[インターネット・サイエンスの歴史人物館]

連載:インターネット・サイエンスの歴史人物館(3)アイヴァン・サザランド

2006/11/28
(火)

人工知能、トランジスタ式コンピュータとの出会い

サザランドは1956年9月に、カーネギー工科大学の電気工学部に入学した。同校のハーバート・サイモンとRANDコーポレーションのアレン・ニューウェルは、その直前の夏期休暇にダートマス大学で開催された会議で、命題論理の定理を証明する最初の人工知能プログラム「ロジック・セオリスト」を発表していた。

サザランドは入学して間もなく人工知能の洗礼を受け、先輩のエドワード・ファイゲンバウムとともに、1956年12月に人工知能の時代の到来を予測した論文「Age of the Great Brains」を執筆した。

サザランドは1959年に、カリフォルニア工科大学の修士課程に進み、操縦制御の安定性の問題を研究して1年で修士号を取得した。1960年夏にマサチューセッツ工科大学(MIT)電気工学部の大学院に進んだサザランドは、1956年に開発されたトランジスタ式コンピュータ「TX-0」に出会った。

TX-0は18ビット、256ワードの小規模なマシンだったが、グラフィック・ディスプレイとライトペンを備え、今日のPCのように様々なアイデアをその場で試すことができた。TX-0を開発したケン・オルセンは1957年、マサチューセッツ州メイナードにDEC(Digital Equipment Corporation)を創業し、18ビットの商用ミニコンピュータ「PDP-1」を1960年12月に発表した。

リンカーン研究所の「TX-2」

リンカーン研究所では、1959年からTX-2という遙かに強力なマシンが稼働していた。ボストン郊外のレキシントンにあるこの研究所は、MITで空軍関係の研究を担当するため1952年4月に設立された。TX-2の設計者ウェズリー・クラークは、コンピュータを扱いやすくするため、ディスプレイにノブやスイッチを装備しメモリやファンクションキーとして利用できるようにしていた。

TX-2は、36ビット、64のインデックス・レジスタ、70Kワードのメモリを備えたコンピュータで、700Mビットの磁気テープ装置を利用できた。TX-2のアーキテクチャは、DECが1964年に発表したPDP-6およびその後継機でARPANETのホスト・コンピュータに利用されたPDP-10に継承された。

図形描画プログラムを着想
クロード・シャノンに師事

サザランドは、作図や描画を可能にするプログラムを着想し、1961年4月にウェズリー・クラークを訪ねて提案した。クラークはサザランドの提案を歓迎し、5月にハーシェル・ルーミスが1960年夏に試作した描画プログラムをサザランドに見せた。

TX-2は1人が占有するマシンなので、利用する研究者の時間割が決まっていた。サザランドは唯一空いていた午前3時からの2時間だけ、TX-2を使用することができた。彼は1961年夏に曲線をなぞるプログラムを記述し、さらに様々な迷路問題を解く数千行のプログラムを記述して、クロード・シャノンの助言を求め始めた。シャノンはかつて自分を訪ねてきた少年プログラマが、MITの博士課程にやってきたことを喜び、自宅にサザランドを招いた。

MITの電子システム研究所(旧サーボメカニズム研究所)には、すでにコンピュータ支援設計(CAD)グループが存在していたが、サザランドはコンピュータによる描画システムが実用化されていないことを知る。サザランドは迷路問題の解法が、様々な幾何学問題に対処する描画プログラムの開発に資することを示し、シャノンは1961年秋にその博士論文の指導教官になることに同意した。

シャノンには指導教官になる義務はなかったが、自分を慕ってMITにやってきたサザランド兄弟の期待には応えた。兄のバートは1962年に海軍からMITの大学院に戻り、シャノンの元で博士論文に取り組んだ。シャノンはその後MITで講義をすることもなくなり、サザランド兄弟はシャノンの最後の学生になった。

サザランドはさらに、機械工学部のスティーブン・クーンス教授、電子システム研究所のダグラス・ロス教授に自分の論文の審査委員になってもらい、部品やシステムの設計や応用の問題に助言を得ながら研究を進める環境を整えた。

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