[COP28スペシャルインタビュー]

IGES 田村堅太郎氏に聞く!《後編》  2050年/1.5℃実現に向けた削減目標と『IGES 1.5℃ロードマップ』

― COP28合意の「2030年までに再エネ3倍、エネルギー効率2倍」と、日本における5分野の達成可能なアクションプラン ―
2024/02/16
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

UAE(アラブ首長国連邦)のドバイで開催されたCOP28注1(2023年11月30日~2023年12月13日、写真1)における最終の合意文書では、COPとしては初めて「化石燃料からの脱却」に向けた内容が盛り込まれた注2。また、IGESはCOP28開催中の2023年12月6日に、5分野の達成可能なアクションプランをまとめた『IGES 1.5℃ロードマップ』を発表注3し注目を集めた。 後編では、IGES注4 気候変動とエネルギー領域プログラムディレクター/上席研究員、田村 堅太郎(たむら けんたろう)氏(写真2)に、世界の温室効果ガス注5排出量の現状とCOP28で合意された1.5℃に向けた削減目標、さらに『IGES 1.5℃ロードマップ』の概要と「第7次エネルギー基本計画」への展望についてお聞きした(文中敬称略)。

写真1 COP28(UAEドバイ、エキスポシティ・ドバイ)での化石燃料フェーズアウトアクションの様子出所 DECEMBER 13: Fossil Fuel Phase Out action at the UN Climate Change Conference COP28 at Expo City Dubai on December 13, 2023, in Dubai, United Arab Emirates. (Photo by COP28 / Andrea DiCenzo)

世界の温室効果ガスの排出量:第1位は中国

─編集部 地球温暖化の時代が終わり、地球沸騰化の時代が到来したといわれているように、世界の平均気温の上昇によって、猛暑日の増加、干ばつや山火事、豪雨による洪水の頻発、大雪の増加などによる災害が世界で急増しています。

田村 そうですね。そのような急激な気候変動を背景に、COP21(2015年)で「パリ協定」が採択されました。パリ協定の努力目標注6として掲げられた、「世界の平均気温の上昇を産業革命前(1850~1900年)と比べて1.5℃に抑える努力をする」という努力目標は、COP26(2021年)において「1.5℃に抑える努力を追求する(「1.5℃目標」)」とより強調されました。それは、2050年に1.5℃の上昇に抑えなければ、IPCC注7報告書などの科学的根拠に基づいて、身近に迫った気候変動による多くの被害や影響が回避できなくなるからなのです。

写真2  IGES 気候変動とエネルギー領域プログラムディレクター/上席研究員 田村 堅太郎(たむら けんたろう)氏

写真2  IGES 気候変動とエネルギー領域プログラムディレクター/上席研究員 田村 堅太郎氏

撮影 松本 裕之

─編集部 CO2を含む温室効果ガスの排出量は、世界的に見るとどのような状況なのでしょうか?

田村 図1に示す2020年における世界のエネルギー起源注8のCO2排出量は、317億トンCO2〔=31.7ギガトンCO2(31.7Gt CO2)〕となっています。コロナ禍の影響もあって2020年のCO2排出量は前年の2019年よりもやや減少しています。
 図1を見ると、CO2排出量の第1位は中国で、以下アメリカ、EU27カ国、インド、ロシアと続き、日本は第6位となっています。中国とアメリカ、EU27カ国の合計で50%以上も温室効果ガスを排出していることがわかります。

─編集部 この数字を見ると、途上国が先進国などによって引き起こされた気候変動に伴う損害&損失(ロスダメ)の補償を求める気持がわかります。

田村 そうですね。


注1:COP28:The 28th session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change、国連気候変動枠組条約第28回締結国会議。2023年11月30日~12月13日、UAEのドバイで開催された。
注2UN Climate Press Release:COP28 Agreement Signals “Beginning of the End” of  the Fossil Fuel Era、2023年12月13日
注3IGES 1.5℃ロードマップ
注4:IGES(アイジェス):Institute for Global Environmental Strategies、公益財団法人  地球環境戦略研究機関。地球規模、特にアジア太平洋地域の持続可能な開発の実現を図ることを目的として1998年3月に設立、1998年4月から発足した。理事長:武内 和彦。本部所在地:〒240-0115 神奈川県三浦郡葉山町上山口2108-11。職員数:193名(2022年6月30日現在)
注5:温室効果ガス:前編の「コラム」を参照
注6:パリ協定:COP21(2015年12月)で採択。「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という地球温暖化対策の基本となる国際的な取り決め。COP26(2021年)で「1.5℃を目標とする」とより明確になった。
注7:IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change、国連気候変動に関する政府間パネル。
1988年に世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)と国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)によって設立された政府間組織。各国政府に対して気候政策の策定に関する科学的情報の提供を目的としている。
注8:エネルギー起源のCO2:発電、運輸、および産業、家庭での加熱など、化石燃料をエネルギー源として使用する際に発生する二酸化炭素のこと。

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