.04)
▼ 注10
エネルギー供給構造高度化法:電気やガス、石油事業者などのエネルギー供給事業者に対して、再エネをはじめとした非化石エネルギーの利用や、化石エネルギーの有効活用を促進するための法律。すべてのエネルギー提供事業者に対するものではなく、定められた条件にあてはまる電気・ガス・石油事業者などが対象。電気事業者の場合、年間販売電力量が5億kWh以上の小売電気事業者が対象となる。
▼ 注11
制度検討作業部会
▼ 注12
一般社団法人ローカルグッド創成支援機構、News(アクセス日:2021.08.28)
▼ 注13
J-クレジット制度(アクセス日:2021.08.28)
▼ 注14
一般社団法人低炭素投資促進機構:Green Investment Promotion Organization(GIO)
▼ 注15
https://japancredit.go.jp/project/index.php#result
→プログラム型 P43参照
▼ 注16
t-CO2:温室効果ガスの発生量(重量t)を表す単位。地球温暖化係数(あるいは排出係数)の異なる6種類の温室効果ガスをCO2基準で換算し重量で表したもの。