≪1≫NHKオンデマンドにおける映像の圧縮符号化方式
■ NHKオンデマンド・サービスにおける映像のエンコード(符号化)やトランスコード(符号変換)の作業について詳しく教えてください。
木田実氏
(NHKオンデマンド室 室長)
木田 まずNHKの局内設備で、前編で説明したNHK5波の番組をすべてMPEG-2の圧縮技術によって25Mbpsで同時録画しておきます。これが原版です。2日分で5.2テラ・バイト〔=5(波)×2日×24時間×60分×60秒×25×106(ビット/秒)÷8ビット×2(2重化)≒5.2テラ・バイト〕の容量になります。
ここから、配信する番組を切り出してトランスコードします。
先ほど申し上げたように、
(1)「PC向け」にはWindows Media Playerで
①低ビットレート:768kbps(解像度:640画素×360ライン)
②高ビットレート:1.5Mbps(解像度:960画素×540ライン)
(2)「アクトビラビデオ・フル」向けには、
H.264/AVC TS 7.0Mbps程度(解像度:1440画素×1080ライン)
(3)「ひかりTV」向けには、
H.264/AVC TS 7.0Mbps程度(解像度:1440画素×1080ライン)
(4)J:COM向けには、
MPEG2 TS 14.5Mbps(解像度:1440画素×1080ライン)
でそれぞれトランスコード(符号変換)します。番組ごとに4種類の異なるトランスコードを毎日行っていることになります。ですから、現在、NHKは日本最大のトランスコーダ屋だと思います。
番組のなかでも、ニュース番組のトランスコード作業は非常に面倒です。というのは、部分的にテレビ放送では許可が得られていても、ネット配信の許可が得られてないケースが多いからです。例えばスポーツの中継映像ではネット配信の許可を得られていないケースが多く、その場合、番組内でスポーツ中継が流れるシーンだけ“フタ”(削除)をしなければなりません。許可が得られていないシーンの映像を見られないようにするためです。
スポーツは特に権利関係が厳しく、大リーグやJリーグ、プロ野球やゴルフ、北京五輪のオリンピック映像などは、すべてダメです。もちろん、スポーツだけでなく、プロダクションの関係でダメだという場合もすべて“フタ”をします。ですから、「テレビ放送の時間は40分ですが、ネットにアップして配信した時には35分しかない(5分間削除)」ということもよくあるのです。
■ 将来的には、そのようなスポーツ映像なども配信できるようになるのでしょうか。
木田 権利関係はお金の問題が大きいので、まだわかりません。時間をかけて少しずつ交渉していこうと思います。今は暫定的に、大相撲の映像だけはネットで配信してもよいとOKをいただいています。
≪2≫他社のサービスとNHKオンデマンドの違い
■ フジテレビの「フジテレビ On Demand」、日本テレビの「第二日本テレビ」、TBSの「TBS オンデマンド」、テレビ朝日の「テレ朝BB」など、民間放送局もそれぞれVoDサービスを行っています。それらのサービスとNHKオンデマンドの違いは何でしょうか。
木田 他社様のことはわかりませんが、基本的には配信される番組の質や量などの違いがあります。また、例えばフジテレビさんや日本テレビさんはPCや携帯電話向けのサービスだけで、テレビ向けサービスはありません。PC向けとテレビ向けの2つのサービスを同時に立ち上げたのは、弊社のNHKオンデマンドだけだと思います(写真1、写真2)。
■ J:COMは今回「NHKオンデマンド」がスタートする前から、「J:COMオンデマンド」というVoDサービスをやっていますが……。
木田 J:COMさんはCATV事業者です。CATVはエリアごとに事業者が決まっていますので、日本全国どこでもJ:COMのサービスを受けられるというものではありません。そのため、アクトビラやひかりTVなどいろいろな事業者からNHKオンデマンドをご覧いただける仕組みにしてあります。逆に「J:COMオンデマンド」ユーザーから見れば、それまでのコンテンツに加えて毎日追加されるNHKの1500本を超すあたらしいコンテンツがいきなり追加されたわけですから、視聴者の満足度が高いのではないかと思います。