横浜・大さん橋での実証事業を2023年より実施中
─編集部 御社が進めている実証事業について、目的やその概要を教えてください。
阿部 当社の実証事業は、環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に応募して採択されたもので(図3、表2)、テーマは「港湾などの苛烈環境におけるPSC(ペロブスカイト太陽電池)の活用に関する技術開発」です。2023(令和5)年度から2025(令和7)年度の3年間の予定で技術開発・実証事業を進めています。
この実証事業では、ペロブスカイト太陽電池を塩害などの苛烈環境で使用し、その発電能力や耐久性を検証すること、軽量・フレキシブルさを活用して交換容易性(障害が発生した箇所の置き換えが容易なこと)をもつ最適システムを構成すること、先導技術として実証を周囲に示すことなどを狙いとしています。
図3 マクニカのペロブスカイト太陽電池実証事業の概要
表2 実証事業における技術開発内容と主な目標
出所 図3、表2ともに、環境省 「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業 実施中課題 2.住宅・建築物分野」
─編集部 実証事業は御社を含め3社で推進されていますが、各社の役割について教えてください。
阿部 実証事業は宮坂先生のご指導のもと、ペクセル・テクノロジーズ株式会社(以下、ペクセル・テクノロジーズ。本社:神奈川県川崎市、設立:2004年)、株式会社麗光(れいこう。以下、麗光。本社:京都市右京区、設立:1955年)と、マクニカの3社で体制を組んでいます。
ペクセル・テクノロジーズは、ペロブスカイト太陽電池のような光電気化学技術の実用化を目指して宮坂先生が立ち上げた企業です。それに関する最新情報や技術、開発手法に関する治験などを提供していただいています。
麗光は、薄膜フィルム結晶製品製造の生産や研究開発を行っており、有機薄膜太陽電池(OPV:Organic Photovoltaics)の生産・販売もすでに手掛けています。ロール to ロールの生産設備をもっていて、それを活用してペロブスカイト太陽電池の試作を各種行っています注4。
マクニカは、この実証事業の取りまとめ役です。ペロブスカイト太陽電池の設置場所の選定や確保・設置から、蓄電池やパワーコントローラー注5など、必要となる器材の調達、実験の進行管理や評価などを担当します。
─編集部 実証事業が行われている神奈川県横浜港の大さん橋(おおさんばし)という場所を選んだ理由は何でしょうか。
阿部 実証事業を行うにあたって、重塩害影響があり建物に曲面などがあるなど、当社の開発テーマを実証するにふさわしい場所を探しました。また、ペロブスカイト太陽電池やその実証を実施していることを広くアピールできる場であることと同時に、万一の際には安全が確保できることなども考慮に入れ、最終的に選んだのが横浜港の大さん橋となりました(図4)。
大さん橋は港湾にあるため、海からの塩害や日照等の苛烈な環境となります。また豪華客船が寄港し、それを見るために多くの観光客が集まる観光スポットでもあります。この場所で、横浜港湾局や横浜港進行協会のご協力のもとに実証事業を進めています。
図4 横浜・大さん橋におけるペロブスカイト太陽電池の実証事業の様子
※実証事業の実施範囲は写真の点線の枠内〔5m×20m(100㎡)〕
出所 株式会社マクニカ提供
注4:株式会社麗光のWebサイトのYouTubeに、ペロブスカイト太陽電池の発明者である桐蔭横浜大学特任教授 宮坂 力氏も登場され、同社のフィルム型ペロブスカイトの生産工程が紹介されている。
注5:パワーコントローラー:電源回路の電流や電圧を制御し、電力の出力を調節する装置。