[特集]

IBMの新電力ビジネス戦略!規制緩和後の新しい展開と課題 ≪前編≫ ─ スマーター・シティーへの取り組みと4つの業界モデル ─

2014/03/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

スマーター・シティの事例:ダイナミック・プライシング

また、別の経済産業省の4地域実証注3の北九州地域において、IBMは新日鐡住金、富士電機、北九州市などとともにこの実証に参画した(図6)。

図6 全体プロジェクト管理によるダイナミック・プライシング図6 全体プロジェクト管理によるダイナミック・プライシング〔出所 北九州市役所資料〕

ここでのスマートコミュニティの特色は、いわゆるダイナミック・プライシング、つまり動的に電気料金を変えていくという初めての実証を行ったという点にある。

2013年の夏でダイナミック・プライシングの実証開始から2年目に入ったが(経済産業省のホームページでも公開)、需要応答で電力のダイナミック・プライシングを行うことによって、平均9%から13%の電力使用をカットすることができたという実証結果も出てきている。これは全国規模で考えると、かなりの節電効果が出てくることが考えられる。

この点が、電力自由化時のビジネスの付加価値として、新しい電力料金の料金体系をつくっていく際の1つの選択肢になると考えられている。

スマーター・シティーの事例:風力発電とEVのエネルギー連携

IBMは2012年まで、デンマークのボーンホルム島のEDISONプロジェクトに参画した(一部現在も継続中)。ヨーロッパの中でもデンマークは再生可能エネルギー、特に風力発電の割合が高い。これからヨーロッパを中心に、2020年までに20%再生可能エネルギーを拡大させようと、地域全体が動いているが、再生可能エネルギーであるため、電源が不安定になるという観点から、ここでは、電気自動車もしくはプラグインハイブリッド自動車のバッテリーを連携させるということを実施している(図7)。

図7 風力発電とEVのエネルギー連携:デンマーク・ボーンホルム島EDISONプロジェクト<br />
図7 風力発電とEVのエネルギー連携:デンマーク・ボーンホルム島EDISONプロジェクト

ここでIBMは、

  1. どのバッテリーがどのくらいあいているかという個体の管理
  2. 風がいつ起こって、どのくらいの発電が止まったり起こったりするのかという発電予測
  3. どのバッテリーに蓄電、もしくは放電させるかの最適化

を行っている。当然のことながら、発電が止まってしまったり、風が吹かなくなったりしたときには、安定供給させるためにバッテリーのほうから電気をグリッド(送電系統システム)側に送る必要がある。そこで、それに対しては、先に述べたダイナミック・プライシングのような形で、価格にインセンティブを持たせて、ドライバーや車のオーナーに、グリッドに電気を流してほしいという要求を出す。

逆に、風力発電側に発電量が多いときには、グリッド側に問題が出てしまうため、必要な電気自動車向けに「充電をしてほしい」というインセンティブ情報を流す。このとき、通常よりも電力価格を安くして、蓄電要求の情報を流していく。

この再生可能エネルギーと電気自動車、プラグインハイブリッド自動車の連携の仕組みは、IBMでは「参加型のネットワーク」(後述)という表現をしている。

参加型ネットワークとは、今までのような、いわゆる電力を供給する電力会社が、必要な需要量に対して年間で安定的な供給をするための十分な発電装置を持っておくという考え方ではない。つまり、消費者(需要家)と連携しながら、必要に応じて消費者がもっている資産(ここではEV)や設備(ここでは蓄電池)などを借りて電力供給をしていけば、全体として電気の供給を、省エネを含めて下げることが可能になるのではないかということを意味する。そのためにはITは必要不可欠なものであり、IBMはITの側からこれを支援していく。


▼ 注3
2010年4月に開始された「次世代エネルギー・社会システム実証事業」の4地域(横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市)。
北九州市ホームページ⇒http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000041576.pdf

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