カーボンニュートラル/脱炭素
[スペシャルインタビュー]

マクニカ イノベーション戦略事業本部 サーキュラーエコノミービジネス部 主席 阿部 博氏に聞く! 「ペロブスカイト太陽電池」が拓く自家発電・自家消費による脱炭素戦略

2024/08/30
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

鉛電池による家庭用蓄電システムも発売予定

編集部 御社は2024年6月に、「soldam(ソルダム)」という鉛電池による蓄電システムを発表されましたが注7、その開発目的や、この蓄電システムにリチウムイオン電池ではなく、鉛電池を使った理由について教えてください。

阿部 冒頭でお話しした通り、当社は「電気の自家発電・自家消費」の世界観を提供していきたいと考えています。そのための必須アイテムの1つとして蓄電池を位置付け、サーキュラー蓄電システム「soldam(ソルダム)」(1.2kWh/個を6個組み合わせた7.2kWhの蓄電システム)を発表いたしました(図8)。
 soldamは家庭用蓄電システムとして製品計画しており、そのためローコスト(リチウムイオン蓄電池に比べて約1/3程度)であること、また高い安全性を前提としています。鉛であれば、リサイクル製品を使うことで環境負荷とコストを抑えることができます。また発火トラブルを起こしにくいので、家庭でも毎日安全・安心に利用していただけます。ペロブスカイト太陽電池とsoldam(家庭用蓄電システム)で、「電気の自家発電・自家消費」を実現したいと考えています。
 図9に、このシステムの家庭への導入イメージを示します。

図8 「サーキュラー蓄電システムsoldam」のシステム構成例

出所 マクニカ「soldam」Webサイト、製品スペック

図9 ペロブスカイト太陽電池と蓄電システムの家庭への導入イメージ

出所 マクニカ「soldam」Webサイト、導入イメージ

編集部 2050年カーボンニュートラルの実現を目指して、2040年を視野に入れ、2035年度以降を見据えた経済産業省の第7次エネルギー基本計画の策定が今年(2024年)5月から始まりました注8。この基本計画にペロブスカイト太陽電池が組み込まれるといわれています。そういった状況も踏まえて、今後の展望をお聞かせください。

阿部 私もその話を聞き、政府からの期待をひしひしと感じています。同時に、この開発の目標値の高さも実感し、これからも頑張らないといけないと強く思っています。
 たびたび申し上げていますが、当社は脱炭素化の課題解決策の1つとして、自家発電・自家消費ができる社会環境づくりを進めたいと考えています。それをいち早く実現するために、ペロブスカイト太陽電池をはじめとして皆様に活用していただける技術や仕組みを作り、ご提供いたします。どうぞご期待ください。

※        ※       ※

 マクニカのペロブスカイト太陽電池の横浜・大さん橋における実証事業についてお聞きした。ペロブスカイト太陽電池はその用途を拡大しようとしている。
 現在、太陽光発電は太陽光パネルを建物とは独立させて屋根などに設置するシリコン型のBAPV(Building Attached Photovoltaics、建物据え置き型太陽光発電)が主流となっている。これに対して「軽量で、薄く、折り曲げること」も可能な次世代のペロブスカイト太陽電池は、建物の壁面や窓、バルコニーなどにも容易に設置できるため、BIPV(Building-Integrated Photovoltaics、建材一体型太陽光発電)注9といわれている。このため、新型の太陽電池/BIPV(PSC)は、シリコン型のBAPVに比べて用途を拡大し新たな大きな市場を創出し、再生可能エネルギーの主役の1つに躍り出ようとしている。

《コラム》産業競争力強化に向けた産学官の協議会が今年(2024年)5月に発足

 政府が目指す2050年カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの一環として、「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」が2024年5月、経済産業省に発足した。そのキーテクロジーにペロブスカイト太陽電池が位置付けられ、協議会発足にあたって発表された文書には『今後、諸外国との更なる競争激化が見込まれる中、世界に引けを取らない投資の「規模」と「スピード」を実現し、量産技術の確立、生産体制整備、需要の創出を三位一体で取り組みを進め、早期の社会実装を実現することが重要』と、その決意が示されている。
 同協議会の参加者は有識者、太陽電池メーカー、関係業界団体、自治体など合計230者(2024年8月26日時点)で構成され、次世代型太陽電池の導入目標・価格目標の策定をはじめ、FIT・FIP制度の新区分創設をはじめとする導入拡大策、国内サプライチェーン構築などが討議される予定となっている。

出所 経済産業省、「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会」 の開催について、2024年5月21日

◎プロフィール(敬称略)

阿部 博(あべ ひろし)氏

阿部 博(あべ ひろし)

株式会社マクニカ イノベーション戦略事業本部 サーキュラーエコノミービジネス部 第1課 主席

2017年からスマートエネルギー領域にて事業開発を担当。近年は、エネルギードメインでの新事業・製品の企画開発を担当し、国内外でマイクログリッド設計・開発・事業化検討を多数行う。現在は、環境省から受託しているペロブスカイト開発・実証事業も担当している。

撮影 松本 裕之


注7https://www.macnica.co.jp/public-relations/news/2024/145417/
注8GX実行推進担当大臣、「我が国のグリーントランスフォーメーションの加速に向けて」、令和6(2024)年5月13日、11ページ
注9一般社団法人 太陽光発電協会、太陽光発電産業の新ビジョン“PV OUTLOOK 2050”(2024年版ver.1)2024年7月1日、「13.新型太陽電池・BIPVで新たな導入を創出」を参考

参考

株式会社マクニカ プレスリリース、2023年10月10日
「世界中で開発競争が激化する、日本発の未来技術「ペロブスカイト太陽電池」、 発明者の宮坂教授とマクニカが、環境省実証事業で社会実装に向け始動。」

スマートグリッドフォーラム ニュース、2024年5月31日
「ペロブスカイト太陽電池」実証実験が相次いでスタート

経済産業省 資源エネルギー庁 スペシャルコンテンツ、2024年2月9日、
「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?」

経済産業省 資源エネルギー庁 スペシャルコンテンツ、2024年2月9日、
「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(後編)~早期の社会実装を目指した取り組み」

NEDO、グリーンイノベーション基金事業概要等、「グリーンイノベーション基金事業概要」

NEDO、プロジェクト情報「次世代型太陽電池の開発」

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