注目された2つのテーマ:グローバル・ストックテイク(GST)とロスダメ
─編集部 COP28では1.5℃目標を達成するために、たくさんのことが議論され、たくさんの決定や合意がなされましたが、今回のCOP28で特に焦点になった重要課題について説明してください。
〔1〕初めて実施された「グローバル・ストックテイク」
田村 はい。COP28では、2つの大きな注目点がありました。
1つは、初めての(第1回目の)グローバル・ストックテイク(Global Stocktake 。以下、GST)が実施されたということ、もう1つは、損失と損害(Loss and Damage)という課題への対応が採択されたということです。
─編集部 1つ目のGSTとはどのようなものですか?
田村 GSTはパリ協定の第14条で定められているのですが、パリ協定の目標達成(現在の目標は1.5℃目標)に向けて、各国政府が策定したCO2 などの温室効果ガス(コラム参照)の排出削減目標の実施状況を集約して検討し、パリ協定の目標の達成に向けた世界全体の進捗状況を評価するための仕組みです。GSTは5年ごとに実施されます。
このGSTの評価結果をもとに、各国政府は自国が定める貢献(NDC:Nationally Determined Contribution、排出削減目標)を、今後、更新・強化するにあたって、GSTの情報を活用することになります。なおNDCは、各国からCOP28の主催事務局であるUNFCCC注8に提出します。
《コラム》温室効果ガスとは?
温室効果ガス(Greenhouse Gas)はGHGと略称される。温室効果ガスは大気圏にあり、地表から放射された赤外線の一部を吸収することで温室効果をもたらす。
後出の表2に示すように、温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)のほか、ハイドロフルオロカーボン類(HFC)、パーフルオロカーボン類(PFC)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3)という4ガスを加え、合計7種類のガスがある。
日本の温室効果ガス中で、CO2は全体の90%以上を占める※)ため、日本では温室効果ガスのことを代表してCO2と呼ぶ場合が多い。
温室効果ガスの排出量の単位は、「百万トンCO2」換算などで表される。温室効果ガスにはいろいろな種類のガスがあるので、それぞれがおよぼす地球温暖化の影響を考慮して、「CO2の重さに換算(CO2相当の重さに換算)」して比較できるようにしている。
※ 例えば、2020年度の日本の温室効果ガス総排出量は11億5,000万トン(CO2換算)であったが、そのうちCO2の排出量は10億4,400万トンと、温室効果ガス全体の91%を占めた。
環境省/国立環境研究所、「2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要」
出所 以下をもとに一部加筆・修正して作成
https://sgforum.impress.co.jp/article/5294
(1)NDCとGSTの関係
─編集部 すなわちGSTというのは、現在、各国から提出されたNDCでは2050年の1.5℃目標を達成できない(削減目標が低い)ので、GSTで評価した内容をもとに、「もっと野心(NDCの目標)を引き上げてください」とハッパをかけているということですね。
もう少し具体的にNDCとGSTとの関係について、説明をお願いいたします。
田村 はい。図4は、各国から5年ごとに提出・更新されるNDCとGSTの関係を示していますが、COP28では初めて(第1回目の)GSTが実施されました。
図4に示すように、GSTはNDC提出の2年前に終了するような仕組みになっています。
第1回目のGSTは、2021年11月(COP26)から2023年11月(COP28)の約2年間に実施され、各国政府に対して、2025年の提出期限のNDC策定の参考となるように、GSTで評価した情報を提供します。
同様に第2回目のGSTは2028年(COP33)に実施され、その成果(情報)は2年後の2030年(COP35)のNDC策定に活用されることになります。
COP28で採択されたGSTの文書では、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)が提言した目標注9に基づき、「2030年までに全世界の再生可能エネルギーの設備容量を3倍に、エネルギー効率の年間改善率を2倍にする」という内容が盛り込まれました。これによって、各国が1.5℃目標の実現に向けて次期NDCを策定するうえで、かなり具体的な指標が打ち出されました。
図4 GSTと各国のNDC提出・更新との関係
(2)日本のNDCの内容
─編集部 日本のNDCの内容はどのようなものでしょうか。
田村 表2が、日本が令和3(2021)年に国連に提出したNDCの内容です。「2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減する」という目標・目安が具体的な数値で示されています。
COP28での第1回GSTを受けて、次の日本のNDCはさらに目標を高く検討し更新され、1.5℃目標の実現と整合性のとれた内容を2025年に提出することになります。
表2 日本のNDC:温室効果ガス(GHG)別その他の区分ごとの目標・目安※1
二国間クレジット制度: Joint Crediting Mechanism(JCM)。日本から途上国等への脱炭素技術の普及や対策実施を通じて実現した、温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価し、その評価内容を日本のNDCの達成に活用する制度。
出所 地球温暖化対策推進本部決定「国連に提出した日本のNDC(国が決定する貢献)」、令和3(2021)年10月22日 、
注8:UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change、国連気候変動枠組条約。ユーエヌエフ・トリプルシーと読む。
注9:IEAがCOP28の直前に発表した最新(下記)の Net Zero Roadmapに基づく提言。
IEA「Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach」2023年9月