[クローズアップ]

ブロックチェーン技術は再エネトラッキング、電力証書発行・取引に有効か?

2022/01/09
(日)
大串 康彦 米国LO3 Energy Inc. 事業開発ディレクター(日本担当)

おわりに:ブロックチェーン技術が発揮できる価値の創出

〔1〕二者間または複数の組織間の証明基盤としてのブロックチェーン技術

 再エネトラッキング・電力証書取引にブロックチェーン技術を応用するとき、同技術が提供するものは、二者間または複数の組織間の証明基盤である。

 前者は、発電の由来に関する主張とその発信者(発電事業者や証書発行者など)を結びつけて需要家に証明書として提供すること、後者は、証書発行者、運用・管理機関、認証機関など複数のステークホルダーが、それぞれの権限で提供する情報を改竄不能な情報基盤上で共有することが考えられる。

 また、これらの複合モデルとして、複数組織間の情報共有基盤上で二者間の取引を安全に行うことも可能であり、ステーブルトークン(価格が安定するように設計された暗号資産)を使用した、再エネ証書の売買などが考えられる。

 しかし、前述したように、新規に単独のブロックチェーン技術を基にしたシステムを構築できる機会は限定されると考えられ、既存システム側の改修も必要となる場合が多いだろう。

 ブロックチェーン技術の導入と合わせて既存システムも改修し、システム全体としての整合性を取りながら、再エネ証書の信頼性や利用者への便益を向上させることが望ましい。

〔2〕ブロックチェーン技術は新たな再エネ調達トレンドに価値発揮の可能性

 ブロックチェーン技術の再エネトラッキング・電力証書取引への応用は、現在ではまだ初期段階ということができ、その開発導入費用に関するデータも乏しい。便益が、その開発導入費用を明らかに上回る事例が出現するかどうかが、今後の着目点の1つである。

 欧米の電力証書の取引はこれまで、1年間など長い時間の電力量を積算し、1MWh単位で電力証書を発行・取引していた。

 しかし、今後はグローバルIT企業を中心に、実時間で再エネを調達する方法への方向性が示されている注19、20

 また電力証書も、このような再エネ調達のトレンドに対応できるように、時間の単位を1時間に短縮したり、発電量1MWh以下の証書の発行に対応しようとしたりしている注21

 このようなトレンドの中で、電力データや証書の管理、取引は複雑化する傾向にある。今後、証明・流通基盤を提供するブロックチェーン技術が、価値を発揮する機会は増えると考えている。

[謝辞]本稿作成に際しては、カウラ株式会社の紫関昭光氏、大磯和広氏、田町京子氏からブロックチェーン技術の応用に関して貴重な意見を頂いた。ここに感謝申し上げる。

筆者Profile

大串 康彦(おおぐし やすひこ)

米国LO3 Energy Inc. 事業開発ディレクター(日本担当)、カウラ株式会社 アドバイザー

カナダUniversity of British Columbia理学修士課程修了(資源管理・環境学)。2017年以来、電力・エネルギー分野でのブロックチェーン技術の応用を探求。IEEE P2418.5 エネルギー分野のブロックチェーンに関する標準化ワーキンググループメンバー、経済産業省「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」オブザーバーなどを務めた。


▼ 注19
Google Sustainability; Progress; Carbon-free energy(アクセス日:2021.09.10)

▼ 注20
Official Microsoft Blog; Made to measure: Sustainability commitment progress and updates, July 14, 2021(アクセス日:2021.09.10)

▼ 注21
Webinar; Energy Tag; 2021.9.8; A Path to Solving the Complexity of Fractional RECs : Issuance, Transaction, and Retirement

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