[特集:特別対談]

電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪後編≫

— 欧米に後れをとった「再エネ」の新しい展望を語る —
2015/02/28
(土)

再エネの変動対策に蓄電池を使うのは世界では実はマイナー

安田:まず大前提として、これも日本人のほとんどが誤解していると思いますが、風力発電や太陽光発電の再エネの出力の変動を抑制するために蓄電池を使うのは、世界的にはあまり主流ではありません注13

 いくつかのプロジェクトはありますが、まだ商用レベルではありませんし、基本的に蓄電池などをまったく使わずに、そのまま系統に再エネを直結しています。ですから海外から見ると、なぜ日本は蓄電池のようなコストの高いものをわざわざ使うのか? ということになるのです。

〔1〕短い変動周期は集合化で解決

─舟橋:変動周期は、分単位のお話ですか。

安田:ガバナフリー注14(数十秒〜数分程度)の変動に対しては、蓄電池はそもそも不要で経済的に合理性はないと、欧米でそのように結論付けている文献は多いです。

─舟橋:欧米では、そのような短い変動周期は何が(どこで)吸収しているのでしょうか。

安田:それは集合化注15といって、単純に何千台の太陽電池や風車の出力を電力系統に直結して広域で混ぜ合わせる、という発想です。広域でそれぞれ相関がないため、再エネによる短い変動成分は少なくとも系統運用に問題のない程度に平滑化され、電力系統全体で吸収できます。

〔2〕長い変動周期は従来型電源で制御

─舟橋:従来型の火力発電などがなくて、再エネの集合化だけで変動成分は除去できるのでしょうか。

安田:集合化しても、数十分以上の時間スケールでは変動成分は残りますので、従来の火力発電や水力発電などで変動を調整することになります。しかし数分程度、あるいはもう少し低い数十秒レベルの変動というのは、集合化によって比較的フラットになるということが、すでに欧米では10年にわたって経験があり実証されています。ですから、そもそもこの時間スケールの変動対策の蓄電池は必要がないのです。

─舟橋:それは、数分程度以下くらいの場合の小さい変動の場合の話ですね。

安田:そうです。辻先生がおっしゃったように、本来、蓄電池は系統の変動対策用に使うのではなく、EVあるいは家庭用の災害対策など別の目的で使うとよいと思います。別の目的で使っている蓄電池を、使用していない時間帯に二次利用として(副業として)電力系統を助けるというのは、これはコスト的にもよいことだと思うのです。

 これに対して、電力系統を助けるための専用の蓄電池を設置する、あるいは個別の風力発電所用の蓄電池を導入するなどというのは、かなりコストがかかります。単純計算しても、蓄電池の場合、キロワットアワー(kWh)当たりのコストは揚水発電の10~100倍も高いといわれています。

─舟橋:今のお話をまとめると、出力変動の周期が長い(大きい)時間の場合には蓄電池の役割というのは大きいけれど、短い変動の吸収のために蓄電池を使うというのはナンセンスだということですね。

安田:そうですね。風力発電用や太陽光発電用に、個別に専用の蓄電池を導入することも合理性がありません。これは、水の入った小さいバケツに石が放り込まれたときに、そのたびに発生した波を抑えるようなもので、これは制御が結構大変です。一方、複数のバケツの水を大きなプールに混ぜてしまえば、同じ石を投げ込んでも水面にさざ波は立つ程度で全体に与える影響はあまりありません。このように考えると理解しやすいと思います。

─舟橋:ということは、蓄電池は変電所などに置いたほうがいいということですか。

安田:その通りです。電力系統の変動成分もこれと同じで、全体で管理すれば制御も比較的容易でコストも安くすみます。ですから、蓄電池は系統側に置くのがよいと思います。もちろん場所によっては、需要家側に置いても風力や太陽光側に置いてもよい場合もあります。

 重要なのは、必ずしも発電側に置かなければならないという発想は、欧米にはないということです。

─舟橋:そうですね。蓄電池の果たす役割というのは、系統全体の中に位置づけて、1日単位の長い出力変動以上の場合に使用するのは非常に有効だと思います。

安田:はい。米国やドイツでも電力用蓄電池の開発プロジェクトはありますが、それは結局は蓄電池を変電所など系統側に置いて行う発想で、安いときに電力を買って、高いときに電力を売りに出すという裁定取引注16やリアルタイム市場入札のためという考え方です。

 欧米にはそのような電力市場があるから、今後ビジネスが成り立つ可能性があると考えられているのです。系統の変動対策用のためだけに蓄電池を使うというよりも、電力市場取引も意識して開発しているケースのほうが主流だと思います。

〔3〕米国カリフォルニア州の「AB-2514」とエネルギー貯蔵システム(ESS)の導入

─舟橋:ところで、さきほど安田先生から、「蓄電池はナンセンス」という話がありましたが、米国カリフォルニア州の電力会社「南カリフォルニアエジソン(SCE)」が州法の「AB-2514」注17に基づいて260MWものESS(エネルギー貯蔵システム)を大量に導入(調達)することを決定したということについては、どのように捉えておけばよいでしょうか。

安田:蓄電池の開発自体がナンセンスというわけではありませんが…(笑)。先日、この件で米国の研究者とメールで情報交換しました。米国では、エネルギー貯蔵システム(ESS)が今後非常に重要になると予測されています。系統全体で電力の変動(電圧変動や周波数変動)を管理するときにESSが必要であるということですが、これは個別の風力や太陽光の側で変動成分を何とかしなさいという原因者負担の発想ではないのです。

 再エネも含めた変動成分は、系統全体ですべて集合化して「ならした」うえで、揚水発電があれば揚水発電を使い、ないところでは、新しいESS技術を使いましょうということだと思います。しかも必ずしもESS=蓄電池ではありません。

 ところがこの情報が日本では、「すべて蓄電池で解決できる」「太陽光や風力に併設しなければ」というように、だいぶ間違って伝わっている可能性が高いと思います。

─舟橋:「全体でならす」ということが重要ですね。

安田:はい。米国の蓄電池ビジネスでも、日本と同じように「風力と蓄電池」「太陽光と蓄電池」という組み合わせも確かに存在しますが、蓄電池は脆弱な系統の末端などでないかぎり、本来系統の中のどこに設置してもよいのです。


▼ 注13
本誌連載「欧州の風力発電最前線!」にて後日詳説予定。

▼ 注14
ガバナフリー:Governor-Free。ガバナとは、発電機(蒸気タービン)などの回転機の調速機(速度調整機)のことをいい、回転機の入力を調整して回転速度を一定に保つための制御装置のこと。ガバナフリー運転とは、このガバナ動作に制限を設けないで、周波数の変動に対して自由にガバナを対応させて発電機を運転する状態をいう。
ガバナフリーの状態では、周波数が低下(発電機の回転が低下)した場合は回転機の出力が増加し、周波数が上昇(発電機の回転が上昇)した場合は出力が減少するよう自動制御されるため、電力系統の周波数の安定維持に効果を発揮する。ガバナフリーは、数十秒から数分程度の短い変動周期の負荷調整を分担する。
(参考サイト http://www.power-academy.jp/learn/glossary/id/451

▼ 注15
集合化 (aggregation): 数100 km四方の広域に分散された変動電源(風力および太陽光発電)の出力は互いに相関性が低いため、系統内で足し合わせることにより変動成分がある程度相殺されることがわかっている。太陽光の分野では「ならし効果」とも呼ばれている。

▼ 注16
裁定取引(arbitrage):価格差などを利用して売買し利ざやを稼ぐ取引のこと。もともと株式などの市場用語であるが、電力市場でも同様に用いられている。

▼ 注17
AB-2514:Assembly Bill No.2514、カリフォルニア州の「議会法案:2514番」。カリフォルニア州は、再生可能エネルギーが今後急速に増大・普及していくに伴い、エネルギー貯蔵が重要になることを予測して、3社の電力会社に対して2010年9月に制定した、エネルギー貯蔵システム(ESS:Energy Storage System)を義務付ける州法。
具体的には、①SCE(South-ern California Edison:南カリフォルニアエジソン)、②PG&E(Pacific Gas and Electric:パシフィックガスアンドエレクトリック)、③SDG&E(San Diego Gas &Electric:サンディエゴガスアンドエレクトリック)の3社に対して、2014〜2020年の期間に、1,350MWの大規模な電力貯蔵システムの導入を義務付ける州法となっている。詳細は、本誌『インプレスSmartGridニューズレター』2014年12月号参照。

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