実証事業に関する4つの課題への取り組み
〔1〕課題A1:広域分散エッジシステムの連携技術
前出の図4に示した4つの課題のうち、<課題A1>の広域分散エッジコンピューティングシステムの連携技術(NTT西日本が担当)を中心に紹介する。図8に、NTT西日本管内にある大阪市内2つのエッジコンピューティングの拠点を示す(実際は広域分散なので、エッジシステムの拠点はもっと多い)。
図8 (課題A1)広域分散エッジコンピューティングシステムの連携技術
出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】
NTT西日本では、大阪市内にリング状の光ファイバ(都市リング)を敷設している。そのリングに対応する形でいくつかのエッジコンピューティングシステムの拠点がある。そのうち今回の実証では、大阪市内に、此花(このはな)ビル(図8左下)と、都島(みやこじま)ビル(図8右上)という、規模としてはほぼ同じの2つのエッジコンピューティングシステム拠点を設けた。2つのビルは10㎞程度離れている。この2つのシステムを使用したシステム間の広域連携の実証を行っている。
(1)AIエンジンを活用
従来は、ビル内において最適配置をしていたが、今回の実証では、此花ビルと都島ビルの2つの拠点を連携させて、どちらに稼働を配置すれば省エネになるかといいうことを面的に検証する実証を行っている。この面的に検証する際に、AIエンジン(EEC総研が開発)によるエネルギー予測に基づいて最適配置が行われる。このAIエンジンは、今回の実証のコア技術の1つとなっている。
例えば、2つの拠点のうちどちらを選択するか、あるいは両方の拠点をどうバランスよく使うかについては、各拠点の外部条件である気温や湿度など気候の違いによって空調の消費電力が異なったり(極端な場合:拠点が北海道と沖縄)、また此花ビルのシステムが100%に近い稼働状況であった場合、これを図8右下に示す豊中ビルのシステムに分散させたりするなど、システムの置かれた環境条件やシステム構成によってもオペレーションが異なってくる。このため、AIエンジンによって、こうしたオペレーション条件が変わるごとに最適なタスク配置を行い、低消費電力化を実現している。
(2)CMC(クラウドをクラウドで制御)を実証へ
従来は、データセンターあるいはクラウドの中に、コントロールセンターがあった(クラウドによって管理されるクラウド)。ところが、エッジの数は、10カ所、20カ所あるいは全国規模で、今後どんどん増加していく。それらのエッジを管理するために、すべてのエッジコンピューティングシステム内にコントロールシステムを配置するというのは経済的ではない。また、人手不足から無人化への期待もある。
そこで、マネージメントシステムを図8右下の豊中ビルに設置し、豊中ビルからネットワーク経由で此花ビルを制御したり、都島ビルを制御したりというように、クラウドをクラウドで制御するCMC(Cloud Managed by Cloud)という発想が提案され実証されている。あるクラウドを、別のクラウドから遠隔操作して制御するという考え方である(写真1は此花ビル内のサーバ群)。
写真1 220個のサーバが設置された実証実験の様子(此花ビル内)
富士通のサーバ群。正面は壁吹き出し方式の空調(1台あたり56kWの処理能力)
出所 編集部撮影
写真2 Spine and Leaf Architecureに基づいたラック構成
出所 編集部撮影
それぞれのラックには、Zeonサーバ〔Zeon(ジーオン):IntelのCPU〕だけでなく、Spine and Leaf スイッチが格納されている(Spine and Leaf Architecture、写真2)。つまり、Spine(背骨)スイッチとLeaf(枝葉)スイッチの役割を分けることで、2階層のネットワークを構築し、Spineスイッチには、サーバなどの処理ノードは接続せず、トラフィックを効率的に転送することに専念させる。
そして、Leafスイッチにサーバやルータなどの処理ノードを接続し、スイッチの役割を分担させることで、帯域が必要な場合はSpineスイッチを追加し、ノードの収容台数を増やしたい場合は、Leafスイッチを増設するという、仮想化環境を構築している。
さらに、最近では、システムの稼働が均等になるような考え方に基づくコンピューティングとして、Osmotic Computing(浸透圧コンピューティング)が登場注5しているが、同実証ではその改訂版として、エッジ間連携や処理遅延も含めた処理機能の最適配分の開発が検討されている。
〔2〕課題A2:5G基地局とMECの省電力化
<課題A2>として、エッジコンピューティングシステムの拠点の1つともなる5Gの基地局は、高い周波数や多数のアンテナを利用することなどから電力消費が大きい。これらの省電力化が課題となっている。同実証では富士通が、5G基地局に設置されるMECについても抜本的な省エネに挑戦している。
〔3〕課題A3:通信システムの省エネ技術の開発
(1)現状の冷却方法の課題
<課題A3>の通信システムの省エネ技術の開発は、NTT西日本が担当している。
通信システムが稼働している通信局舎内における電力消費は、ほとんどがスイッチとルータで、他のOLT(Optical Line Terminal、光回線終端装置)などは光関係の部品であり電力がほぼ不要である。
そのため、スイッチとルータの2種類の通信機器さえ冷却すれば、かなりの省電力が期待できるが、現在は、2つの通信機器を冷やすためだけに、通信局舎(通信ビル)を(エアコンで)冷やしているため、余計なエネルギーを大量に消費している。今後、エッジが設置されるようになると、その電力消費も急増していくことになる。
(2)ホットスポット部分だけを個別冷却
図9左に見られるように、従来は、ルータ(あるいはスイッチ)だけがホットスポット(集中的な発熱点)であるのに、通信局舎全体を冷やしていたため消費電力が高かった。そこで実証では、図9右に示すように、ルータ(ホットスポット)の部分だけを個別冷却し省電力化を実現する。これは写真3に示すように、じゃぶ漬け(液浸)方式を適用して行われる〔ルータを特殊な液体(液体名:3M社のフロリナート。フッ素系不活性液体)に漬けて冷却する〕。つまり、図9左の赤い部分(ホットスポット)だけを冷却する方式である。これによって、大きなCO2削減効果(2030年までの390万トンの削減効果)が期待されている。
図9 ホットスポットの解消による空調電力の削減
出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】
写真3 ルータをじゃぶ漬け(液浸)方式で冷却し省電力を実現
ルータ用の冷却技術としてH28(2016年)環境省事業で開発中。すでに原理確認は終了している。今回、光通信機器搭載による光通信の安定性向上と、複雑な構造に対する冷媒の循環の効率化が技術的な課題である。
出所 環境省平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業:【5G基地局を構成要素とする広域分散エッジシステムの抜本的省エネに関する技術開発】
▼ 注5
IEEE Cloud Computing, Volume: 3, Issue: 6, Nov.-Dec. 2016