[特集:特別対談]

電力自由化と日本の再生可能エネルギーの課題≪後編≫

— 欧米に後れをとった「再エネ」の新しい展望を語る —
2015/02/28
(土)

風力発電普及のための対策:制度的な出力規制を

〔1〕太陽光と風力の決定的な違い

─舟橋:とところで、日本では、図3のような風力発電導入のロードマップが発表されていますが、普及のための対策についてご意見をお聞きしたいのですが。

:先ほど出た制度的な問題ですが、日本でも風力発電の出力抑制を規制としてきちんと行うことが重要だと思います。そのほうが風力発電は広まると思います。適切な出力抑制をかけるためには、情報通信の体系を整えて系統大での協調運用を推進することが必要です。このような系統大でのスマートグリッド技術の進展が、求められてくるのではないでしょうか。

図3 風力発電導入ロードマップ:ビジョン(日本風力発電協会)

図3 風力発電導入ロードマップ:ビジョン(日本風力発電協会)

〔出所 日本風力発電協会「風力発電導入ポテンシャルと中長期導入目標 V4.3」、2014年5月 http://jwpa.jp/pdf/2014-06dounyuumokuhyou.pdf

安田:私も、まったく同感です。風力の事業者は、風力発電の出力抑制をすることに対してかなり理解があるような気がします。出力抑制をすると一見損をするように見えますが、そうしたほうがかえって普及するということについても、何年前もから電気学会などでも研究されていますし、多くの事業者はそれに合意していると思います。しかし、問題は太陽光です。太陽光のほうは少しでも削られたら(抑制されたら)ダメ、と感じておられる方も少なくないのではないでしょうか。

─舟橋:風力と太陽光の違いはどこからくるのでしょうか。

安田:1つは、太陽光の場合は、新規参入者があまりにも多過ぎて交通整理ができてないということだと思います。ですから、新規参入者に対する普及啓発活動などがすごく重要だと思います。

─舟橋:例えば電力会社がメガソーラー(大容量太陽光発電)をつくるという場合と異なり、電気にあまり詳しくない人が事業を始めるというようなケースですね。

安田:はい。FIT(固定価格買取制度)は再エネの市場を拡大することを目的としていますから、新規参入はウェルカムなのですが、そのような人たちもきちんとビジネスができるようにしていかないと、結局、失敗例がたくさん出てくることになってしまいます。

〔2〕アクセルとブレーキを同時に踏んだ状態

─舟橋:陸上風力発電にしても洋上風力発電にしても、日本で風力が普及しにくい理由の1つとして、導入・設置する際に環境アセスメント(環境影響調査)の期間が4、5年もかかって長過ぎるのですが、太陽光についてはせいぜい半年くらいで認可されます。
 また風力の場合には、漁業権の問題が解決つかないケースもありますが、この点については、普及との関係はどう考えるべきでしょうか。

安田:環境アセスメントに関しては、FITとほぼ同時に、厳しいアセスメントができてしまいました注19。自動車に例えると、FITはアクセルを全開にする方策であり、アセスメントはブレーキなのですが、風力の現状は同じ車の運転者(政府)がアクセルとブレーキを同時に踏んでいる状態です。ですから、FITで一斉にゲートがオープンになったときに、太陽光だけがスタートダッシュでき、風力はいきなりスタートと同時にブレーキを踏まれたことになります。これは日本のエネルギー政策のミスマッチと言わざるをえません。

 もちろん、アセスメント自体が悪いわけではありませんが、アセスメントの中で無駄な部分を精査し、かつ、いくつかの過程を同時進行で行ったり、同時に系統協議を行える仕組みを作ることが必要だったと思います。ところが、アセスメントが終了しないと系統協議に進めないため、4、5年もかかってしまうことになったのです注20

〔3〕風力発電と漁業権問題、電力市場の設計

安田:漁業権の問題に関しては、海外でも漁業権の問題もなくはないのですが、英国などは非常にうまく、ゾーニング注21をきちんととって計画を推進するので、解決が早いのです。

 しかし日本の場合には、そういった議論が国からも地域からもあまり上がっていません。ですから、民間の風力事業者は手当り次第によい場所(立地場所や海域)を確保してしまうため、そこでボタンのかけ違いが起きて、問題が起こってしまうわけです。ですからゾーニングというのは非常に大事な施策だと思います。

─舟橋:施策ということでいうと、電力市場の設計をどうするかについては、現在、どうなっていますか。

安田:電力市場については先ほど申しましたが、強い規制機関が存在しないのと表裏一体で、市場設計を誰がどのようにするかについて、日本ではほとんどまったく議論されていないような気がします。どこでどのようなグランドデザイン(全体設計)が描かれているのか見えません。

 電力自由化や発送電分離などと世間では騒がれていますが、重要なことは、ただ「自由化すればいい、分離すればいい」ということではなく、その後の市場設計をどう行っていくか、ということです。


▼ 注19
2012年10月に環境アセスメント法が改正され風力発電も環境アセスメントの対象となった。
http://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2012/09/240928-1.html

▼ 注20
現在、経済産業省 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会(第7回)で、アセスメント手続きの短縮化が検討されている。
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/007_01_00.pdf

▼ 注21
ゾーニング(zoning):地域によって土地利用を規制すること。この場合は、環境評価も含めて、開発の優先度や可否を切り分けて、漁業権の問題、地域の受容性、鳥類の問題(鳥が風力発電に衝突して死亡するなどの問題)、系統接続の問題等々を重ねてマッピングを行い、問題の少ないところから計画を推進する方法。

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