[連載]

都市の未来にふさわしい、新しい電力供給(配電)方式を!

─ エネルギー供給強靱化法に基づく新しい配電設備に何が必要か ─
2022/01/09
(日)
勝又 淳旺 エバーグリーンエナジーイニシアティブ 代表取締役社長

再エネの主電源化および脱炭素時代を迎え、災害に強い分散型電力システムなどの構築に向けて、「エネルギー供給強靱化法」(注1)が2020年6月に成立し、2022年4月から施行される。この法律によって、地域の太陽光発電などの分散小型電源を含む配電網を運営し、同時に緊急時には独立した配電網として運用できるよう、「配電事業」が初めて法律上に位置付けられた。このため、新しく配電事業に参入する事業者は、新たな「配電事業ライセンス制度」(注2)によって事業参入できるようになる。
ここでは、新時代を迎えた配電設備の現状と課題、新しい解決策などを提言する。

配電業務の内容と配電用変電所の課題解決

〔1〕配電事業者の業務例

 一般家庭や企業などに電気を送る電力システム(電力系統注3)に関する業務には、計画、建設、設備の運転(運用)、設備維持(点検保守)、事故時の設備復旧などがある。

図1にその一例を、図2に送配電網の基本構成と配電網の役割を示す。

 現在、計画業務は、建設から事故時の復旧までを考慮しながら進められている。さらに、停電時の復旧時間などを含めた信頼性についても、国際的に統一した基準(ルール)のもとに、設備が一定の期間に、通常経験しているトラブルを短時間で解消できることを前提に行っている。

 一方、通常では予測できない、例えば数十年に一度の台風や豪雪などの異常気象によって系統設備が損壊してしまい、停電からの回復が遅れるケースもある。このような災害の場合には、既存の系統の復旧を待たずに、電力会社が災害発生時に備えている移動電源車などを利用して復旧する。

〔2〕配電用変電所の新設計画の事例

 「エネルギー供給強靱化法」の成立以降、特に「長時間停電の回避」や「配電事業ライセンス」(図3)などが話題になっていることから、ここでは、配電用変電所の新設計画の事例を紹介する。同時に、配電用変電所が現在抱えている課題解決に向けて、地方自治体を経営主体とする「地域(自治体)電力」のあり方を考えてみる。

図3 電力システムにおける配電網の位置付けと配電事業ライセンス

図3 電力システムにおける配電網の位置付けと配電事業ライセンス

配電事業ライセンス:一般送配電事業者(旧大手電力会社10社)が所有する配電網を、一般送配電事業者以外の事業者に譲渡または貸与し、配電系統の運用を行うことを可能とするために、事業の新規参入者に国が与える認可のこと。
出所 日立総合計画研究所(日立総研)作成


▼ 注1
正式名は「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律

▼ 注2
配電事業ライセンス制度:これまでは送電網も配電網も、一般送配電事業者(旧大手電力会社10社)によって管理・運営されてきた。新しく制定された「エネルギー供給強靱化法」では、そのうち需要家に近い配電網を一般送配電事業者から切り離し、「配電事業」として独立してビジネスができるよう法律で位置付けられた。このため、国が「配電事業ライセンス」を設けて、一般送配電事業者が新規参入事業者に対して、既存の配電網を譲渡あるいは貸与(貸し出し)し、配電網を運用・管理できるようになった。令和4(2022)年4月から開始予定。

▼ 注3
電力系統:Power System、単に「系統」ともいう。電力を一般家庭や企業などの需要家の受電設備に供給するために、「発電所から変電所、送電網、配電網」を統合したシステム。
受電設備とは、発電所から変電所を通して送られてくる6,600Vの電気を100Vや200V等に変圧する設備で、キュービクル(Cubicle)ともいう。なお、全国の変電所の数は約6,700カ所あり、そのうち、配電用変電所(その電圧はほぼ77kV以下)の数は約5,700カ所(2017年3月末現在)ある。
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/system_kouchiku/010/010_04.pdf

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