[特集]

福島県相馬市のスマートコミュニティ事業戦略とそうまIHIグリーンエネルギーセンター

― 再エネの余剰電力を最大活用して地産地消をめざす ―
2018/08/01
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

再エネを活用した2つの実証例

〔1〕実証例1:再エネ電力の最大活用を目指した汚泥乾燥実用化開発

 自治体にとって、下水汚泥処理はコストのかかる分野の1つであり、そのコスト軽減が求められている。スマートコミュニティ事業では、

①余剰電力が発生した場合に、電気ボイラーで蒸気をつくる

②必要なときに汚泥乾燥に使うための蒸気として、巨大な魔法瓶のようなアキュムレータ(蒸気貯蔵タンク)に貯めておく。下水汚泥が出てきたタイミングでこの汚泥を真空乾燥機と呼ばれる装置に供給し、含水率が90%となっている汚泥を乾燥させ、汚泥の含水率を20%(5分の1くらい)以下に減量化できるような仕組みをつくる

③乾燥させた汚泥を、成形機を通して、たばこのフィルターのような小さな燃料ペレットをつくる

という、一連の装置とシステムが構築された。

 現在、相馬市では、汚泥はそのまま市外の産廃業者に引き取ってもらっているが、その費用は実に年間4,000万円もかかっている。構築したシステムでは、その産廃処理費用を半分以下にできるため、産廃処理費用の削減のメリットも生まれる。加えて、汚泥を乾燥してつくったペレットはバイオマス燃料になるため、ペレットを燃やせばバイオマス発電も可能となる。

〔2〕実証例2:再エネを活用した

水素製造研究の実証設備

 図8に、再エネを合理的に活用した水素製造研究に関する実証設備を示す。今回導入した設備は、

図8 再エネを合理的に活用した水素製造研究 実証設備

図8 再エネを合理的に活用した水素製造研究 実証設備

出所 IHI配布資料、「福島県相馬市で展開する スマートコミュニティ事業の取り組みについて」、2018年6月28日

  1. アルカリ型水電解装置(KOH:水酸化カリウムを使用)
  2. PEM型の水電解装置(固体高分子を使用、前述)
  3. 水素の貯蔵タンク

などである。水素を製造するための余剰電力を、太陽光の状況に合わせて最適にするため、管理棟内に水素統括制御盤という制御システムを設置して、遠隔から操作を行えるような仕組みが構築されている。

〔3〕アルカリ型とPEM型の比較

 ここで、アルカリ型とPEM型の特徴を比べてみよう。

 アルカリ型は、効率はよいが、太陽光発電出力の変動に対しての追従性や応答性という面ではすこし遅いため、ベースロード向きの特性がある。これに対してPEM型は、効率は低いが、追従性も応答性も優れているため、太陽光発電の急激な電力変動に対しての追従特性がよい。

 このようなことから、アルカリ型とPEM型のそれぞれの特徴を組み合わせ、太陽光の出力変動に合わせて効率的に水素を製造できないか、などの実証を行っている。

今後の水素に関する先進利用研究の取り組み

 ここまで、相馬市で展開されているスマートコミュニティ事業の全体概要とともに、そうまIHIグリーンエネルギーセンターの設備構成などを見てきた。

 今後は、特に水素の先進利用研究の取り組みとして、水素の製造方法や利用方法も含めて、再エネの有効利用技術を実証しながら、次のような課題に取り組んでいく。

  1. 水素先進利用研究に適した研究インフラの構築
    ①水素製造・利用も含めた形で、再エネの有効利用技術を実証していく。
    ②水素供給インフラを整備し、長時間にわたる水素関連の実証試験を可能にする。
  2. 地域への貢献
    ①図9に示すような水素関連の研究を、国内外の研究機関・企業と共同で行えるオープンイノベーションの場を提供することによって、研究者などの交流人口を増加させ、これによって地域の活性化を図っていく。
    ②地域に、水素などの科学・エネルギーを身近な存在にするための活動の取り組みとして、地域の小中学校と企業との連携による体験学習を実施していく。
  3. 「水素キャリア」への変換技術も
     2019年度は、このスマコミ事業・水素研究エリアに水素研究施設の建設を計画(前出の図5の赤枠「計画中」を参照)し、すでに取り組んでいる図9に示す、水素関係の研究について展開していく計画となっている。
    ①水素の効率的な製造技術
    ②水素(H2)と窒素(N2)を、触媒を介して合成し、アンモニア(NH3)という形にして水素を運べるようにする「水素キャリア」への変換技術
    ③②のアンモニア(NH3)を現地に運搬し、アンモニア(NH3)を直接発電の燃料に利用する技術

図9 IHIの水素関連研究開発候補(例)

図9 IHIの水素関連研究開発候補(例)

出所 IHI配布資料、「福島県相馬市で展開する スマートコミュニティ事業の取り組みについて」、2018年6月28日

◎取材協力(順不同)

  • 株式会社IHI ソリューション・新事業統括本部 ソリューションエンジニアリング部 主査 高井 紀浩 氏
  • 同技術開発本部 技術企画部 技術調査グループ 主幹 平田 哲也 氏
  • 同ソリューション・新事業統括本部 ソリューションエンジニアリング部長 中島 精一 氏

福島県相馬市におけるスマートコミュニティ事業の各設備

ここでは、記事本文で解説した、スマートコミュニティ事業における「CO2フリーの循環型地域社会創り」を目指して実証されている各設備を紹介する(写真は編集部撮影)。

写真1 相馬中核工業団地におけるスマートコミュニティ事業のスマコミ事業・水素研究エリア(そうまIHIグリーンエネルギーセンター)の外観

写真1 相馬中核工業団地におけるスマートコミュニティ事業のスマコミ事業・水素研究エリア(そうまIHIグリーンエネルギーセンター)の外観

右から、①地域エネルギーマネージメント(CEMS)管理棟、②中央3つが大容量蓄電池設備、③災害時の燃料電池発電設備(BCP)、④水素貯蔵タンクと続き、その左側に(この写真には写っていないが)水素製造研究設備(後出の写真10、写真11など)などがある。
左の電柱は「そうまIグリッド合同会社」が運営する6.6kVの自営線(配電線)。

写真2 CEMS管理棟におけるエネルギーマネージメント用のパソコン群

写真2 CEMS管理棟におけるエネルギーマネージメント用のパソコン群

写真3 CEMS管理棟に設置されたディスプレイ

写真3 CEMS管理棟に設置されたディスプレイ

そうまIHIグリーンエネルギーセンター内の太陽光発電の発電電力や蓄電池の充放電量、使用電力量、電力自給率などの様子を表示している。相馬市役所にも同じディスプレイが設置され、市民も見ることができる。

写真4 CEMS管理棟に設置された制御機器室

写真4 CEMS管理棟に設置された制御機器室

左からCEMSのラック(黒色)、中央が逆潮流防止(地産地消)制御ラック、水素製造統括制御盤(右端)。

写真5 大容量蓄電池設備(リチウムイオン電池)と自営線の電柱(後方)

写真5 大容量蓄電池設備(リチウムイオン電池)と自営線の電柱(後方)

蓄電池容量:2,500kWh、パワーコンディショナー(PCS)出力:500kW。

写真6 新設された先進型の太陽光発電設備(後方)とパワーコンディショナー(PCS、手前)

写真6 新設された先進型の太陽光発電設備(後方)とパワーコンディショナー(PCS、手前)

太陽電池出力:1,600kW、PCS出力:1,250kW。

写真7 蓄電池システムのパワーコンディショナー盤

写真7 蓄電池システムのパワーコンディショナー盤

写真8 災害時対応設備:25kWの燃料電池発電システム(BCP)

写真8 災害時対応設備:25kWの燃料電池発電システム(BCP)

デンマークのBallard Power Systems Europe A/S社製。

写真9 実際の災害を想定して燃料電池を稼働させ、ランプを点灯させるデモも行われた。

写真9 実際の災害を想定して燃料電池を稼働させ、ランプを点灯させるデモも行われた。

写真10 PEM型水電解水素製造装置(水素製造能力:30m3/h)(日立造船株式会社製)

写真10 PEM型水電解水素製造装置(水素製造能力:30m3/h)(日立造船株式会社製)

写真11 アルカリ型水電解ユニットの入っている建物(水素製造能力:25m3/h)(旭化成株式会社社製)

写真11 アルカリ型水電解ユニットの入っている建物(水素製造能力:25m3/h)(旭化成株式会社社製)

特性の異なる2種類の水電解装置(写真10のPEM型と写真11のアルカリ型)を組み合わせて余剰電力の最大活用制御も実施されている。
写真11の右2つは、大型水電解パイロット設備の様子。真ん中は水電解槽スタック、右は陰/陽極タンク。

写真12 下水汚泥乾燥設備(バイオ燃料製造実用化開発)内の汚泥乾燥用の真空乾燥機

写真12 下水汚泥乾燥設備(バイオ燃料製造実用化開発)内の汚泥乾燥用の真空乾燥機

再エネ電力の最大活用を目指している。含水率約90%の脱水汚泥を、蒸気を使って乾燥させ、質量を約5分の1、含水率を約20%に減量化する。

写真13 下水汚泥乾燥設備の外に設置されたアキュムレータ(貯蔵タンク)

写真13 下水汚泥乾燥設備の外に設置されたアキュムレータ(貯蔵タンク)

電気ボイラでつくられた蒸気はこのアキュムレータに貯められ、汚泥を乾燥するために使用される。
太陽光発電電力が、写真15に示す自営線を通して供給されている。

写真14 造粒成形機

写真14 造粒成形機

含水率を約20%に減量化された汚泥はここでペレット化され、バイオマス燃料としても利用できるようになる。

写真15 下水汚泥乾燥設備につながる電柱と柱上トランス

写真15 下水汚泥乾燥設備につながる電柱と柱上トランス

下水汚泥乾燥設備(バイオマス燃料製造用)にも、自営線(3相6.6kV)で配電される。

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