[特集]

Wi-SUNベースの次世代ガス・スマートメータリングシステムの標準規格「U-Bus/U-Bus Air」

─小売全面自由化へ向かうガス業界─
2014/12/01
(月)

スマート化に向かうガスメーター:膜式から超音波式へ

写真1 超音波式ガスメーター(左端)と膜式ガスメーター(右3台)

写真1 超音波式ガスメーター(左端)と膜式ガスメーター(右3台)

〔出所 東京ガスの提供資料より引用〕

〔1〕「計量機能」「保安機能」「通信機能」を装備

 100年以上も続くガス産業〔例:東京ガスの創業は明治18(1885)年10月1日。約130年の歴史〕におけるガスメーターの歴史を見ると、ガスメーターは当初、需要家がどれくらいガスを消費したかを計量するために設置された。一般家庭の需要家の場合、当初からメーターの下部にある袋状の膜で流れたガスの体積を計量する「膜式ガスメーター」が採用されており、現在も使われている。

 当初は、このような計量機能だけであったが、主に戸締りがされた屋内で発生していたガス事故を防止する目的で、1980年代に入って、需要家の安心・安全を担保するための保安機能がガスメーターに搭載された。具体的には、電気系統のトラブル発生時に家庭への電気をブレーカー(遮断器)で家庭から遮断するのと同じように、ガスの遮断弁と不安全事象の検出や遮断弁の制御を行う「マイコン」と呼ばれる電子基板が開発され、保安機能(遮断機能)としてガスメーターに搭載された。マイコンを搭載したガスメーターは、「マイコンメーター」と呼ばれる。

 さらに1987年からは、より一層の安心・安全を実現するために、遠隔からガスメーターを遮断できるよう、ガスメーターに通信機能が搭載された。通信機能が搭載されたマイコンメーターは、「通信機能付きマイコンメーター」と呼ばれる。これによって、例えば東京ガスでは、「マイツーホー」という遠隔遮断サービスを1989年から提供し、外出時にガスの消し忘れが心配な場合は東京ガスに電話すると、通信機能をもつガスメーターを遠隔から遮断できるようになった。

 このように、ガスメーターのスマート化につながる技術は、早い時期から開発が進んでいたのである。

〔2〕既存の通信システム

 また、1990年代に開発された、ガス用の特定小電力無線機は、429MHz帯(ARIB STD-T67準拠注9)を使用し、送信出力10mW(双方向通信)、通信速度2400bps、電池駆動(10年間動作)などの機能を備えていた。

 このシステムは、都市ガスの業界団体である「日本ガス協会」やLPガスの業界団体である「高圧ガス保安協会」でも標準化され、現在も使用されている。

〔3〕2005年から超音波式ガスメーターを導入

 新しい家庭用ガスメーターとして2005年から導入が開始された家庭用超音波式ガスメーターは、ガス流量の計量に超音波伝搬時間差式の計測技術を適用したガスメーターである。従来の膜式ガス(機械式)メーターに比べ、小型・軽量化され、さらに電子化されたため、メーターの構成部品点数を大幅に減少させることに成功している(写真1)。

〔4〕既存の双方向通信システムの課題

このようにガスメーターの開発が進展したが、一方で、次のようないくつかの課題も出てきた。

(1)オープン化の流れを受けてIP化(インターネット)やブロードバンド化が急速に進展し、従来の通信インフラであったアナログ電話回線が減少したこと。

(2)住宅環境も、例えばオートロックマンションや高セキュリティ住宅の急速な普及によって、ガスメーター検針員の立ち入りが困難な物件が増えていること。

(3)また、従来のガスメーターの通信システムでは、必ずしもエネルギー見える化等の省エネサービスへのニーズの高まりや、安心・安全・見守り系サービスのニーズ多様化などに対して、十分に対応しきれないところがあること。

このような背景から、次世代のシステムとして、ガス・スマートメータリングシステムが開発され、すでに一部で導入が開始されているのである。

ガス・スマートメータリングシステムの全体構成

〔1〕Aルート、Bルートへの対応

 図2に、すでに導入され始めている、ガス・スマートメータリングシステムの全体構成を示す。基本的なシステム構成は、以下の通りである。

  1. センター(例:東京ガスのサーバ)
  2. 基地局(通信事業者の基地局など)
  3. Aルート:ガス会社と需要家を主に公衆回線(無線または有線)で接続する通信ルートのことで、図2ではマンション(集合住宅)と一般の戸建住宅のケースを示す。
    ①基地局とマンションのNCU〔公衆無線端末(桃色)〕を接続する通信ルート。マンション内は図2に示すように、メーター間でメッシュネットワークを構成し、マルチホップ中継する無線のU-BusAirを適用することが想定されている。なお、マンション内の左上の公衆無線端末(NCU:桃色)の下に接続されている緑色の端末は、U-Bus Airの無線端末である。
    ②基地局と一般住宅の公衆無線端末(NCU:桃色)を接続する通信ルート(注:戸建て住宅には、広域無線で直接アクセスする方式だけでなく、広域無線とともにU-BusAirを適用して中継する方式も可能である)。
    ③図2の左に示す公衆回線については、現在、消費電力の少ないPHS方式が採用されている。今後、省電力化が進めばPHS方式以外の方式も検討される。
  4. Bルート:ガスメーターと一般家庭内のHEMSを接続する通信ルートで、現在920MHzを使用するTTCJJ300.10注10対応の「Bルート無線機」が開発されている。

図2 スマートガスメータリングシステム全体構成

図2 スマートガスメータリングシステム全体構成

〔出所 東京ガスの提供資料より引用〕


▼ 注9
ARIB STD-T67:「特定小電力無線局400MHz帯及び1,200MHz帯テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備」標準規格。
http://www.arib.or.jp/english/html/overview/doc/1-STD-T67v1_3.pdf

▼ 注10
TTC JJ300.10:TTC(情報通信技術委員会)で策定された「ECHONET Lite向けホームネットワーク通信インタフェース(IEEE 802.15.4/4e/4g 920MHz帯無線)」標準。

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