写真:パネル・ディスカッションの模様。左からコーディネータ:安田 浩氏(東京電機大学 教授)。パネリスト:辻村 清行氏(NTTドコモ 代表取締役副社長)、櫛木 好明氏(松下電器産業 シニアフェロー)、平松 幸男氏(大阪工業大学 教授)、河内 正孝氏(総務省 大臣官房総括審議官)
安田 浩氏
(東京電機大学 教授)
「ICT国際競争力強化を目指した標準化・知財戦略シンポジウム」のパネル・ディスカッションは、コーディネータの東京電機大学の安田 浩教授の以下の挨拶で開始された。
『それでは、前回(前編)のお話をベースにして、国際標準化戦略と知財戦略が国際競争力をいかに高めるのか、それぞれのお立場から分析していただいて、課題を出していただき、活動の起点を示していただきたい。今、世界が変わりつつあり、日本も変わりつつある。ICTの国際競争力の強化という観点から、標準化と知財と言うものをうまく整合させて戦っていかなければならない状況を迎えている。一方、少子高齢化社会を迎え、人が足りない、あるいは人材をどう育成していくかと言う課題もクローズアップしてきている。とくに日本は語学の問題などもあり、なかなか世界で通用する人材に育っていかないところもある。このようなことも含めて、産・学・官の代表の方々からお話をいただきたい』。
≪1≫次世代移動通信:3.9G(LTE)こそがんばりたい!
辻村 清行氏
(NTTドコモ 代表取締役副社長)
パネル・ディスカッションのトップバッターに立った、NTTドコモ 代表取締役副社長の辻村 清行氏は、移動通信分野での第2世代(2G)、第3世代(3G)の戦いにおける、日本の反省点を挙げながら、日本から世界初のサービスとして提供される予定の次世代移動通信:3.9G(LTE)の分野で、がんばりたいと次のように決意表明した。
『私どもは移動通信という分野で仕事しているので、移動通信に関連する標準化や知財の戦略を中心にお話したい。現在、移動通信の契約者は全世界で33億人がいる。つまり2人に1人が携帯電話を持っている時代である。その人たちが世界中を動き回るので、移動通信システムの標準化は必須である。そういう中で、現状をみると全世界の携帯電話の90%以上は、第2世代といわれるGSM(Global System for Mobile Communications)方式が使用されている。
このGSM方式は80年代の後半に欧州の12カ国が集まって、MoU(Memorandum of Understanding、研究交流の覚え書き)の下に、作り出された規格である。このGSMは、現在100カ国を越えて利用され、200以上の通信事業者がサービスを提供している。実際には、33億の携帯電話の利用者の90%以上がGSMを利用している一方、日本で開発された第2世代のPDC(Personal Digital Cellular)方式は、残念ながら日本でしか普及しておらず、しかも1000万人強くらいのユーザーしか利用していない。両方の方式の技術はほぼ80年代の後半に出来上がったものであるが、その後20年経過して、「世界中に普及したGSM」と「日本だけでしか使えないPDC」となった。
これは、私たちの大きな反省点になっている。その後、第3世代に移行した2000年前後に、我々も欧州と組んでW-CDMAという第3世代の方式をつくりこれを導入し、現在日本の市場で80%程度が第3世代(W-CDMA)に移行しているが、国際的にみるとまだまだこれから普及する時期である。
今後、携帯電話が33億から40億に増えていく過程では、大多数がW-CDMAのユーザーになる。このW-CDMAは標準化という意味では、日本は第2世代よりは前進したが、しかし、日本としては、必ずしもうまくいっていないところがある。それは、知財(知的財産権)の部分である。
W-CDMAの技術の知財の多くは、クアルコムやノキア、あるいはエリクソンが持っており、我が社あるいは日本のメーカーは若干しか持っていない。特に基本的なパテントの部分で大きく差がついている。標準化という面ではそれなりに成功したが、知財の面ではうまくいかなかった。
したがって、これまでうまくいかなかったことを反省して、次に生かしていかなければならない。このようなことから、現在、2~3年後に、おそらく世界中で日本が最初にサービスを提供し、その後世界に普及していく3.9G(LTE)という次世代の移動通信、あるいはその次の第4世代(IMT-Advanced)の場面では、標準化だけでなく、知的財産権も含めて、日本の国益に合ったような形にしていきたい。ということで、現在、私ども通信事業者はメーカーさんとともに議論しているところである。
そのような時期に、ICT標準化・知財センターが出来上がるということは、私たちにとって非常にありがたいことで、ぜひとも次世代では過去の失敗を繰り返さないように協力し、連携して進めていきたい。その進展の過程で、重要な人材の育成にも取り組んでいきたい。「標準化・知財」と「人材の育成」は車の両輪であり、これを重視して今後も努力していきたい』。