電気のトラッキングとは
〔1〕特定の発電源に由来することを証明
まず、電気のトラッキングの概念を整理する。
電気のトラッキングとは、ある需要家が消費する電気が、特定の発電源に由来することを証明することである。ただし、電力系統(送配電網)を流れる電気は、発電源の由来に関して物理的には識別不可能と見なし、電力系統を流れる電気の物理的な識別・追跡は行わない。
電気のトラッキングの基本的な考え方は、同一電力系統に接続される電源の発電量と需要家施設の消費量が等しく(電力の同時同量)、かつ当該電源から発電された電気が他で消費されていないと確認できるときに、特定の電源由来の電気が、特定の需要家によって消費されたと見なされて成立する注1。ここでの発電量と消費量の照合期間は、各システムによって異なる。
上記で、「ある需要家が消費する電気が」と記載したが、
- 事前に特定の需要家と特定の発電源の組み合わせが定義されている場合
- 発電後に電気から分離された属性価値を表象する証書が発行され、証書購入を通じて初めて決定する場合
がある。
〔2〕電気のトラッキングと電力証書
電気の「トレーサビリティ」もトラッキングとほぼ同義で使われる。「発電源証明」「原産地証明」「電源由来証明」「欧州のGuarantee of Origin (GO, GoO)」なども、トラッキングを実施して発電源の由来を証明することであり、その証明書類が「電力証書」や「Renewable Energy Certificate」(REC:北米等の再エネ証書。後述)などである。これらの証明書類には電源種、発電所の場所などの発電所の属性情報や、発電期間、発電量などの情報が含まれ、電子的手段または紙ベースで発行される。
電気のトラッキングを実現するトラッキングシステムは、発電源の由来証明を行うとともに、同一の電気を使用しているという主張(claim)が多重に行われないための仕組みを備えている必要がある。
電力証書は、再エネで発電した電気を、需要家が電力需要に適用したときの証明機能をもつ。そのほか、「特定の再エネで発電した」という電気に付随する属性の価値を、電気から分離して流通・販売させるのにも役立つ。この電力証書を適用すれば、実際に調達・使用した電気の由来とは関係なく、再エネの使用を主張できる。
電気のトラッキングは、原理的にはどのような発電源でも可能であるが、社会的にニーズが高いのは再エネのトラッキングである。これは、再エネを電力系統経由で調達する需要家(特に企業)が、マーケティング目的、RE100などのイニシアティブ注2への参加、その他の目的で、再エネの使用を対外的に主張するときに使用される。
【注】本記事は、以下の会誌に掲載された筆者の記事をもとに、加筆して掲載したものです。
一般社団法人 エネルギー・資源学会、会誌「エネルギー・資源」 2021年11月号 Vol.42 No.6、特集 「エネルギー分野におけるデジタル技術活用①(供給サイド)」、「ブロックチェーン技術は再エネトラッキング、電力証書発行・取引に有効か?」
Is blockchain technology effective for renewable energy tracking and energy certificate issuance/trading?)
▼ 注1
発電源と需要家施設が同一系統に接続されていることは、厳密に問われない場合もある。
▼ 注2
RE100はRenewable Energy 100%の略。The Climate GroupとCDPによって運営される、企業の再生可能エネルギー100%を推進する国際ビジネスイニシアティブ。