[特集:特別対談]

電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪後編≫

— 欧米に後れをとった「再エネ」の新しい展望を語る —
2015/02/28
(土)

再エネ導入のグランドデザインとロードマップ

安田:日本は、そのようなグランドデザイン(全体設計)を十分描かないまま要素技術を積み上げているような気がします。本来、ロードマップ(行程表)が重要なのですが…。

 ロードマップやターゲットづくりについては、欧州は非常に長けています。ドイツでは、図4に示すように、再エネについては、2050年までにドイツの総発電電力量のうちの80%も再エネにしようという計画で、ドイツは国をあげて推進しているのです。今後、さまざまに乗り越えなければならない試練はあると思いますが、ドイツは実行するでしょうし、おそらく達成できると思います注22

図4 ドイツの総発電量に占める再生可能エネルギーの割合(推移と目標)

図4 ドイツの総発電量に占める再生可能エネルギーの割合(推移と目標)

〔出所 ドレスデン情報ファイル、http://www.de-info.net/kiso/atomdata04.html

─舟橋:2014年8月、ドイツでは、新しく再生可能エネルギー法(EEG)注23が制定されましたね。

安田:はい。ドイツ政府が意欲的なターゲットを掲げた法律ですね。エンジニアは現状積み上げ型の発想をしがちなので、この高いターゲットに「それはムリだ!」と驚くエンジニアも多いと思います。でも、一方でエンジニアにはプライドがありますから、「いや、できる」という人も出てきます。そこでイノベーションが起こるわけです。

 現在、日本の風力や太陽光の話は「ここまでは(従来の方法で)可能です」という発想の設定が多いようで、今回の再エネの接続可能量(すなわち接続保留問題)などもまさにそうですが、それはイノベーションしなくていいですよと言っているのに等しいことだと思います。そのようなことをしていたら、もう日本は21世紀にずるずる地盤沈下していくしかないですよね。高いターゲットをつくらないと「イノベーションも起こらない」「市場も拡大しない」「投資も起こらない」ということになってしまいます。はっきり言って、日本の電力系統は(再エネの受け入れという観点からは)世界からだいぶ遅れてしまっていると言えます。

 今回の電力システム改革を契機に、その遅れを挽回したいですね。

─舟橋:ありがとうございました。

(終わり)

◎Profile

舟橋 俊久(ふなばし としひさ)

名古屋大学 エコトピア科学研究所 教授

1951年生まれ
1975年3月 名古屋大学 工学部電気工学科卒業
同年4月 株式会社明電舎 入社、電力系統解析、保護リレーシステム・分散電源制御システムなどの開発に従事。
2014年4月 名古屋大学 エコトピア科学研究所 教授、エネルギーシステムに関する研究に従事。
主な著書(共著):電力自由化と技術開発(東京電機大学出版局)、スマートグリッドを支える電力システム技術(電気学会)

安田 陽(やすだ よう)

関西大学 システム理工学部 電気電子情報工学科 准教授

1967年生まれ
1994年3月、横浜国立大学大学院博士課程後期課程修了。博士(工学)。
同年4月、関西大学工学部(当時)助手。専任講師、助教授を経て現在、同大学システム理工学部 准教授。
現在の専門分野は風力発電の耐雷設計および系統連系問題。
日本風力エネルギー学会理事。電気学会 風力発電システムの雷リスクマネジメント技術調査専門委員会 委員長。IEA Wind Task25(風力発電大量導入)、IEC/TC88/MT24(風車耐雷)などの国際委員会メンバー。
主な著作として『日本の知らない風力発電の実力』(オーム社)、翻訳書(共訳)として『洋上風力発電』(鹿島出版会)、『風力発電導入のための電力系統工学』(オーム社)など。

辻 隆男(つじ たかお)

横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 准教授

1977年生まれ
2006年3月 横浜国立大学 大学院工学府物理情報工学専攻 博士課程後期修了
同年4月 九州大学 大学院システム情報科学研究院 電気電子システム工学部門寄附講座(九州電力)教員
2007年4月 横浜国立大学 大学院工学研究院 知的構造の創生部門 助教に着任
2011年4月 同准教授、現在に至る
博士(工学)。主として、電力システムの運用・制御・解析に関する研究に従事


▼ 注22
ドイツでは、脱原発の実現や気候変動対策として、再エネによる発電電力量を増やすことが国の最重要の政策課題と位置づけられている。連邦政府は、2010年9月28日にエネルギー計画を決定し、電力供給に占める再生可能エネルギーの割合を2020年に35%、2050年に80%とする目標を掲げた。
〔出所 国立国会図書館 外国の立法 252(2012.6)
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3497220_po_02520007.pdf?contentNo=1

▼ 注23
EEG:Erneuerbare-Ene-rgien-Gesetz、ドイツの再生可能エネルギー法。2014年7月11日に改正法案がドイツ連邦参議院を通過し、8月1日に発効した。環境保護や資源保全を目的にドイツにける電力供給の大部分を再生可能エネルギーによる電力に転換するにあたって柱となる法律。
http://www.de-info.net/kiso/eeg.htmlhttp://www.de-info.net/kiso/eeg2014.html

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