PoEの誕生とIEEE
〔1〕PoEとは?
企業におけるICT(情報通信)環境は、生産性の向上を目指して次々に登場するネットワークシステムや新たな端末と歩調を合わせながら、急速に進化している。
最近登場し普及し始めた直流給電システム「PoE」(Power over Ethernet)とは、図1に示すように、イーサネット(Ethernet)の配線で利用されるUTPケーブル(より対線、表1)を通じて、電力供給側のイーサネットスイッチあるいはHUB(スイッチングHUB)から、電力受電側の端末に直流電力を供給する技術のことである。電力受電側の端末としては、無線LANのアクセスポイントや監視カメラ、パソコン用ディスプレイなどがある。
表1 UTPケーブル(LANケーブル)のカテゴリー
このようにイーサネットケーブルを利用して電力を供給できるようになるため、端末向け電源用の専用の配線が不要となったり、配線システムを簡素化して電力の導入時間を短縮できコストも低廉化できるようになったりと、大きなメリットをもっている。
図1 PoEによる直流給電の仕組み
〔2〕IEEE 802.3におけるPoEの標準化とシスコのUPOE
図2 IEEE 802.3at(PoE Plus)のアーキテクチャ
〔出所 http://www.cisco.com/web/JP/product/hs/switches/cat4500/prodlit/white_paper_c11-670993.html〕
こうした背景のもとに、米国の大手ネットワークベンダであるシスコシステムズ(以下シスコ)は、2000年にIP電話向けに、初のシスコ標準のPoEを発表した。この第1世代では、データを運ぶイーサネットケーブルから、端末に最大6.3Wの直流給電が可能となった。
このような動きに対して、2003年6月、IEEE(米国電気電子学会)はPoEの標準規格であるIEEE 802.3af(正式名称:IEEE 802.3af-2003)標準を承認した。この標準では、PSE(Power Sourcing Equipment、電力給電側機器)とも呼ばれるスイッチやHUBなどのネットワーク機器(電力供給側)から、PD(Powered Device、端末)とも呼ばれる端末機器(電力受電側)への供給電力は「最大15.4W」と規定された。UTPケーブルにおける電力損失が生じるため、PD(端末)が実際に利用できる最大の消費電力は12.95Wである。
さらに、2009年9月、より消費電力の大きな端末に対応するため、IEEE 802.3afと上位互換性をもつ拡張規格「IEEE 802.3at」(正式名称:IEEE 802.3at-2009。PoE Plusとも言われる)標準規格が策定され、直流給電能力を「最大30W」(受電側は最大25.5W)まで引き上げることが可能となった。この30WのPoE(IEEE 802.3at)による電力供給モデルのイメージ例を、図2に示す。また、PoE(IEEE 802.3at)を適用した電力供給モデルのイメージ例を図3に示す。
図3 PoE(IEEE 802.3at)による電力供給モデルのイメージ例
〔出所 http://home.jeita.or.jp/is/seminar/110210_igcs/pdf/4.pdf〕
図3に示すように、アクセスポイントやネットワークカメラ、多機能IP電話などの端末は、PoEによって給電されるため、専用の電源は不要となっていることがわかる。
さらにシスコは、CO2排出量の低減やピーク時の電力不足への対応、エネルギーコストの削減やスマートグリッドの登場などの社会的要請に対応し、省エネ、省電力化等に向けて、1ポート当たり最大60Wの直流の給電能力を備えたUPOE(製品:Cisco Catalyst 4500E 48-Port UPOE)を発表(2011年10月)。この60W PoEは、30WのIEEE 802.3at規格を拡張し、ダブル(30W×2=60W)にすることによって60Wを実現し、さらに高電力を必要とする端末に対応できるようになった。