強靭(レジリエント)で持続可能な電力の供給体制
〔1〕エネルギー供給強靱化法が目指すもの
2022年4月1日、「エネルギー供給強靱化法」注1に基づく新しい制度が、次々にスタートした。「エネルギー供給強靱化法」は、2015年から6年にわたって行われた電力システム改革(2015~2020年)注2の総仕上げともなった「送配電部門の法的分離」(第3弾)が2020年4月1日にスタートした後の、2020年6月5日に成立した、レジリエントな電力システムを目指した制度改革である。
同時に、次世代の再エネ主力電源時代に備えた、新しいビジネスとそれを支える新しい制度でもある。
〔2〕3つの法改正を含む「エネルギー供給強靱化法」
「エネルギー供給強靱化法」は、図1に示すように、①電気事業法改正、②再エネ特措法改正、③JOGMEC(ジョグメック)法改正という3つの法改正を統合した法律だ。これらの法改正の背景には、今後、日本における強靭(レジリエント)で持続可能な電力の供給体制を確保するために、次のような喫緊の対応が求められていることがある。
図1 エネルギー供給強靱化法:3つの法律で強靱かつ持続可能な電力供給体制を確立
出所 https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200225001/20200225001.html
- 多発する自然災害への対応
まず、次のような自然災害への取り組み。
①東北地方を襲った「東日本大震災」(2011年3月)、あるいは北海道厚真町(あつまちょう)の「平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震」(2018年9月)、さらに、最近では2022年3月の福島県沖地震
②台風15号(令和元年房総半島台風、2019年9月)/台風19号(令和元年東日本台風、2019年10月)、などの多発する自然災害による大規模停電や電力システム災害 - エネルギー安全保障への対応
度重なる中東などの紛争や戦争(最近ではロシアによるウクライナ侵攻)などによる、不安定な石油・天然ガスの輸入危機やそれに伴う価格の高騰など、世界のエネルギー情勢の急変に伴う日本のエネルギー安全保障に関する取り組み。 - 再エネの主力電源への対応
2050年カーボンニュートラルの実現を目指して、第6次エネルギー基本計画に基づく、太陽光や風力発電などの再エネの主力電源化に向けた大量導入の取り組み。
〔3〕エネルギー供給強靱化法:3つのポイント
この「エネルギー供給強靱化法」は、表1に示すように、3つのポイントで構成されており、これを具体的するため、2022年4月1日から以下の制度が次々にスタートした(図2)。
表1 3つの法改正を含む「エネルギー供給強靱化法」のポイント
JOGMEC(ジョグメック):Japan Oil, Gas and Metals National Corporation、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構。石油・天然ガス、金属鉱物、石炭および地熱の安定的かつ低廉に供給すること等を目的に、資源全般をカバーする組織。設立:2004年2月29日。
出所 以下をもとに編集部で作成
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200225001/20200225001-5.pdf
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200225001/20200225001.html
- 配電ライセンス制度
- アグリゲーターライセンス制度
- 特定計量制度注3(機器個別計量。特例計量器の使用を可能とする制度、本誌2022年2月号で紹介)
- FIP制度(本誌2022年2月号で紹介)
図2 アグリゲーションビジネス(ERAB)に関連する制度整備とロードマップ
インバランス制度:電力の需要量と供給量の差(ズレ)を「インバランス」(電力供給量の過不足)と呼ぶ。インバランスが発生すると、小売電気事業者(あるいは発電事業者)等は一般送配電事業者が確保している「調整力」で、不足分の電力量を補ってもらうことになる。この場合、不足分のインバランス料金を(一般送配電事業者に)支払うことになり、小売電気事業者(あるいは発電事業者)等のコスト負担は大きくなる。
出所 資源エネルギー庁「アグリゲーター制度の詳細の設計」、2021年3月17日
▼ 注1
正式名称は「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」。2020年2月25日閣議決定、2020年6月5日国会で可決・成立し、一部の規定を除き、2022年4月1日に施行。
▼ 注2
電力システム改革:第1弾:2015年4月1日に電力広域的運営推進機関(広域機関、OCCTO)が設立、第2弾:2016年4月1日に電気の小売&発電全面自由化、第3弾:2020年4月1日に送配電部門の法的分離による一般送配電事業者の設立。
▼ 注3
現行のスマートメーターは、10年ごとに計量法に基づく検定が必要。これとは別に、計量法の改正によって、2022年4月1日から「特定計量制度」※1がスタートした。これにより、電気計量制度の合理化を図る措置として、検定を不要とする「特例計量器」が事前届出で使用できるようになった※2。
このため、従来は、HEMSを使ってデータを伝送していた太陽光発電のPCS(パワコン)やEV用充電器、家電機器などに、簡易な「コンセント型の特例計量器」などを設置してスマートメーターと連携させて、各種電気取引を行うことも可能となった。
※1 経済産業省「特定計量制度に係るガイドライン」、令和4(2022)年4月1日
※2 第8回 次世代スマートメーター制度検討会・資料1「Bルート運用ガイドライン及び特定計量の詳細検討に関する報告」、2022年3月8日