交流のサーバをいきなり直流で動かす
〔1〕直流電圧を何ボルトにするか
(1)直流380V(380VDC)の提案
データセンターなどに供給する直流電圧を何ボルトにするかは、10年以上も前から300〜600Vの範囲で議論されてきた。米国サン・マイクロシステムズ(現在:オラクル)から、図6に示すような模式的なサーバ(データセンター)などの電源の内部構成が提案され、この考えをベースに直流380V(380VDC)の審議が行われてきた。
図6 380VDC方式の提案(起案:Sun Microsystems)
EMIフィルタ:電磁ノイズ除去フィルタ(EMI:Electro Magnetic Interference、電磁妨害)
出所 廣瀬圭一「380VDC給電システムと国際標準化の動向」、2018年5月11日
(2)中国、直流240ボルトを交流入力仕様のサーバに供給
これまで、サーバへの電力給電は、図6に示すように、従来はAC(交流)電源を入力として、「⇒EMIフィルタ(電磁ノイズ除去フィルタ)⇒整流器(交流/直流変換器)⇒PFC(力率改善回路)⇒DC-DCコンバータ・・」という回路構成であった。このうち整流器とPFCを省略して、いきなり直流電力を給電してもサーバは動作することが、中国の関係者により検証された。中国では、交流のサーバなどに240ボルトの直流をそのまま(無改造のまま)給電して動作させている事例も一部ある。
これによって、電力給電ユニットの回路から、整流器やPFCなどを省略すれば、回路を簡素化でき、省エネが実現し、信頼性も向上することが実証された。ICT業界ではこの回路の380VDCへの採用が検討され、一部のICT機器では、製品化が実現している。
日本における直流給電の国際標準化の取り組みと事例
〔1〕IECに対する日本からの標準化提案
日本では、直流方式の国際標準化に向けて、どのような取り組みが行われているのだろうか。図7は、経済産業省の委託事業として、2015〜2017年度の「省エネルギー等国際標準開発 国際電気標準分野」において、日本電気協会と電気設備学会の下に設置された「直流給電システムに関する国際標準化検討委員会」の取り組みを示したものである
図7 2015〜2017年度「省エネルギー等国際標準開発 国際電気標準分野」での取り組み(経済産業省委託事業)
出所 廣瀬圭一「380VDC給電システムと国際標準化の動向」、2018年5月11日
同委員会では、すでにIECに対して次のような標準化提案(予定含む)などが行われている。
- IEC TC64:「直流データセンターに関する日本提案(採択済み)」、活動2018年7月以降
- IEC SC22E:「ラック内直流電源インタフェースに関する日本提案(予定)」、2018年秋以降
- IEC TC23:「ICT機器用接続インレット・カプラに関する日本提案(済)」、2018年審議開始
こうした活動を通して、従来、電気通信分野(電話局)に導入されてきたDC48Vや、データセンター分野で導入され始めているDC380Vも、適用範囲が拡大している(図8)。太陽光発電や電気自動車(EV)を含めたスマートホーム、スマートビル向けにDC48V、DC380Vなどの適用が検討されてきている。
直流方式は、従来のようなICT用途に限定されることなく、一般家電製品・器具も含めて同じように使えるポテンシャルをもち、すべて直流で統合できる時代を目指して、標準化活動が展開されている。
図8 直流(DC)利用の拡大:通信、データセンターから汎用的(住宅・商用ビル)な分野へ!
出所 瀬圭一「380VDC給電システムと国際標準化の動向」、2018年5月11日
〔2〕北海道・帯広市役所の直流配電システムの例
図9は、環境省の地球温暖化対策技術開発・実証研究(2012年度)事業によって構築された、北海道・帯広市役所(清掃課)建物内の直流配電システム(2013年11月発表)の構成である。
図9 北海道・帯広市役所(清掃課)建物内の直流システムの構成
BMU:Battery Management Unit、リチウムイオン電池の各セルの電圧やモジュール温度などを測定し、リチウムイオン電池を監視・制御する装置
EMS:Energy Managememt System、エネルギー管理システム
出所 廣瀬圭一「380VDC給電システムと国際標準化の動向」、2018年5月11日
データセンターだけでなく、太陽光発電、電気自動車(EV:三菱自動車のi-MiEV)をはじめ、テレビや冷蔵庫などの家電機器を含むマイクログリッド環境において、直流配電システムをICT以外にも適用した例である。
データセンター向けに開発された直流配電システムが、帯広市役所での実証によって、家電機器に至るまでの一般的な用途に適用できることが実証され、注目を集めた。