[[10周年記念]特集]

【事例1】インターネットイニシアティブ(IIJ)の白井データセンターキャンパス

― 再エネ100%の導入と最新鋭のハイパースケールデータセンターを目指す ―
2022/10/13
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

IIJ 白井データセンターキャンパス(白井DCC)

〔1〕第2期棟は2023年7月に開設

 インターネットイニシアティブ(以下、IIJ。表1参照)は、5GやIoT、AI、クラウドサービスなどの普及よって爆発的に増大するデータセンターの需要拡大に対応するため、2019年5月に、千葉県白井市に40,000m2の敷地を確保し、大規模データセンターとして、白井データセンターキャンパス(以下、白井DCC)を開設した(表2、写真1)。

表1 IIJのプロフィール(敬称略、2022年6月30日現在)

表1 IIJのプロフィール(敬称略、2022年6月30日現在)

出所 https://www.iij.ad.jp/company/about/outline/ をもとに編集部で作成

表2 千葉県白井市のIIJ白井DCCの設備仕様

表2 千葉県白井市のIIJ白井DCCの設備仕様

チラー:Chiller。冷却水循環装置。冷却器に水を循環させながら連続的に冷たい水を供給する装置のこと
UPS:Uninterruptible Power Supply、無停電電源装置。UPSは、「蓄電池」と「インバーター(交流/直流変換器)」を組み合わせた装置。停電時に一定時間(長時間ではなく)電力を供給可能にする
N+1冗長構成:Nとは電源の数を示す。N=1は単独運転を示す。N+1とは、同一機種の電源N台を並列接続する場合、その並列運転の台数(N)に冗長な1台(バックアップ用の1台)を加えてN+1台(冗長構成)にすることによって、非常用システムの信頼性を高める運転方式
出所 IIJ「白井データキャンパス」をもとに編集部で作成

写真1 千葉県白井市に開設した、システムモジュール方式のデータセンター
(左がデータセンター1期棟、右は管理棟)

写真1 千葉県白井市に開設した、システムモジュール方式のデータセンター(左がデータセンター1期棟、右は管理棟)

システムモジュール方式:建築を構成する部材を標準化することによって、建築生産トータルをシステム化するシステム建築の工法を取り入れた方式。無柱の大空間の構築に向き、品質を維持したまま短工期でコスト削減を実現し、柔軟な拡張性にも優れている
出所 IIJ提供

 同キャンパスには、現在、さらなる需要の拡大に備えて、2023年7月開設予定で第2期棟の建設が進められている。

 IIJの基盤エンジニアリング本部 基盤サービス部長 久保 力氏は、「IIJは、クラウドサービスの主要拠点の1つとして、クラウドに最適化された日本初の外気冷却機構を採用したコンテナ型データセンター注1を、2011年4月に、島根県松江市に「松江データセンターパーク(以下、松江DCP)として開設し、2013年11月には、隣接地に同規模のサイト2を開設するなど、デジタル化時代における需要拡大に対応しています。一方、千葉県の白井DCCは、松江DCPの経験とノウハウを反映した先進的なデータセンターとなっています」と語る。

〔2〕リアルな太陽光パネルも導入へ

 IIJは、現在注目されている、データセンターのカーボンニュートラルや電力使用効率(PUE)についても積極的に取り組んでいる。

 カーボンニュートラルにどう取り組んでいるか、すなわち、気候変動に対してIIJが具体的どのように取り組んでいるかという、情報の開示を求めるTCFD注2へのIIJの開示内容は、次の通りである。

  1. 2030年までに、同社のデータセンターの再エネ利用率を85%(スコープ1、2注3)まで引き上げる。
  2. 2030年までに、PUEについて業界最高水準を目指す。

「松江DCPは、すでに業界トップクラスのPUE1.2を実現しています。白井DCCも、2022年度はPUE1.3(見込み。設計値はPUE1.2)になっています。これは、図1の国内データセンターの平均のPUE1.7(JDCCの市場調査による)に比べて、先進的な電力使用効率を実現しています。再エネの利用については、松江DCPでは2022年の4月に完全に切り替え、グリーン電力証書によって再エネ100%を実現しています。白井DCCについても、現在、どのタイミングで再エネ100%に切り替えるかを検討しているところです。」と、久保氏は再エネ100%導入の方針を述べた。

図1 国内データセンターのPUE値:国内98カ所(N値)のPUE値の平均は1.7程度

図1 国内データセンターのPUE値:国内98カ所(N値)のPUE値の平均は1.7程度

N値:データセンター数のこと
【出典】日本データセンター協会、2021年4月8日付資料より
出所 IIJ「カーボンニュートラルデータセンター実現への取り組み」、2022年7月28日

 さらに同社では図2に示すように、太陽光発電パネルをデータセンターの屋根に置いて自家消費する、リアルな再エネ導入の取り組みも2022年度から具体的に開始している。

図2 IIJの松江DCPと白井DCCのオンサイト太陽光発電の導入計画

図2 IIJの松江DCPと白井DCCのオンサイト太陽光発電の導入計画

出所 IIJ「カーボンニュートラルデータセンター実現への取り組み」、2022年7月28日

〔3〕カーボンニュートラル実現に向けて「レファレンスモデル」を策定へ

 IIJでは、「省エネの推進」や「再エネの利用」の両面から、カーボンニュートラルに向けて、オフサイトPV(太陽光パネル)群をはじめ、オンサイトPV、風力発電、水素発電、バイオマス発電、蓄電池までも含めた、新しいデータセンターのレファレンスモデル(参照モデル)を策定している(図3、表3)。

図3 IIJが考えるカーボンニュートラルデータセンターのレファレンスモデル

図3 IIJが考えるカーボンニュートラルデータセンターのレファレンスモデル

出所 IIJ、「Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.53」、2021年12月24日発行

表3 IIJのカーボンニュートラルデータセンターのレファレンスモデル:省エネと再エネの利用施策

表3 IIJのカーボンニュートラルデータセンターのレファレンスモデル:省エネと再エネの利用施策

出所 IIJ「カーボンニュートラルデータセンター実現への取り組み」、2022年7月28日

 これらを背景に、IIJでは、当面、ステップ1〜ステップ2-bの4段階のカーボンニュートラル実現のためのロードマップに基づいて、グリーン電力証書とリアルな太陽光発電の両面から、再エネの導入を推進している。

【ステップ1】再エネ由来の電力/グリーン電力証書注4を購入し、早期に再エネ率を上げる。
【ステップ2】追加性注5の高い再エネ電力の比率を高める。
【ステップ2-a】費用対効果の高いオンサイト自家発電を松江DCPと白井DCCに導入。
【ステップ2-b】オフサイトPPA注6(自己託送注7を含む)による調達を推進(松江DCPと白井DCCで早期実現に向け検討中)。

 現状は、前出の図2に示したように、松江DCP(600kW)と白井DCC(400kW+600kW)で経済効果の高いオンサイトPPAを段階的に導入する計画が推進されている。ただし、全体の消費電力の数%しか賄えないため、【ステップ2-b】のオフサイトPPAからの電力調達が必要となっている。


▼ 注1
コンテナ型データセンター:IIJでは、サーバ等のIT機器を収める箱を「ITモジュール」と呼び、その箱にコンテナ(貨物の輸送等に使用される箱)を採用していることから「コンテナ型データセンター」と呼んでいる。

▼ 注2
TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース。TCFD は、2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対して「ガバナンス(Governance)」「戦略(Strategy)」「リスクマネジメント(Risk Management)」「指標と目標(Metrics and Targets)」の項目について開示することを推奨している。
2022年5月31日現在、TCFDに対して世界全体では金融機関をはじめとする3,395の企業・機関が賛同を示し、日本では878の企業・機関が賛同の意を示している。

▼ 注3
スコープ1、2:GHGプロトコル(イニシアティブ)が規定している企業などのCO2排出量を把握するためのCO2を算定するもので、スコープ(Scope)1、2、3の3つの範囲がある。スコープ1は自社自らによるCO2の直接的な排出量、スコープ2は他社から供給された電気や熱・蒸気の仕様などに伴う間接的なCO2排出量、スコープ3はスコープ1、2以外の間接的なCO2排出量と規定されている。

▼ 注4
グリーン電力証書:発電時に化石燃料を用いない電気(非化石電源)がもつ「非化石価値」を証書にして売買する制度・市場において使用される証書。RE100などの地球温暖化に関する環境報告書に活用可能。

▼ 注5
追加性:再エネ電力の購入が、新たな再エネ電源の普及拡大に寄与すること。

▼ 注6
PPA:Power Purchase Agreement、需要家と電力事業者(PPA事業者)間で結ぶ電力販売契約。需要家がPPA事業者に対して敷地や屋根などのスペースを提供し、PPA事業者が太陽光パネルなどを無償で設置し、その運用・保守を行う。PPA事業者は発電した電力の自家消費量を検針し、需要家はその電気料金を支払う。需要家側には、初期費用・メンテナンスが不要、再エネ賦課金がかからないなどのメリットがある。
需要家から離れた遠隔地に太陽光パネルを設置する場合はオフサイトPPAと呼び、需要家の屋根や敷地に太陽光パネルを設置する場合はオンサイトPPAと呼ばれる。

▼ 注7
自己託送:遠隔地にある自社発電所で発電された電気を、送配電網を介して自社設備へ送電する仕組み。

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