[特集:特別対談]

電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪後編≫

— 欧米に後れをとった「再エネ」の新しい展望を語る —
2015/02/28
(土)

離島や孤立する村への再エネと蓄電池の導入

安田:同じような誤解として、ハワイなど特殊環境(孤立系統)に蓄電池が使われているケースは多いので、それを見て「やっぱり日本も蓄電池だ」と誤解するパターンもあります。

─舟橋:世界的に見ると、島の数は結構多いですよね。先日、インドネシアに行ってきましたが、インドネシアにもたくさん島があります。IEEE学会で会ったインドの方によれば、インドは島はないが、「孤立している村」がたくさんあると言うのです。2万5,000カ所もの村を、再エネと蓄電池を使って電化することが検討されているとのことでした。

安田:それと同じような話をオーストラリアでも聞いたことあります。送電線もないような地域に、わざわざコストをかけて送電線を延伸してつなぐよりは、太陽光と蓄電池の組合せのオフグリッドの方がかえって安く済む、というケースもあります。ですから、蓄電池は使いようなのですよね。

 しかし、そのようなニュースが日本に入ってくると、なぜか風力や太陽光をすべて蓄電池で制御しなくてはいけないような話になってしまい、勘違している方が多くおられると思います。

:その勘違いというのは、経済性も含めて、蓄電池を電力の地産地消のために設置するということに意味があるかどうか、ということですよね。

安田:その通りです。「エネルギーの地産地消」は耳心地よいですが、それにこだわりすぎると結局は高コストなシステムになりかねません。そうなると、それに対応するために、日本だけでしか通用しない技術をどんどんつくってしまい、しかし、欧州や米国でまったく売れない。そのようになると、再び「技術のガラパゴス」になってしまいます。蓄電池自体はまったく悪くはなく、日本の誇る要素技術なのですが、結局は使い方や仕組みづくりの問題だと思うのです。

 蓄電池をどのように使うのかというのは、よくよく考えないと、日本はかなり深刻な状況になってしまうと思います。

今後有望な「マイクログリッドビジネス」

─舟橋:私も同意見です。前述したように、世界的に見ると、離島や僻地の村の数は多い。アフリカにもたくさんあります。

 現在、ビジネスとしては、マイクログリッド注18が再び注目を浴びていますが、それに似た「電源(再エネ)と負荷(家電機器等)と蓄電池」をセットにしたマイクログリッド的な小規模なシステムは、今後、海外ではかなり有望なビジネスになると思います。

安田:そうですね。蓄電池は、もしかしたら先進国ではなく、発展途上国のほうにビジネス市場があるかもしれませんね。

:「小規模な系統」という面から考えると、例えば日本列島もある程度面積的には小さいので、「孤立した系統」ともいえます。そのような見方についてはいかがでしょうか。

安田:日本は国際連系線がない完全に閉じた孤立系統と言っても、電力系統の規模としては一国で欧州全体の3分の1もありますので、離島などの小規模系統と同列に考えるのは無理があるのではないかと思います。

:ただ、現在は10電力会社が各電力会社の管轄地域ごとに電力を供給している状況ですので、この最小単位を考えると、さらに面積としては小さくなります。一般に広い範囲に分散して再エネが入るほうが、気象条件がばらけやすいために集合化の効果も高くなると考えられます。日本における蓄電池への期待には、その背景として、他の地域に比較すると集合化の効果が低い(ただし、現時点では確たるデータはないと思います)との懸念もあるかもしれませんが…。

安田:なるほど、確かにそうですね。広域連系しない前提だとそうなってしまいますね。とすると、日本においては、まずは広域連系をすること、そのうえで蓄電池よりも先に既存の揚水発電の積極的な活用ではないでしょうか。揚水発電の保有率は、日本は諸外国に比べて非常に大きいですし、やはり蓄電池に比べてコストの安い既存の揚水発電をまず先に使うということが重要です。

─舟橋:日本はまだ再エネの導入率が低いですしね。

安田:再エネの風力と太陽光の導入率が発電電力量ベースでわずか1.4%なのに、「蓄電池、蓄電池」、「安定性、安定性」というのは、これはもうまったくコスト的に合理性がないと思います。つまり、リスクも含めて全体最適設計されていないと思います。


▼ 注18
マイクログリッド(Micro-grid):スマートグリッド(Smart Grid)を構成する重要な要素のひとつ。「スマートグリッド」は、主に電力会社側が社会的なインフラを整備して、電力を効率的に利用するという色彩が強い面がある。これに対して、太陽光発電や風力発電等の再エネを用いた小規模な発電が、家庭や地域に普及してきた。このような発電方式は、従来型の電力会社の「集中型電源」に対して「分散型電源」といわれる。このような、家庭や地域などの利用者側に立って、家庭や地域における電力の効率的な利用を目指す小規模発電(分散型電源)システムの形態は、「マイクログリッド」と呼ばれる。

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