[スペシャルインタビュー]

通信・放送の融合を実現したNHKオンデマンド(IPTV)戦略を聞く【前編】

2009/01/22
(木)
SmartGridニューズレター編集部

通信・放送の融合/連携時代を背景に、放送局として世界でも最大級のコンテンツ(番組)を保持しているNHKが、2008年12月1日から、インターネット・プロバイダ(ISP)やCATV事業者、IPTV事業者などと協力して、ハイビジョン画質によるNHKオンデマンド・サービス(IPTVサービス)を、テレビ向けとPC(パソコン)向けの両方に開始し、大きな注目を集めています。

そこで、このサービスの責任者であるNHKオンデマンド室 室長の木田実(ぼくだ みのる)氏に、NHKオンデマンド・サービス提供の背景をはじめ、番組の著作権処理、NHKオンデマンドのサービス内容や視聴料金、システム構成、今後への期待などをお聞きしました。
前編は、NHKオンデマンド・サービス実現の背景、番組の著作権処理、NHKオンデマンドのサービスとシステム構成などを中心にお話いただきました。
(文中、敬称略、聞き手:インプレスR&D 標準技術編集グループ)

通信・放送の融合を実現したNHKオンデマンド(IPTV)戦略を聞く【前編】

 

≪1≫NHKオンデマンド・サービス実現の背景

〔1〕NHKがもつ約50万本の番組アーカイブ

■ インターネットのブロードバンド化や放送のデジタル化に伴い「通信と放送の融合/連携」が現実のものとなってきています。そのような背景の下に、2008年12月1日から、ブロードバンド回線などを利用した、ハイビジョンによるVoD(Video on Demand)サービス「NHKオンデマンド」が開始されました。そのサービスの背景には、これまで蓄積してきたNHKがもつ多くの番組アーカイブを有効に活用する目的があると思いますが、現在、NHKにはどれぐらいのアーカイブがあるのでしょうか。

木田実氏(NHKオンデマンド室 室長)
木田実氏
(NHKオンデマンド室 室長)

木田 NHKアーカイブスは、2003年2月1日にNHKのテレビ放送開始50周年記念事業として、埼玉県川口市にオープンした施設ですが、現在約50万本の番組アーカイブ〔アーカイブ:番組などの記録保管庫、または番組(記録ファイル)そのもの〕をもっています。当時会長を務めていた海老沢勝二氏が「デジタル化時代を見据え、番組をきちんと保存・展開できる場所を作ろう」と号令をかけて設立されたもので、それまでは渋谷本部(東京都)・浜松支局(静岡県)・鶴岡支局(山形県)など複数個所にバラバラに置いてあったアーカイブをきちんと整理整頓したのです。

また、同施設のオープンと同時に、一般の視聴者が無料でアーカイブの一部を、NHK設備内に限って視聴できる「番組公開ライブラリー」もスタートさせました。私自身もそれらの作業に関連した仕事をしていましたが、その当時から「できればこういう番組を自宅で見ることができればいいな」と思っていたのですが、当時は夢のまた夢だったのです。

〔2〕技術的な問題の解決:インターネット回線のブロードバンド化

■ それでは、なぜ今回NHKオンデマンド・サービスを実現できたのですか。その背景をお聞かせください。

木田 まずは、技術的な問題です。わずか6~7年前には、ハイビジョン並みのきれいな映像を家庭に送ることは回線速度的に難しかった。ところが、それから日本ではADSLやFTTHなどインターネット回線のブロードバンド化が急速に進み、世界でもトップクラスのブロードバンド環境が実現されました。また、ハイビジョンのサービスに対応した液晶テレビなどの受信機も、民生品として広く登場し普及してきています。そういった意味で技術的な基盤が整ったということです(図1)。


図1 NHKオンデマンド・サービスを実現するブロードバンド環境(クリックで拡大)


〔3〕法律的な問題の解決:2007年12月の放送法の改正

次に、2007年12月の放送法の改正〔NHKが放送した番組「番組アーカイブ」を、ブロードバンド(インターネット)などを通じて有料提供することを可能にした法改正〕です。

これまではオンデマンド・サービスを提供したいと思っても、NHKは放送波で番組を流す以外のことはできないという法的な決まりがあったのです(図2)。たとえそれがすでに一度放送した番組であっても、通信回線(インターネット等)を利用して送ってはいけなかったのです。それが、放送法が改正されたため、すでに放送した番組については通信回線を利用して一般家庭にお届け(IPTVサービス)してもよいということになりました。


図2 放送と通信における著作権の違い(クリックで拡大)


ただし、会計分離の決まりがあり、通常の皆様(視聴者)からいただいたNHKの受信料はオンデマンド・サービスに使用することはできません。オンデマンド・サービスにかかる費用は、オンデマンド・サービスの利用者からの売り上げで、すべてカバーしなければならないのです。

■ いずれは、オンデマンド・サービス単体で黒字化を目指すということですね。

木田 そうですね。最初はNHKから借り入れを行いますが、3年後の2011年にはサービスの単年度黒字を目指し、5年後の2013年には累損をすべて返済する事業計画を描いています。その計画で総務省からも事業認可をいただいています。

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