日本における「2006年問題」とマイクログリッドの研究開発
このような東日本大震災(2011年3月11日)を迎える直前まで、日本の電力システムは停電も少なく、世界でもトップクラスと言われるほど安定した品質の高い電力を提供していた。このため、日本ではスマートグリッドは不要ではないかとまで言われるほどであった。
しかし、このような日本においてもいくつかの地道なスマートグリッド(マイクログリッド)の研究開発が進められていたのである注1。
この中で、とくに2003年6月に発行されたJEMA注2の『分散電源の普及のための調査報告書』注3では、“従来の、「電力会社が電気をつくり消費者が使う」というだけの電力システム(大規模電源)ではなくて、需要者側に小規模な電力システム(マイクログリッド:分散型電源)を置いて、その両方が「連携」していくことを、もっと考えるべきである”という主旨の、スマートグリッドの基本となるような提案がなされたのである。
そしてもうひとつ、日本の次世代エネルギーの考え方の基本に大きな影響を与えた具体的事例として、「電力システムと日本の国際競争力」が密接に絡む「2006年問題」があった。
2006年当時、日本の産業は輸出に支えられ堅調に伸びていたが、一方では、中国をはじめ東アジアの大型石油コンビナートが次々に運転開始されようとしていた。そこで、これに対抗するコンビナートを構築し、そのために必要となる電力供給を緊急に間に合わせる必要に迫られた。そこで、コンビナート全体が電力会社に依存しないで、自分たちで電力をまかなえるよう、地域内で融通しあえる電力供給システムが検討された。現在でいえばコンビナート内の「地産地消」(自給自足)型の電力システムの研究が行われたのである。
そのため、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーなどを含む実証実験が活発に行われた。これは、日本の新しい「マイクログリッド」(小規模電力網)への取り組みの歴史的なスタートとなったのである注4。この基本的なコンセプトと研究は、その後、今日の日本のスマートグリッドの取り組みに大きな自信を与えるものとなった。
▼ 注1
例えば、古くは政府のサンシャイン計画(1974年)やニューサンシャイン計画(1993年)などの施策もあった。
▼ 注2
JEMA:Japan Electrical Manufacturers’Association、一般社団法人 日本電機工業会。1948(昭和23)年設立。
▼ 注3
http://www.jema-net.or.jp/Japanese/data/report_bunsan-2003.pdf
▼ 注4
参考URL:「新国際標準をつくるIECのスマートグリッド戦略を聞く!九州大学大学院 合田忠弘教授」(http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20110925/854)