CO2排出量管理ツールの最新動向
〔1〕一次レポートで見える化ツールや技術の一覧を公開
今後、「見える化WG」ではこのような領域で検討を進めることで、サプライチェーン排出量の見える化を推進していくことになるが、このようなコンソーシアムの取り組みと並行して、個々の企業がCO2排出量見える化のための技術やツールを、すでに提供している。
同WGでは、既存の技術を活用することもサプライチェーン排出量の見える化の仕組み実現には重要だと考え、一次レポートの中でWGの参加企業の見える化ツールや技術の一覧を公開している。
同レポートで紹介されているリストをもとに整理をしたものが図7である。
図7 CO2排出量見える化関連技術・ツール
注1:各項目は「技術・ツール名(提供企業名)」という形式で記載している。
注2:一次レポート42ページに紹介されている技術やツールをすべて含めている。
注3:執筆時点では実証実験中で市販されていないものもあったが、実証実験中の機能等をもとに分類している。
注4:Persefoni(パーセフォニ)の代理店を務めるSCSKは日本企業だが、Persefoni自体は米国の企業なので外資系企業に分類している。
出所 Green x Digitalコンソーシアム、見える化WG、「サプライチェーンCO2の“見える化”のための仕組み構築に向けた検討」(2022年3月31日)、42ページをもとに筆者作成
このうち「“見える化”技術」は、CO2見える化を実現するための個々の技術を指しており、「“見える化”ツール」は、技術に加えてユーザーが結果の確認や分析などを行うことができる機能まで提供されているものを指す。また「総合ツール」は、「“見える化”ツール」と同等の機能に加えて、他の企業システムとの連携機能などを備えたものを指す。
〔2〕見える化ツールと他の業務システムを連携
Green×Digital コンソーシアム見える化WGの一次レポートで紹介されている技術やツール、そして提供企業を整理すると、マイクロソフトやIBM、SAPなどを中心に従来から企業向けの業務システムなどを提供してきた企業は、見える化ツールを他の業務システムなどと連携させることができる「総合ツール」として打ち出している。
例えば、図8に示すSAPは、同社のERP(企業資源計画ツール)に蓄積している販売データや原価を算出するための明細情報などと組み合わせて、CO2排出量の計算をリアルタイムに行える点を特徴としている。
図8 SAPのCO2排出量をリアルタイムに集計・分析する基盤
出所 SAP PCFA(Product Carbon Footprint Analytics)紹介 | SAPジャパン ブログ
〔3〕CO2排出量の見える化に特化した「“見える化”ツール」
一方、CO2排出量の見える化に特化した「“見える化”ツール」を提供する企業も登場している。この分野では、NECや富士通などの大手企業だけではなく、新興企業も増えている。
例えば、見える化ツールzeroboardを提供するゼロボードは、2021年9月に事業を開始した企業である。同社が提供するzeroboardは、CO2排出量の算出・把握に加えて、排出量の削減・カーボンオフセット取引、そして情報開示・サプライチェーン内での可視化などの機能を提供しており、現在は西部ガスなどの企業、そしてふくおかフィナンシャルグループなどの金融機関をソリューションパートナーとして事業を広げている。
また、ここまで紹介したようなシステムではなく、リコーによる再エネの発電から消費までをリアルタイムにトラッキングする電力取引管理システムなど、ブロックチェーン技術を活用した「”見える化”技術」の提供や実証実験に取り組んでいる企業も増えている。
CO2排出量の見える化:今後の急展開に注目
このように様々な企業が取り組んでいる現状を踏まえると、Green×Digitalコンソーシアムの「見える化WG」が目指している、共通データフォーマットやデータ運用管理体制の整備がいかに重要であることがわかる。
一口にCO2排出量の見える化といっても、この分野は、個々の企業の開発動向だけではなく、国際的な規制や情報開示の動き、それに応じた国内の省庁の動き、そしてGreen×Digitalコンソーシアムのようなコンソーシアムの動きなど、さまざまな動向の影響を受けながら進展していくことになる。今後の動向を注視していきたい。
筆者Profile
新井 宏征(あらい ひろゆき)
株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、現在はシナリオ・プランニングの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。最新刊は『実践 シナリオ・プランニング』(日本能率協会マネジメントセンター、2021年5月30日発行)東京外国語大学大学院修了、Said Business School Oxford Scenarios Programme修了。インプレスSmartGridニューズレター コントリビューティングエディター。