[特集:特別対談]

電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪後編≫

— 欧米に後れをとった「再エネ」の新しい展望を語る —
2015/02/28
(土)

再エネと系統が連系した電力網におけるエネルギー貯蔵システム(ESS)の役割

Takao Tsuji

─舟橋:次に、現在、国際的にも注目されている「エネルギー貯蔵(蓄電池)の話」についてお聞きしたいと思います。

 再エネと電力系統システムが連系したグリッド(電力網)におけるエネルギー貯蔵システム(ESS:Energy Storage System)の役割について、お二人はどのようにお考えですか。

:まず、日本のエネルギー貯蔵で最も大きい容量をもつものとして、従来から「揚水発電」注8があります。この揚水発電は日本国内に41カ所以上あり、総出力が2,624万kWと世界最大規模のエネルギー貯蔵設備となっています注9

─舟橋:日本初の揚水発電所は、長野県の池尻川発電所(1934年4月運開。東北電力)以来、活発に建設されてきました。

:現在、再エネの接続保留に関する経済産業省の「系統ワーキンググループ」注10でも議論されていますが、過剰となった電力は、まず揚水をくみ揚げる電力としてしっかり使い、それでも既存の発電電力の下げ代(さげしろ注11)が問題になる(余剰が出る)ような状況であれば、その残った電力をどうするか(蓄電池に貯めるかどうかも含めて)、しっかり考えましょうということだと思うのです。

 「再エネの発電出力を抑制する」という規制も、非常に「有効な対策だ」と言われています。このような抑制による方法は、安価でしかもある程度確実な方法です。まだかなり高価な蓄電池を導入することの優位性については、相対的に安価と考えられる他の対策との比較の中で、有用性を議論することが重要でしょう。

今後「蓄電」で重要となる電気自動車(EV)の役割

〔1〕EVという形で蓄電池が導入される

─舟橋:例えば、現状で過発電分の電力を揚水発電所に貯蔵してもまだ電力が余ってしまう(下げ代不足)場合、つまり従来の発電機の出力を下げる限界まで下げても(下げきれないで)過発電になってしまう場合ですね。

:そうです。下げ代不足による過発電をどのように吸収するかという場合、図2に示したような、「①再エネの出力を抑制する」あるいは「②系統用の蓄電池を導入し電力を貯蔵する」というイメージになります。ただ、今後、蓄電池を搭載した電気自動車(EV)の普及を考慮すると、必ずしも「系統用の蓄電池」ではなくてもよく、「EVの蓄電池」の充放電制御を活用することも有望な対策になりえると思います。この場合は、EVとしての利用を主目的として、自然に地域全体に分散的に蓄電池が入ることになります。これは、系統側の特定の箇所だけに蓄電池を導入する場合とは、蓄電池のもつ価値や意味合いが少し変わってきます。例えば、このEV用の蓄電池普及は、同時に電力供給の信頼度の対策にも貢献すると思います。

図2 災害時には家庭にも電力を供給できる水素で発電する「燃料電池自動車」のイメージ

図2 災害時には家庭にも電力を供給できる水素で発電する「燃料電池自動車」のイメージ

〔出所 トヨタ「MIRAI」サイトより、http://toyota.jp/sp/fcv/

〔2〕需要家にとって強い電力システムへ

─舟橋:もう少し具体的なお話をお願いします。

:EVの蓄電池は、ローカルな地域ごとに普及します。それは家庭ごと、もしくは駐車場や蓄電池の交換所のようなまとまった単位(エリア)かもしれません。いずれにしても、蓄電池が分散して普及していれば、上位の電力システムで事故が発生して適切に電力送電されない地域が出た場合でも、当該地域内に含まれる蓄電池を活用して停電範囲を抑制できる可能性があります。

 これによって、今まで停電対策が弱かった需要家側が少しでも強化されてくると、系統側の事故などによる停電に対応できるようになるため、停電を許容できるような、強い電力システムになっていくと思います。このことは(前編で述べたように)リスク対策の強化という観点からも、再エネ導入に寄与するものかもしれません。ただし、EVの蓄電池としての利用方法も規制で定めなければ実現は難しいため、今後の状況を注視する必要がありそうです。

─舟橋:ハイブリッド車(EV/PHV)については、日本だけでなく世界の自動車メーカーも発売しているので、ますます車が重要になるかもしれないですね。また、最近では、小型の発電所とも言われる、災害時にも電力を供給できる水素自動車〔燃料電池車:FCV、例:トヨタの「MIRAI注12(図2)〕も発売されるなど、関心が高まっています。系統から見れば、EV/PHVもFCVもみな同じですから。

 安田先生、再エネと蓄電池についてはどのようにお考えでしょうか。


▼ 注8
揚水発電(Pumped-sto-rage Hydroelectricity):電力需要の少ない夜間の時間帯などの余剰電力を活用し、下部の貯水池(下池)から上部の貯水池(上部ダム)へ水を汲み上げて(揚水して)おき、昼間の電力需要が大きくなる時間帯などに、上池ダムから下池へ水を流し落とすことによって発電する水力発電方式。
例えば、高低差400メートルの池を使った日本最大の揚水発電を行っている、兵庫県朝来(あさご)市の奥多々良木発電所(関西電力。193.2万kW、フル運転開始:1998年)

▼ 注9
資源エネルギー庁:「再生可能エネルギーの導入を巡る事実関係」、平成24(2012)年5月、
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_problem_committee/023/pdf/23-3.pdf

▼ 注10
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/19.html#keitou_wg

▼ 注11
下げ代(さげしろ):軽負荷時に計画的に供給を絞る下方調整力のこと。具体的には、軽負荷時に風力発電の出力が上昇した場合に、供給過剰になってしまうため、調整電源が出力を下げて調整しなければならない。出力を下げるために待機しているということは、普段から部分負荷運転である程度の出力を維持しておかなければならず、このような調整電源はたとえ需要が少なくなってきたからといって出力をゼロにすることは運用上できない。したがって、もうこれ以上、下方調整をする能力がないというギリギリまで軽負荷になり変動電源(風力+太陽光)の出力が大きくなるケースを考慮すると、これ以上変動電源が導入できないという限界値が算出されることになる。これが「下げ代問題」である。

▼ 注12
MIRAI(ミライ):トヨタの燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)。2014年12月15日に発売。1家庭に1週間分の電力をまかなえる燃料電池を搭載(114kWの発電能力をもつ)。ミライに搭載された水素タンクを満タンにしておけば、1回当たりの水素充填時間は3分程度で、650kmの距離を走行可能。さらに災害などで停電した時には、ミライが水素から発電して住宅や家電に最大9kWの電力を供給することも可能。

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