[「環境とビジネス」を一体にした新パラダイムへパリ協定はどう達成すべきか]

「環境とビジネス」を一体にした新パラダイムへパリ協定はどう達成すべきか《後編》

― 地球温暖化対策への取り組みは企業競争力を高める ―
2018/04/01
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

世界最大の物流企業のドイツポストDHLグループ(ブランド名:DHL)は、2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量をゼロにするという目標達成のために、同社の環境保護戦略プログラム「GoGreen」に基づいて、すでに5,000台の電気自動車(EV)を導入し、大きな成果を挙げている。
また、投資家はESG(環境・社会・企業統治)投資を重視するなど、時代は「価値観の大きな転換」を迎えている。
前編に続いて、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI) アジア太平洋地域 特別顧問の末吉 竹二郎氏と、積水ハウス株式会社 常務執行役員 環境推進部長兼温暖化防止研究所長の石田 建一氏のお二人に、国際的な地球温暖化対策の実情と企業としての取り組み、今後果たすべき役割などについて語っていただいた。

電気自動車(EV)を大量導入するドイツポストDHLグループ

〔1〕GoGreenプログラム:2050年にCO2ゼロへ

末吉 前編でお話しした、ドイツのボンで開催されたCOP23(2017年11月6〜17日)終了後、世界最大の物流企業であるドイツポストDHLグループ(以下DHL)を訪問しました(表1)。DHLは、日本のJALグループの230機(2017年3月31日末現在注1)に匹敵する貨物専用航空機を使用していますから、その規模の大きさがわかります。

 地上では、DHLが荷物を配送するエンジン駆動の自動車が大量のCO2を出しながら走っているわけです。そのDHLが、グループ全体で環境保護プログラム「GoGreen」注2に基づいて2050年までにCO2排出をゼロにするゼロ・エミッションを宣言し、プロジェクトを推進しています。

 ゼロ・エミッションを実現するため、「StreetScooter(ストリートスクーター)」と呼ばれるEV〔写真1および図1。StreetScooterは会社名でもある注3〕や、ラストワンマイルと言われる最後のデリバリをする配達車として、電動作業バイク(e-Bike、写真2)の開発や、電力の必要がない人力の自転車なども活用しています。

写真1 ドイツポストDHLグループのEV「StreetScooter」の外観

写真1 ドイツポストDHLグループのEV「StreetScooter」の外観

出所 Target met for 2017: 5,000 StreetScooters in service at Deutsche Post DHL Group、2017年11月28日

図1 2017年に5,000台の目標を達成したドイツポストDHLグループのStreetScooter

図1 2017年に5,000台の目標を達成したドイツポストDHLグループのStreetScooter

出所 Target met for 2017: 5,000 StreetScooters in service at Deutsche Post DHL Group、2017年11月28日

写真2 電動作業バイク(サポート速度:時速25km、航続距離:35km、蓄電池用容量:リチウムイオン電池、480Wh、運送容量:50kg)

写真2 電動作業バイク(サポート速度:時速25km、航続距離:35km、蓄電池用容量:リチウムイオン電池、480Wh、運送容量:50kg)

出所 https://www.streetscooter.eu/en/work-bike

〔2〕すでにEV「5,000台」が活躍

末吉 日本企業である日本郵政が、このゼロ・エミッションのような宣言をできるのでしょうか。あるいはヤマト運輸や佐川急便はどうでしょうか。

 そう考えますと、DHLはすごいことを実行していると思います。

石田 私も、DHLのEVを現地で見ました。DHLによると、自動車会社にEVの製造を頼んでも、仕様に合った良いEVを作ってもらえないので、当初は自動車会社を買収し、その後StreetScooterという会社を設立して、自社でEVを開発している、ということでした。

末吉 EV「StreetScooter」は、すでに2017年末には5,000台が配達用に配備され利用されており、1充電の最大航続距離は、現在、約80kmとのことでした。

 このように、グローバルな国際企業は、同社の経営戦略「GoGreen」に基づいて、いともあっさりと取り組んでいます。DHLを利用している市民は、あの黄色いDHLのEVが街を走っているのを見ると、みんな元気づくとのことでした。そういう時代の変化をきちんと受け止める必要があります。


▼ 注1
https://flyteam.jp/news/article/78685

▼ 注2
GoGreen:DHLグループ全体で実施する環境保護プログラム。2050年までにCO2排出量をゼロにすることを目標。

▼ 注3
StreetScooter:ドイツポストDHLとアーヘン工科大学(RWTH※)が2010年に共同で設立したEV関連の開発会社および車両の名前。2012年には電気仕様のプロトタイプを発表、すでに量産体制にあり、配達車として5,000台が走行開始している。StreetScooterには 「Work(3,700台が走行)とWork L(バンモデル、1,300台が走行)」のモデルがある。主な仕様:①モーター出力:48kW、②蓄電池:リチウム・イオン(20kWh)、③最高速度:85km/h、④レンジ(航続距離):最大80km。なお、2018年末までに米国フォードと協業している、トラックモデル「Work XL」の発表を予定している。
※アーヘン工科大学:ドイツ語では、Rheinisch-Westfalische Technische Hochschule Aachen/RWTH Aachen、英語ではRWTH Aachen University、https://www.streetscooter.eu/en/unternehmen

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