[特集]

2050年に向けて天然ガス・再エネの導入を加速する米国の最新エネルギー事情

― トランプ大統領「パリ協定」離脱表明後の実情 ―
2017/09/20
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

トランプ政権下の予算削減と新プロジェクトの推進

〔1〕研究開発プロジェクト予算:大幅削減へ

 トランプ新政権が発表したDOEの2018年予算は、表5に示すように2017年比で、

表5 DOE(エネルギー省)の2018年予算(BUDGET)

表5 DOE(エネルギー省)の2018年予算(BUDGET)

出所 Overview and Latest Topics Related to Energy Systems in the U.S. , SMART COMMUNITY SUMMIT, Tokyo June 8, 2017

  1. 配電・電力信頼性局(OE)が40%削減
  2. エネルギー効率・再生可能エネルギー局(EERE)が48%削減
  3. エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)39%削減

と厳しいものになった。

 これに伴って、多くの関連する研究プロジェクトの予算がカットされる事態を迎えており、米国における次世代に向けたエネルギー関連の研究開発が懸念されている。

〔2〕グリッド・モダナイゼーション:電力網の近代化を目指して

 一方、米国では、老朽化した電力網(グリッド)を刷新し、さらに再エネ時代に対応できるように電力網(グリッド)を最新化・近代化(モダナイゼーション)していくための取り組みである「グリッド・モダナイゼーション」注12がスタートしている(図8)。民主党のオバマ前政権時代から、スマートグリッド(Smart Grid、次世代電力網)をはじめ、多くのプロジェクトが取り組まれてきた。

図8 米国における従来の電力システムとグリッド・モダナイゼーションの違い

図8 米国における従来の電力システムとグリッド・モダナイゼーションの違い

出所 Grid Modernization Multi-Year Program Plan、2015年11月

 歴史的には、DOEにおいてSmart Gridプログラムが立ち上げられ、ARRA(American Recovery and Reinvestment Act of 2009、2009年2月に成立した米国復興・再投資法)に基づいて、2009〜2014年に35億ドル(約3,500億円)が予算化され、世界のスマートグリッドブームの引きがねとなった。

 この流れを受けて、トランプ政権では、オバマ政権から引き継がれたグリッド・モダナイゼーションを担当するGMI(Grid Modernization Initiative)の予算(2015〜2018年)、2億2,000万ドル(約220億円)が継続して承認された。このGMIの具体的な活動は、GMLCコンソーシアム注13が主導して推進している。

 GMLCが2015年11月に発表したのが、Grid Modernization MYPP(グリッド近代化複数年プログラム計画注14)という複数年プログラムである。この複数年プログラムは、今後2020年までの取り組みを明らかにしたものである。

〔3〕GMLCの実証実験の例

 GMLCには、スマートグリッドをはじめ燃料電池、太陽エネルギー、風力/水力、車両(V2G)、エネルギーストレージ、サイバーセキュリティなどを含む88の研究開発プロジェクトや、DOE 配下にある米国立エネルギー技術研究所(NETL:National Energy Technology Laboratory)をはじめとする14カ所の国立研究所などが参加しており、活発な実証実験が行われている。

 例えば、GMLCは、米国南東地域コンソーシアム(Southeast Regional Consortium)のプロジェクトチームのSRNLレジリエンシー(回復力の強い)プロジェクトの「SRNL二重無線ネットワーク・デモ」(Dual Wireless Network Demo)において、イリジウム衛星通信やLPWA(Low Power Wide Area、低消費電力型無線広域網)通信を用いた、グリッド・モダナイゼーションの実証実験の内容を公開している(2017年5月)注15

 このプロジェクトには、米国の大手電力会社であるデュークエナジーやSRNL(Savannah River National Laboratory、サバンナリバー国立研究所)など多数の団体・企業が参加している。

*    *    *

 以上、米国における最新の電力事情を見てきたが、米国の再エネの導入はこれからが本番である。

 トランプ大統領は、世界第2位の温室効果ガス排出量国である米国が「パリ協定」から離脱することを表明し、世界を驚かせたが、米国の州政府や各自治体、ITベンダをはじめとする多くの組織や企業は、すでに温室効果ガス排出対策(パリ協定)をベースにした電力システムや企業のビジネスを推進し浸透させており、政府の離脱表明には必ずしもすべて従うことにはならない。

 セキュリティ対策を行っていない製品が売れないように、今後、温室効果ガス対策をしていない製品は、長期的に見てグローバル市場(貿易など)で競争力をもたなくなるのは、自明のことだからである。


▼ 注12
グリッド・モダナイゼーション(Grid Modernization):マイクログリッドや再エネなどの分散電源や蓄電池など、これまで電力系統(グリッド)には接続されていなかった機器やシステムが電力系統につながってくるという時代の流れに対応できるよう、グリッドを進化させ、近代化していくという考え方。

▼ 注13
GMLC:Grid Modernization Lab Consortium、グリッド近代化に関する研究コンソーシアム。2014年11月設立。グリッド・モダナイゼーションを推進する組織。

▼ 注14
MYPP:Multi-Year Program Plan、複数年プログラム計画。機器と統合システムの試験をはじめ、センシングと計測、システム運用、電力潮流と制御、設計と計画ツール、セキュリティとレジリエンス、組織的な支援等6つの分野の取り組みが行われている。
https://energy.gov/sites/prod/files/2016/01/f28/Grid%20Modernization%20Multi-Year%20Program%20Plan.pdf
https://energy.gov/downloads/grid-modernization-multi-year-program-plan-mypp

▼ 注15
GRID MODERNIZATION INITIATIVE PEER REVIEW:GMLC 1.3.01 - Southeast Regional Consortium

▼ 参考資料
「トランプ大統領、パリ協定離脱を発表」、木村誠、世界のビジネスニュース(通商弘報)、JETRO、2017年6月5日

「トランプ大統領、前政権の環境規制を大幅に見直し-エネルギー自立と経済成長に関する大統領令に署名-」木村誠、世界のビジネスニュース(通商弘報)、JETRO、2017年4月6日

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