[標準化動向]

802.16(BWA)の標準化動向(2):WiMAX環境におけるMMR(マルチホップ・リレー)の利用モデル

WiMAX環境における MMR(マルチホップ・リレー)の利用モデルを審議
2006/08/28
(月)
SmartGridニューズレター編集部

MMRの利用シナリオ(文書番号:C802.16j-06_043r3)

この文書は、802.16標準に追加記述される16j(リレーTG)の規定に関するガイドラインとなる。マルチホップ・リレー(MMR)として想定される代表的な利用シーンにおける、サービス提供の範囲を、インフラ設備の視点から例示する内容となっている。

【1】MMRとして想定される利用シーン

(1)固定インフラ・モデル

この固定インフラ・モデルは、ネットワーク・サービスの提供者による管理の下で、MMRに対応した基地局(以下、MMR-BS。BS:Base Station)が提供するセルの境界付近において、カバレッジ(通信範囲)の拡大や容量、ユーザー・スループット(利用者当たりの実効伝送速度)を改善するため、MMR-BSと組み合わせて中継器(RS:Relay Station)を用いるモデルである。

ここで言う「容量」とは、システムやサービス・カバレッジにおいて処理できる通信量や、扱うことができるユーザー数などの大きさを指す。ここでは、MMRを利用することによって、それまで通信環境があまりよくなかったエリアや場所での通信環境を改善し、直接的に、また間接的に通信量やサービス対象となるユーザー数、スループット(実効速度)などを向上させることを指している。

MMR-BSとRS(中継器)の間の伝搬環境は、基地局から端末間の伝搬路に障害物がない見通し通信(LOS:Line of Site)を基本とするが、障害物があり、直接見通しが確保できない見通し外(NLOS:Non Line of site)での利用も想定し、ビルの屋上や建物の屋根にアンテナを設置する静止型の端末に対して、小型でシンプルな中継器を組み合わせて利用するモデルも含める。

静止型の端末は、個人やビジネス利用のみならず、公衆無線LANを利用してサービスを提供する事業者なども対象とする。

通信パス(通信経路)は、2以上のマルチホップのトポロジー(ネットワークの接続形態)で、故障管理やトラフィックを分散するために、複数のパス・ルートを想定する。固定インフラ・モデルの概念図を図1に示す。

 固定インフラ・モデル
図1 固定インフラ・モデル (クリックで拡大)

(2)ビル内のカバレッジの拡大モデル

このモデルは、ビル内やトンネル地下街、地下鉄などに対してサービスが提供できるように提供範囲を拡大することや、スループットを改善するためのモデルである。

これは、ネットワーク・サービスの提供者、または利用者が、シンプルかつ低価格の中継器(RS)を設置するもので、1台の中継器で小規模のビル、トンネル、地下街における通信品質を改善する。複数の中継器を用いることによって、さらに広いトンネルや地下鉄にも応用できるようになる。

チャネル(通信回線)・モデルは、NLOS(見通し外通信)を前提とし、ビルの外側に複数の上り回線用のアンテナを、ビルの内側に下り回線用のアンテナを接続することができる。

トポロジーは、2以上のマルチホップに対応し、故障管理やトラフィックの分散のため、複数のパス・ルートを可能とする。

図2に、ビルディングにおけるカバレッジ改善の例を示す。上側は、MMR-BSまたは他の中継器(RS)の信号を十分受信可能な場所に設置する半固定中継器(ノマディックRS)の例であり、下側は、複数の中継器を多くのテナントが入居する大規模なビルに展開する例である。

ビル内カバレッジの拡大モデル
図2 ビル内カバレッジの拡大モデル (クリックで拡大)

(3)臨時利用モデル

臨時利用モデルとは、十分な容量が得られないエリアの改善のために、臨時的に展開するモデルである。この利用モデルは、シンプルで小型の中継器によって、広域エリアに臨時的エリアを設定するモデルを含む。

トポロジーは、2以上のマルチホップに対応し、チャネル・モデルはLOS、およびNLOSの両方を想定する。また、臨時的なカバレッジに対する要求条件の例として、次の2つのケースを含め、展開には移動車両のマストにアンテナを搭載したモデルが提案される。図3にこのモデルの適用概念図を示す。

図3 臨時利用モデル
図3 臨時利用モデル (クリックで拡大)

(4)移動体(車両等)への搭載モデル

この利用モデルは、バスや列車などの移動車両に乗って移動する端末(MS/SS:Mobile Station/Subscriber Station)を対象として、カバレッジを提供することを想定する。車両に搭載された中継器は、車両内の端末(MS/SS)に対して固定アクセス・リンクを提供し、MMR-BSには移動アクセス・リンクを提供する。また、このモデルでは、車両の移動に応じて中継器がネットワークやサービスへのエントリ(登録)を追加・削除する機能が実装されることを想定する。

トポロジーは、2以上のマルチホップに対応する。移動体には、電車、バス、フェリーなどを想定し、マルチホップの例として、移動中の列車がトンネルを通過する際に列車に搭載された中継器が、トンネル脇に設置された中継器を経由して基地局と端末を接続するケースが考えられる。

この構成による展開は、中継器の大きさ、重量、消費電力などの制限が厳しくなる。さらに、移動速度については、802.16e-2005標準の最大速度(時速120km程度)を超えるサポートは想定しない。利用シーンを図4に示す。

図4 移動体(車両等)への搭載モデル
図4 移動体(車両等)への搭載モデル (クリックで拡大)

図4の中央は、中継器がバスに搭載され、バス内の端末にサービスを提供する例で、バス内の中継器は、MMR-BS、または複数の中継器に接続されて都市部のビル間を走行する。同図左上は中継器が列車に搭載された例、同図左下はフェリーにカバレッジを提供する例を示す。

関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...